五話 真実
事故の詳細は明らかにされた。あとは加害者だったはずの河原が、どうすれば事故を動機に藤堂の悪いうわさを流したのか。
ついに真実が明らかになる。
俺は河原を対策室に残し、校内を走り回った。
今回の件に関係している人間に、俺の仮説を話すために。
そう、あくまでも仮説なのだ。だが、俺は大人で、相手は子供だ。絶対に納得させてやる。
河原のウソの動機。4月の事故。
この半年間の関係者の思惑を、全て暴いてやる。
子供だからって容赦しねえぞ。
俺は来てほしい人物を放送で呼び出した。あとは放課後になるだけだ。
「やあ桐生君、顔つきが変わったね。さっきの放送も何か関係があるのかい?」
俺がせっかく決意しているのに、どうしてぶち壊してくれるんだ。
「岡本先生、だから話せないって言ったでしょう。解決するまではね。」
「だから、解決したんだろう?顔が変わったっていうのはそういうことさ。きっと、河原ちゃんがどうしていじめられているなんて言ったのか、気づいたんだろう?」
まさか、この人は、全てわかっていたんだろうか。そんな口ぶりだ。
「まさか、あなたは・・・」
「おっと、買いかぶらないでくれよ。俺は河原ちゃんにも、藤堂ちゃんにも、何の話も聞いてない。真相に気づけるわけないだろう?」
岡本先生は、そういうと、俺に背を向け、手を振りながら言った。
「まあ、俺は事態の解決を願っているからさ、頑張ってくれよ。終わったら、話を聞かせてくれよ!」
岡本先生は廊下を歩いていった。が、曲がり角の前で止まり、こっちを振り返る。
「あ、そうそう。桐生君。真実は何だろうが、相手は子供だ。取り返しのつかないことになるのだけは、避けたほうがいい。」
最後にまともなことを言って去った。いまいちつかめない人だ。
彼は、ほんとに何も知らないのか?あの人の情報網なら、真相にたどり着いてもおかしくはない。
まあいい。職員室に戻るとしよう。あの人にも何か言われるはずだ。
「桐生先生、ついに解決ですか。」
俺が座るなり、西條先生は俺に話しかけてくる。
「ああ。」
「私は終わるまで、何も聞きません。文化祭の準備のせいで、ほとんど手伝えなかったんですから。押し付けたみたいで、本当に申し訳ないです。」
いや、その点については別にいいんだが。生徒の基本情報を教えてくれたのは先生だ。感謝しているといってもいいくらいだ。というか、やけに今日はしおらしいな。
「いや、」
「その代り。文化祭が終わったらみっちり手伝いますから!サボらせませんからね~!」
俺の言葉を遮り、とんでもないことを言い出した。
「い、いやそれは大丈夫だ・・・」
「遠慮しないでください!生徒に話を聞くの、私得意ですから!」
「いや、だから・・」
くそ、この展開は非常にまずい。俺のブレイクタイムのピンチだ・・・
「おー桐生君、昨日も屋上でブレイクタイム楽しんだ?」
岡本てめえええ!なんて爆弾を放り込みやがる!
「桐生先生・・・?ブレイクタイムって・・・また昼寝?」
やばい!命の危機だこれは!
「桐生先生!!!」
対策室の担当になって四回目の放課後か。
いよいよ、河原恵美を救うことができるんだろうか。
俺が担当になって一週間、その前までで約一か月。きっと河原も、藤堂もつらかっただろう。
その河原や藤堂を心配する剣道部も、きっと心配した。
だから、こんなことは許されない。たとえ、どんな理由があっても。
「きりっちなんだよ、こんなとこに呼び出してさ。」
「悪いけど、俺は対策室に用なんかないぜ?」
最初に現れたのは、1年4組、剣道部の渡辺龍。そして、なぜか呼んでもいない夏川一矢。
「お前は呼んでないんだが。なんだ?恋の悩みでも話しに来たか?」
「うっせえよ!だから対策室に用はねえっての!」
わめく夏川を制して、渡辺が不機嫌そうな表情で口を開く。
「きりっち。どういうつもりだよ。きりっちが呼んだメンバー・・・何考えてんの?」
ふん、渡辺は事故の秘密を隠そうとしているからな。俺が読んだ面子で大体察したのだろう。
「何考えてるも何も、4月の剣道部の事故について、そして河原のいじめ問題について、ここで明らかにさせるんだよ。」
「ふざけんな!蒸し返すなっつっただろ!?事故と河原の話と、何の関係もねえだろうが!」
「ある。」
「へ?」
俺がそう断言すると、渡辺は意表を突かれたかのようにアホな声を出した。
「あるから話すんだろうが。お前は特に河原や藤堂とかかわりが深そうだからな。来てもらったんだよ。夏川は知らんが。」
「へっ!藤堂もここに来るんだろ?だったら俺が来ない理由はない!」
「呼んだかしら。」
扉が開かれ、現れたのは剣道部のエースで、河原の親友、藤堂みゆきだ。
「よよよよよ、呼んでねえ!」
「そう。あら、夏川くんは放送で呼ばれていなかったと思ったのだけれど。龍についてきたの?」
「そ、そーそー!渡辺がどうしてもってさ!」
夏川・・・いくら片思い中だからと言って、挙動不審になりすぎだ。
藤堂はさして興味なさそうに会話を終え、夏川の横にいた渡辺と目を合わせ、うなずいた。
「先生。何をするつもりですか?」
「事故と河原の話を明らかにする。」
俺が短く言うと、藤堂は不快そうな顔でこう言った。
「先生、恵美の件は解決できそうなのですね。それは感謝します。でも、あの事故のことは、もういいではないですか。あの事故は、ショッキングだった。誰も思い出したくないんです。」
「よくねえよ。その事故を思い出したくない?そんなわけはねえ。お前らは逃げてるだけだ。あの事故にとらわれたまんまのやつが、二人もいるっていうのにな。」
渡辺と藤堂は、訳が分からないという顔をしている。
「河原、いるんだろ。入ってこい。」
一同は驚き、扉のほうを向く。扉が開かれ、そこに立っていたのは、河原恵美だった。
「え、恵美!」
藤堂は親友の名を呼び、次に複雑そうな顔をした。河原は一人ではなかった。
河原の後ろには、もう一人少女がいたのだから。
「よお、河原。もう大丈夫だぞ。いじめ問題は解決してやるからな。」
河原はビクッと体を震わせ、うつむいた。俺の言葉の意味が、分かっているようだ。
そして、河原の後ろの少女に向けて、俺はつづけて話しかける。
「それから、お前の名前、昨日知ったわ。みんなに追いつけたか?いっぱい休んじまったから、大変だったろ。」
河原の後ろに立っている、青い顔でうつむく少女。、彼女の名前は・・・
「なあ、木崎杏理。」
それが4組の教室で宿題をしていた、あのメガネっ子の名前だ。
「ど、どうして杏理が・・・?」
藤堂が驚くのも無理はない。メガネっ子改め、木崎杏理が来ることを知っていたのは俺と河原だけだった。
放送で呼ぶと、藤堂や渡辺が止めようとするだろう。だから、俺がじきじきに招待したというわけだ。
「先生。どうして私がこんなところに来なければならないんですか?みたところ、みんな河原さんのいじめに、少なからず関係している人たちみたいですけど。」
木崎は余裕の表情で俺に抗議する。
「どうしてそう思うんだ?河原のいじめの関係者ばかりって、どうして思う?」
「ど、どうしてって!藤堂さんがいじめの犯人なんでしょう!そして、それを相談された渡辺君も関係者じゃないですか!」
俺の返しが気に入らなかったのか、木崎は大声になった。しかし、一番取り乱したのは藤堂だ。
「な・・・どういうこと、杏理・・・私が・・・恵美をいじめた犯人・・・?」
「そうよ!あんたは河原さんが気に入らなくて、陰湿ないじめを繰り返したのよ!」
「う、うそ!私がそんなことするはずない!そうよね恵美。そんなこと、いってないわよね?」
河原は、いまだうつむいたままで、藤堂と目を合わせようとしない。すべてを悟った藤堂は、がっくりとうなだれた。
「そんな・・・恵美、どうして・・・」
絶望に襲われる藤堂をしり目に、次に言葉を発したのは、渡辺だ。
「え・・・あの・・・」
「どうした渡辺。何か言いたいことがあるのか?」
きっと。渡辺はもう気づいている。木崎の発言の不審な点に。
「いや・・・木崎はどうして知ってたのかなって、思ってさ。」
「え・・・?ど、どういうこと?龍。」
藤堂が渡辺を問いただす。渡辺は言いにくそうに続ける。
「いや・・・お前には悪かったけどさ、俺ら、知ってたんだわ。河原がそうやってうわさを広めてたのをさ。」
藤堂は何かいいたそうな顔をしたが、やめたようだ。気持ちはわかる。隠していた自分への気遣いから、文句を言えなくなったのだろう。
そんな藤堂を気にしながらも、渡辺は続ける。
「でもさ、それって俺らだけの秘密にしてたんだよ。絶対に、誰にもばれてない自信があるぜ。なのに、どうして木崎はそれを知ってんだろーって、思ってさ。」
「上出来だ、渡辺。」
俺は渡辺に賛辞の言葉を送り、青い顔をして入口に立っている木崎に目を向ける。
「どうだ木崎。どうして知っていたのか、説明してくれるか?」
木崎は言葉を探しているようだ。そこに俺は畳み掛ける。
「お前がここ半年休んでいたのは知ってる。出欠表を確認させてもらったからな。それでも、復帰した日に偶然にも聞いたっていうんなら、誰がどこでしゃべっていたのか、聞かせてくれ。」
「・・・・なの」
「ああ?」
「なんなの!?先生がやることって、河原さんを助けてあげることでしょ!?藤堂さんを責めることでしょ!?なんで関係のない私を、そんなに追いつめるの!」
木崎は半狂乱になって、まくしたてる。そんな木崎を呆然として見る一同。
「関係なくねえだろ。お前が、河原に命令したんだからな。藤堂にいじめられているっつーウソを言えってな。そうだろ河原。」
「違うわ!そうよね河原さん!こんな、こんなウソってないわ!私は、ずっと学校を休んでた!そんなこと、できるわけないでしょ!
「いい加減にしろ!」
俺は痺れを切らして怒鳴った。静まり返る対策室。
沈黙を破ったのは、河原恵美だった。
「ぜ・・・全部、先生の言うとおり・・・」
「え、恵美!」
「無理だよ杏理ちゃん・・・もう、私辛いよ。みゆきちゃんをこれ以上傷つけるなんて、そんなこと・・・」
「何を言ってんの!藤堂さんにいじめられてるって、言いなさいよ!」
木崎が河原にじりじりと近寄る。それを止める渡辺と夏川。
「は、離して!」
「木崎。もういいだろ。復讐なんてもんはロクなもんじゃあない。」
「ふ、復讐・・・?」
今まで黙っていた藤堂が口を開く。
「復讐って何?わたしが、杏理に何かしたというんですか?」
「あはは・・・ここまでね。」
木崎があきらめのため息と笑みを浮かべる。
「そうよ。今回のことは全部私が恵美に命令したことよ。」
「あ、杏理ちゃん・・・」
「本当はもっと、うまくいくはずだった。恵美がうまく言いふらせていればね!まさか、みゆきの名前を剣道部以外に言ってないとは思わなかったわ。その剣道部のやつらも、みゆきを庇って他の生徒に漏らしたりしなかった。どうして、どうしていつも、みゆきなのよ・・・」
もうすべて吐く気満々なようだな。追い詰められた犯人の気分なんだろうか。中学生にはあまりにも重い。
「俺に情報を流したのは、偶然だったんだな?」
「大事にしてくれそうな先生だったけど、まさか私に話しかけてくるとは思わなかったわ。ここで、みゆきの動機を植え付けることで、うまくいくと思ったのよ。」
動機。そのきっかけは河原が部を辞めた原因にある、ということ。つまり、あの事故について俺に調べさせようとしたわけか。
「そこまでして、どうして・・・?」
発言したのは渡辺だ。人気のある藤堂を貶めようとした、木崎の動機がわからないのだろう。
「相変わらず渡辺君は馬鹿ね。決まっているじゃない。あの事故の被害者は私よ?その復讐に決まってるじゃない。」
「ち、違う。藤堂は、あの事故とは関係なかったはずだ。なのに・・・」
あの事故の加害者は河原恵美。被害者は木崎杏理。確かに、藤堂みゆきは関係ない。
事故当時、木崎はきっと藤堂への憎しみはなかったはずだ。
「私は事故で、3か月意識を失ってた。目を覚ましたときのあの絶望、あなたたちにわかる?もう剣道もできない。私に残ったのは、目の上の傷だけ。」
木崎が大きめのメガネをはずすと、痛々しい傷跡が姿を現す。傷を隠すために、不格好なメガネをかけていたというわけか。
「そんな中、夏休みに恵美が私のところに謝りに来たわ。私は絶対に許さない気持ちだった。病室にも入れなかった。」
河原はすでに泣いていた。藤堂もそんな河原を見て泣きそうになっている。
「でも、恵美は私の病室の前でべらべら学校のことをしゃべりだしたわ。どうでもいいことをね。でも、みゆきが剣道部のエースになってるって聞いたとき、思ったわ。どうして私ばっかり、って。みゆきばかりがちやほやされて、私はこんなことになって。」
「それで藤堂をもはめようとしたんだな。」
「人望のあるみゆきを貶めるには、親友の口から悪いうわさを流す必要があるって思ったの。まさか恵美が部を辞めて、みゆきと疎遠になって、誰にも親友って知られていないとは思わなかった。私自ら先生に話すことも考えたけど、怪しまれたら元も子もないからね。」
河原自身、信頼ある剣道部のメンバー以外には、豊田や香山にしか話していなかった。その両名は何もしてくれなかったし、親には藤堂の名前は出していなかったようだしな。河原の、唯一の抵抗だったんだろう。
「ど、どうしてお前自身誰にも相談しなかったんだ・・・?」
つぶやいたのは夏川だ。お前、まだいたのか。
「決まってるでしょ?親は私に関心なんかない。仕事が一番大事な人たちだからね。渡辺達にいったって、誰も協力なんかしてくれない。みんな、みんなみゆきのことが好きなんだから。」
木崎はこぶしを握りしめながらも、悲痛な笑みを浮かべている。渡辺は気まずそうに河原や藤堂の様子を見ている。
「恵美がみゆきをはめるっていうことに苦しんで、みゆきは信頼がなくなる。これが私の計画だった。恵美が大分もたついていたけど、私は楽しかったわ。それだけ恵美が苦しんで、悩みぬいてるってことじゃない。私の体と心の傷の痛みは、こんなもんじゃなかったわ。」
だが、さすがの木崎も久々に学校に来たとき、痺れを切らしたのだろう。藤堂の評判は、まったく変わっていなかったのだから。それどころか、事故の件も広まっておらず、自分は全然心配されない。それで、俺にヒントを与えたというわけか。
「恵美を病室で命令した時、そりゃあたしも罪悪感があったわ。でも、一番かわいそうなのは私じゃない!そう思ったから、恵美もひと月もいうことを聞いたんじゃない。」
「ほ、ほんとはしたくなかった!みゆきちゃんのこと思うと・・・ でも、杏理ちゃんを怪我させたのは、私だし・・・いうことを聞いたら許してあげるって、そういわれて・・・」
「お前はすぐに相談するべきだったんだよ。剣道部や藤堂にな。結果としてお前は、親友のことも傷つけたことになるんだぞ。」
少しきついだろうが、仕方ない。河原がもう少し強ければ、こんなことにはならなかったかもしれないんだ。
そして・・・
木崎はまたも余裕の笑みで話す。
「で?ほんとのことを話させてどうするつもりなの先生?中学生の私をどうかして裁く?」
「何もしねえよ。ただ、真実を吐かせただけだ。ただ、これだけの連中巻き込んで、傷つけて、ガキだからでまかり通ると思うな。お前は今回、それだけのことをした。河原、藤堂、剣道部・・・すべてお前の下らねえ復讐とやらに悲しめられた。今後、消せねえ過去として残っていくんだよ。」
いまおれが言ったことはすべて事実だ。子供だろうがなんだろうが、やっちゃいけないことはある。子供、という理由で許してりゃあ、いつかとんでもないことがおこる。何年かすりゃあ、そんなガキが大人になっちまうんだからな・・・
「私だけが、私だけが不幸なのが許せなかったの・・・私だけが剣道をあきらめて、みゆきばかりちやほやされて・・・さぞ気持ちよかったことでしょうね!」
対策室を静寂がつつむ。
俺はもうこいつにしてやれることはない。あとは本人の、してしまったことを受け入れるのか、信頼を取り戻そうとするのか、という意思に任せる。同じことが河原にも言えるのだが。
ただ、こいつがここまで歪んでしまったのは、周りにいい大人がいなかったから、なのかもしれない。西條先生みたいな、そんな先生が近くにいたら、こんなことは起こらなかったのかもしれないな。岡本先生は論外だが。
とにかく、俺は河原を完ぺきには救えなかった。対策室の担当としては、豊田と同レベルだったかもな。こんな時、厳しいことしかぶつけられねえんだから。
「それは違うぜ。」
渡辺が発した言葉は、俺に向けられたものではなく、木崎杏理に向けられたものだった。
「藤堂は、いつもお前を気にかけてたよ。」
「ふ、ふん!何も知らないくせに、適当なことを言わないで!」
「そうじゃない。藤堂はああいう性格だから、ほとんど誰にも言ってないけど、いつも言ってたぜ。杏理の分まで、大会で頑張るんだって。だから練習も頑張らなきゃって。」
「龍、それは・・・」
「もういいだろ藤堂。それに河原、お前のためでもある。」
「え・・・」
「きついこと言って、部を辞めちまった親友のためにも、藤堂はずっと頑張ってたんだよ。」
そうか・・・だから藤堂は、剣道を続けなければならないっていっていたのか。あの事故で剣道部を離れた友達二人のために・・・
河原は顔を両手で覆い、泣きながら言葉を絞りだす。
「ごめんね・・・みゆきちゃん、ごめんね・・・」
「ううん・・・いいの、いいのよ恵美・・・」
ようやく、擦れ違いが生まれていた二人が、また親友としてつながった瞬間だ。俺としても、出会ってまだ一週間ではあるのだが、感慨深い気持ちでいっぱいだ。
渡辺も嬉しそうにしている。こいつをはじめ、剣道部もずっと気にかけていたのだから、無理もない。
夏川も嬉しそうだ。なんでかは知らん。雰囲気か。
「ふん、くだらない。結局私だけ、一人ぼっちじゃないのよ。」
そんな二人を見て、悪態をつく木崎。こいつは本当に・・・
すると、藤堂が河原から離れ、木崎のほうへ歩いていく。
「みゆきちゃん・・・?」
「大丈夫よ恵美。」
「な、何よ。まだ私に何か言うことがあるの?」
「杏理。竹刀をとりなさい。久しぶりにけいこをしましょう」
「はあ?何を言って・・・」
「いくわよ龍。杏理を引きずってきなさい。」
「ちょ、なんなのよ!離しなさい!」
渡辺と夏川に連れて行かれる木崎。後ろから藤堂も対策室を出ていく。残されたのは俺と河原だ。
おそらく武道館にいったんだろうと思い、河原に声をかけようとする。
「おい、河原。」
「先生本当にありがとう。また、みゆきちゃんと仲良くできる。それはほんとに、先生のおかげだよ。」
「俺は何もやってねえよ。剣道部の絆が相当に強いもんだったんだろうさ。それに、俺らが早く、木崎や河原の苦しみに気づいてやってたら、こんなことにはなってなかったかもしれねえ。だから、お前らが気にすることじゃねえよ。」
「ううん、先生のおかげだよ。あの事故とか、みゆきちゃんのこととか、杏理ちゃんのことを、もう一度考えさせてくれたのは、先生だもん。先生が対策室の担当になって、本当に良かった。」
おお、なんだか泣きそうだ。この感動を早く西條先生に伝えたい。俺はそんな気持ちになった。だからこそ、最後まで見届けなくちゃな。
俺が今度こそ部屋を出ようとすると、河原が俺の袖をつかんできた。おいおい、なんだなんだ。
「私、杏理ちゃんとも仲直りできるのかな・・・」
さっきの木崎の様子から、許してくれないと思っているのだろう。当然の反応だとは思うが。
だが、一人じゃ無理でも、友達と一緒なら、きっと何とかなるはずだ。そう思ったから、藤堂は木崎を武道館に連れて行ったんだから。
「大丈夫だよ河原。藤堂を信じろ。」
そう俺が言うと、河原は涙をぬぐい満面の笑みで対策室を出て行った。
二日ぶりの武道館。部活時間中のはずだが、閑散としているな。
「今日は柔道部が此処を使う日なのですが、ランニングに行っているんですよ。」
不審に思った俺を察したのか、藤堂が説明してくれた。
「だから、なんなの!」
「いったでしょう?竹刀をとりなさい杏理。」
「なんでそんなことにつき合わされなきゃいけないのよ!大体私は半年竹刀を握って・・・」
「とりなさい。」
「・・・・・」
有無を言わさない藤堂の姿勢に、木崎は折れた。渡辺が持ってきた、少し埃のかぶった竹刀袋を受け取る。
「手加減しなさいよね。」
「いくわよ」
お互いに見合って竹刀を構える藤堂と木崎。
「やああああ!」
声をだし、竹刀を合わせる両者。素人だからよくわからないが、打ち合いではやはり藤堂が押しているようだ。
「な、なんだって、いうのよ、く・・・」
「やああ!」
「あっ!」
木崎の竹刀が跳ね返され、後ろに飛ばされてしまった。
「・・・・・」
武道館は静寂に包まれる。
「悔しいでしょう杏理。」
「何が、楽しいのよ・・・こんな・・・」
「その顔を見たらわかる。あなたは悔しい。半年前は勝てていた私に負けて。」
「・・!そうよ!悔しいわよ!私だけがこんなに遅れをとって!冗談じゃないわ・・・!」
河原は複雑そうな顔をして二人のやり取りを見つめる。また責任を感じているんだろうか。違うぞ、河原。藤堂が言いたいのは・・・
「だったら、戻ってきなさい。もう一度頑張って、私にもう一度勝てるまでになりなさい。そうしなければ、私はあなたを許さない。あ、恵美も戻ってきて、協力しなさい。あなたも、そうしなければ親友解消よ。」
厳しいことを言っているように見えるが、これが藤堂の優しさなのだ。俺もこの数日で分かったことだが。
「・・・みゆきちゃん・・・うん!」
河原は藤堂の本質を理解しているようだな。さすが親友だ。
「勝手なことばっかり言って・・・」
さて、木崎には伝わったかな。
「絶対勝ってやるんだから・・・恵美も、私のサポートをしなさい!絶対に、絶対にみゆきを負かせてやる。それが、私の二人への復讐なんだから・・・!」
やれやれ、こいつも藤堂に似て素直じゃないな。もう一言だけかけてやるか。
「おい、何か困ったことがあったら対策室に来いよ。」
「もう大丈夫だよ。」
「必要ありません。私たちは一人ではないのですから。」
「いらないわよ!」
最近の子供はほんとに可愛くねえな!!
まあ予想しやすい真実でしたが、ご勘弁を。
もう少しお付き合いください。




