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三話 迷宮

ついに藤堂みゆきに話を聞く!

しかし、彼女の態度は意外なものだった・・・

 俺は今、屋上で絶賛混乱中である。

藤堂みゆきに話を聞く前に、〈かまってちゃん〉疑惑の出所である1年4組の生徒に話を聞いていたのだが。

そこでは多くのことが明らかになった。最も重要なワードは『剣道部』であろう。

河原恵美と藤堂みゆきが同じ剣道部だったこと。しかも二人は、河原が部を辞めるまで仲が良かったということ。

藤堂がいじめを行ったという疑惑については、担任の香山、元対策室の豊田、親以外には剣道部1年しか知らず、その剣道部も言いふらさないことを決めた。

河原が藤堂によるいじめによって部を辞めたと考えれば辻褄が合うのだが、どうも釈然としない。

話を聞く限り、藤堂という少女は根っからの剣道少女であり、その実力も相まって部内の人気も高かったらしい。

そんな子が陰湿ないじめを、しかも仲の良かった子にするだろうか。

釈然としない理由はまだある。

それは、河原が部を辞めた理由について聞いたときの、渡辺龍の態度だ。

「それだけはいえない。」渡辺はそういった。

おそらく剣道部の秘密とやらだろうが・・・

あれこれ思案していると、校内が騒がしくなってきた。部活の時間が終わったのだろう。

いよいよ、いよいよ事件の中心にいるであろう藤堂みゆきに会う。

なんか分からんが緊張してきたぞ。とにかく、剣道部が活動している武道館にいって待ち伏せしてみるか。



武道館は、校舎から校庭を挟み、道路に面しているところにある、割と大きめの建物だ。

校庭の端っこのさらに向こうなので、歩いていくのはなかなかにしんどい。

ようやく見えてきたと思ったところの木の陰に、人影があるのが見えた。

何やら武道館のほうをちらちら見ているようだ。俺はその人影に見覚えがあった。

まあ、さっき会ったのだから、見間違えようもない。

俺は後ろから急に声をかけることにした。十中八九驚くだろうな。

「何やってんだ、夏川。」

「どおおおおい!!!」

どんな叫び声だ、それは。

そう、人影の正体はツンツン頭の夏川一矢だった。先ほど話を聞いたのだが、こんなところで何をやっているのか。

「び、びっくりさせんなよきりっち!渡辺に話聞いてんじゃなかったのかよ!」

「とっくに終わったわ。渡辺だって武道館にもどってるはずだぞ。」

夏川は何だよ~とかいいながら頭を抱えている

「で、何やってんの?」

「き、きりっちこそこんなところで何やってんだよ!」

質問を質問で返すな。らちが明かないので俺は自分の用事を説明することにした。

「藤堂みゆきに話があんだよ。」

すると夏川はガバっと顔を上げ、

「ななななな、なんで藤堂に!?河原の話が聞きたいんだろ!?」

何をこんなに動揺してるんだ。こいつなんか変だな。

「いいいいやややや、俺は何にもしてないぞ、何も待ってなかったんだからなああああ!」

そう叫んで夏川は校舎のほうへ走り去ってしまった。なんなんだ、渡辺に続いて。


しかしあいつ、本当にこんなところで何をやってたんだ? 

それに「藤堂」の名前であんなに動揺したのは、今回の件と関係があるんじゃないだろうか。

いや、それとは別に、俺の頭に引っかかることがあった。

「夏川のやつ、河原と藤堂が仲いいことを知らなかったのか?」

そう、あいつは俺が藤堂に会いに来たことを告げた時、「河原の話が聞きたいんだろう」といった。つまり、夏川は河原と藤堂の仲がいいのを知らなかったということだ。いじめの加害者の件は剣道部1年の秘密なので、知らなくてもわからんでもない。

しかし、他クラスの河原の様子がおかしいことまで知っていた夏川が、河原と藤堂の関係を知らなかったのは妙じゃないだろうか。

この疑問が何につながるかはわからない。そもそも、夏川だって知らないことがあってもおかしかないだろう。いくら岡本先生直属とはいえ。

俺は考えすぎだと言い聞かせて、本来の目的を遂行すべく、武道館に向かった。


 武道館は、もうひっそりとしていた。夏川と話してた時間もあったからな。遅かったかもしれない。

そこには顧問の先生もいなかったが、奥に二つの人影が見えた。

何か話しているようだが、聞き取りにくい。

「・・・・・・・恵美は・・・・」

「わかってるよ、でも・・・・・・・」

「このままじゃ・・・・・・・・・」

うーん、断片的でよくわからん。俺は思い切って話しかけてみることにした。

「おい、そこにいるのは誰だ?」

奥で息をのむ声が聞こえる。聞かれたくないことでも話していたんだろうか。

「す、すみません、もう下校します・・・あれ?」

入り口のほうへ歩いてきた人物は、またも俺の知っている、というか、さっき知った人物だった。

「き、きりっち!まだ聞き込みしてたのかよ!」

俺から逃げた第1号、渡辺龍だった。

「先生にそんな口のきき方をするものではないわ、龍。」

渡辺の後ろから現れたのは、高校生と見間違える高身長と、あどけない顔を併せ持った美少女だった。

「その女の子は? お前のガールフレンドか?」

だいたい見当はついていたが、逃げたお返しにと茶化してみた。

「ば、ばか!そんなんじゃねえわい!」

「失礼な先生なのですね。取り合う必要はないわ。龍。」

ほんとに中学生かよこいつ。背伸びしてんじゃねえのか。

「君が藤堂だな?聞きたいことがあるんだが。」

「ちょ、きりっち、今日はもういいじゃん、下校しないと怒られるって!10月入ってだいぶ暗くなってきたしさあ!」

何をあわてているんだこいつは。そんなに俺が藤堂と話すのがまずいんだろうか。

「龍、先生は私と話があるの。先に帰ってなさい。」

そういわれた渡辺は、うなだれながら小さく「じゃあな」と言って去ってしまった。藤堂に気でもあるのか?一緒に帰りたかったのか?まあどうでもいいか。

渡辺は帰り際、藤堂に耳打ちした。が、ばかなのか、ボリュームがデカすぎて俺にも聞こえた。

「あのことは話すんじゃねえぞ」

あのこと?河原のいじめに関する謎がまた増えた。渡辺はまだ俺に隠し事をするつもりか。


 「先生、さすがに7時を超えてしまいますと、私、家の者に叱られてしまいますので、手短にお願いできませんか。」

うん・・・・苦手なタイプだ。子供は子供らしくしていればいいのに。まだ河原や渡辺のほうが可愛げがあると思うがね。

「悪い、河原恵美のことなんだが・・・」

「恵美!?」

河原の名前を出すと、藤堂はすごい剣幕で俺をにらみつけてきた。

「あなたが新しい対策室担当の先生ですね!?早く恵美を助けてあげてください!」

ど、どうしたというのだ。さっきまでの落ち着いた姿はもうなく、必死に河原を救ってと訴えかけてくる。

えーと・・・俺はいじめの加害者に話を聞きに来たんじゃなかったか。

「お前がいじめてるのか」などと聞けるはずもないので、俺は別の質問をぶつけてみた。

「河原の件、どこまで知っているんだ?」

「恵美が、何者かにいじめられている、と・・・。いろんな人に相談しているのに、全然解決しないんですよね?」

その相談の仕方は脳内から削除されているのか、それとも知らないのか…

ともあれ、目の前の少女の態度は、俺が今までに集めた情報と、まったく合致しないではないか。

仲がいいのはわかるが、疎遠になっていたはずではないのか。そもそも、おまえがいじめているのではないのか。

こんな質問、さすがにぶつける勇気はない。

「藤堂は河原と仲がいいのか?最近疎遠になっていると聞いているが。」

藤堂は一瞬目を見開き、咳払いを一つしてから、俺のほうを向きなおした。

「龍に聞いたのですね。ほんとうにおしゃべりで困ります。」

実際はメガネっ子から聞いたのだが、わざわざ訂正する必要もないだろう。メガネっ子の情報自体は、どうやらあっていたようだから。

「知っている人は少ないと思うのですが、私と恵美は同じ小学校なのです。それも、少し離れた小学校なので、そこの出身の1年生も、私と恵美だけなのです。」

この中学校に進学してくるのは、この町にある二つの小学校出身者が大半だ。が、まれに隣の市内の小学校から通ってくる生徒がいるのだ。この二人がそうだったのか。

「ずっと、生まれたころから私と恵美は一緒だった。二人の間の絆は深いものだったんです。」

「じゃあ、どうして今は仲良くないんだ?君の話では、今でも河原のことを本当に心配しているように聞こえるんだが。」

藤堂は顔をゆがめ、沈黙した。1分、2分。このまま話さないんじゃないかと思っていたが、藤堂はようやく口を開き、そして言った。

「事故ですよ・・・」

「え?」

「わたしは、恵美を傷つけてしまった。だからこそ、恵美は私に失望し、部を辞め、離れて行ってしまった。」

河原が部を辞めた原因がいじめじゃなくて事故?これはいったいどういうことだ?

自体が呑み込めない俺をよそに藤堂は続ける。

「でも、私もつらかった。恵美が私によそよそしくなって、話してくれなくなったことが。でも、私は剣道を続けなければならないんです。泣き言なんて、いえなかった。」

今にも泣きそうになっている藤堂。俺も少し辛い。

「そんな時、河原恵美がいじめに遭っているって噂を聞いたんです。私はすぐにでも恵美に話を聞きたかった。でも、勇気が出なかったんです。怖かったんですよ、恵美に拒絶されるのが。こんな私が、剣道部期待のエースなんて、笑ってしまいますよね。」

そんなことはない。大事な人を助けたいのに助けられないという気持ちは、俺には痛いほどわかる。ここまで友達のことを思える藤堂は、単純に立派だ。

「だから、相談を受けた剣道部の同級生から、どんな相談を受けたのか、聞きました。でも、恵美はいじめられているっていうだけだって。私はどうしたらいいのか・・・今日まで悩んでいたんです。」

いや、剣道部の連中はいじめの加害者、すなわち藤堂みゆきの名前まで聞き出していた。その秘密は、今日まで守り通すことができたようだな。

こんな友達思いの子に、「おまえにいじめられたんだって」なんて言えるわけがない。

しかし、気になるのはその事故だ。藤堂が河原を傷つけた?いったい何があったんだ?

「藤堂、その事故っていうのは・・・」

そう聞こうとした時、藤堂が俺の言葉をさえぎった。

「先生、終わったことなんです。それを蒸し返すことは、また誰かを傷つけることと同じ。そのことについては、これ以上聞かないでくれませんか?知っているのは、私たちだけでいいんです。あの子のためにも。」


そう告げると、藤堂は校門に親を待たせている、といい、荷物を持って下校した。

藤堂いじめ加害者疑惑は、いとも簡単に晴れた。やはり、直接話してみるものだ。

しかし、仲の良かった友達にいじめられているなどというウソを、河原はどうしてついたんだろう。それとも、藤堂のほうが嘘をついているのか?いや、あの話し方は演技ではないと思うのだが。

思い返されるのは、昨日の河原の様子だ。いじめについて語る彼女は、どこか不自然に辛そうで、かといってウソをついてると言い切れるものでもなかった。


どうすればいい?誰に聞けば分かる?

話を聞く相手もなくなり、今度こそ俺は、大きな壁にぶつかるのだった。

とにかく、キーワードは事故だ。その事故の内容について、聞ける人物は・・・・

!俺は一人だけ、一人だけ思い当たる人物がいたことに気が付いた。

そうだ、剣道部のやつらは口を割らない。渡辺や藤堂の様子を見れば明らかだ。

思えば、あの不自然な様子こそが、真のSOSのサインだったのではないか。いじめではない、別の何かの。

だとすれば、「助けて」と言っていたあの子なら、事故について何とか聞き出せるんじゃないだろうか。

そう、事件の渦中にいる彼女なら。

「河原恵美・・・」

長かった一日は終わり、武道館の外は暗闇に包まれていた。





いやあ、次の次くらいで終わりますかねえ

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