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二話 質問

藤堂みゆきの話を聞く前に、噂についての情報を集めることにした。

そこで新たな情報を得ることはできるのか…

 俺は自宅のぼろアパートで、河原恵美について考えていた。

河原は岡本先生の情報のような〈かまってちゃん〉ではない。とはいえ、意外に活発そうな女の子だったことにも驚きだ。正直、あのつらそうな表情は演技ではない・・・と思うのだが・・・

しかし、いじめられているか?と聞いた時の複雑そうな表情も気になるところだ。

くそ、やっぱり話してしまうと情が移ってしまう。俺は河原を助けたいと思い始めていた。

とにかく、藤堂みゆきに会わなければならない。

正直とても聞きにくいことではあるのだが、いじめているのか?と本人に聞かなければならない。

仕方ないことだ、香山も豊田も彼女に何も聞いてないんだろう。彼女にも何か言い分があるかもしれない。

俺は顔も知らぬ少女への接触を決意し、眠りについた。


次の日。

とりあえずまた放課後になってから会いに行くか。2限の授業後に職員室にてそんなことを考えていると、

「桐生くーん!」

今一番会いたくない人物、岡本先生の登場だ。来るな、こっちに来るな。

「そんなに顔そむけんなよお、あ、河原ちゃんの件はどうなった?」

「鋭意調査中です。」

「そんだけかよ!」

目の前の噂の種についてもっと知りたいのか、岡本先生は食い下がる。

「頼むよ、教えてくれよ」

俺が心底めんどくさいと思っていると、

「岡本先生、次校庭じゃなかったんですか?」

いつの間にかいた西條先生によって、話がさえぎられる。

「やべえ!次は俺のキャラが通用しねえ三年生だ!遅刻したらチクられちまう!」

三年生はやっぱり大人だな・・・ つーか自分のクラスの生徒は意のままか?

「じゃあ今度!次の休みにでも聞かせてくれ!」

そういって、慌ただしく岡本先生は去っていった。

次の休みにはトイレへエスケープしよう。

「助かったよ。西條先生。」

「いえいえ、それより、河原さんの件はどうなりましたか?」

俺は昨日河原に会ったことと、今日は藤堂みゆきという女子に会うことを先生に伝えた。

「なるほど・・・やっぱり河原さんは苦しんでいたんですね!岡本先生の情報なんて信用できないことがわかってしまいましたね!」

確かに、彼女は本当に苦しんでいるように見えた。では、岡本先生が生徒に聞いた話は、本当にガセだったのだろうか?

「あ、あと藤堂さんに会うには6時以降に武道館に行ったほうがいいですよ」

「え?放課後すぐに行こうと思ってたんだけど・・・」

西條先生は、あきれたといわんばかりの表情で、

「藤堂さんは剣道部で1年生にしてエースなんですよ。入学当初、話題になったのをご存じないんですか?」

ご存じなかった。そんな漫画に出てくるような奴がいたのか。しかも女子。

「藤堂さんの練習好きは有名なんです。だから放課後すぐに会いに行っても話してくれませんよ、他の人に話を聞いたらどうですか?」

怒りっぽいのは玉にきずだが、流石だ西條先生。そこそこ美人だし。

「なんか失礼なこと考えてませんか?」

・・・この勘の良さもさすがだと思う。



 放課後になった。

宿題のチェックこそ終わってないが、まあこっちを優先させていいだろう。

とりあえず俺は、岡本先生のしもべたちに話を聞くことにした。そもそも、〈かまってちゃん〉疑惑の出所はこいつらだ。話を聞けば完全な確信が持てるだろう。河原はただの〈かまってちゃん〉ではないことを。

岡本先生は4組の担任だった(これを聞くときにまた西條先生に怒られた)な。

ややこしいので奴には見つからないようにしたい。


まずは人当たりのよさそうな男子に話を聞いてみよう。知り合いがいないのだからしょうがない。

「ちょっといいか?」

「はい?ああ、桐生先生か。河原について聞きに来たんだろ?」

なんでそれを。こいつも西條先生と同じか?

「おかもっちが必ず聞きに来るっつってたぜ。答えてやれってさ。」

おかもっちってのはやつのことだとは思うが、先に話を通してくれていたのか。

気遣いがうれしいような、その根回しによって大事になるのがめんどくさいような。

「じゃあ聞かせてもらうが、河原は本当に心配されたいとかいう理由でいろんな人を巻き込むようなことをしてたのか?」

「はあ?何言ってんの?」

仮にも教師に何だそれは。いや、それよりなんだその反応は。

「いや、河原は何でもないようなことを言ってみんなの気を引きたい子だって・・・」

「んなのただのかまってちゃんじゃん。」

だから今それが問題となっているんだよ。河原〈かまってちゃん〉疑惑があったからこそ、俺は何を信じるのかを躊躇していたんじゃないか。あの野郎・・・まさか・・・

「おい夏川!先帰っとくぞ!」

「おー」

夏川というのかこの男子生徒は。それより、何か予定があったのかもしれないな。

「悪いな、帰ってもいいんだぞ?」

「いいよ、それよりさっきのやつどういうこと?」

夏川は俺の想像以上に真剣に話を聞いてくれていたようだ。

「俺らはおかもっちに、河原は人懐っこい子だよっていったんだ。男子からも女子からも人気があるってな。なんか知らんけど、おかもっちの伝達ミスじゃないの?」

全然違うじゃねえか!!! この情報をどう変換したら〈かまってちゃん〉になるんだ。

「おかもっちは事件になりそうなワードに勝手に変換するからなー。きりっちもそれに惑わされてたんじゃねえの?」

夏川は少しツンツンした髪を触りながら、笑ってそういった。いつから俺はきりっちになったんだ。当初は桐生先生だったじゃないか。

「わ、わかったよ、ありがとうな。」

俺は疲労感に倒れそうになりながら、その場を立ち去ろうとした。

そこで夏川に呼び止められる。

「でもさ、河原の様子が最近おかしいってのはマジで噂だぜ?」

そりゃいじめられてんだから・・・と思いながらも、貴重な情報源だ。聞いておこう。

「どういうことだ?」

「その辺のことは河原と同じ部だったやつがいるからそいつに聞けよ。呼んできてやろうか?」

これはありがたい。次の証人まで用意してくれるとは。夏川。覚えたぞ。お前は主のあいつとは違うようだ。少しお前を誤解していたよ。


 俺は次なる証人が1年4組の教室に来た時、不覚にも驚いた。

そのおそらく男子である人物は、剣道着一式を身に着けていたからだ。

「あ、きりっちって先生のこと?」

その人物はみるからに暑そうな面を脱ぎながら俺のほうに駆け寄ってきた。坊主頭で、幼いながら割と端正な顔立ちをしている。

それより、俺はきりっちで確定か。岡本先生の手下見てえじゃねえか。反吐が出る。いや、そんなことよりも!

「け、剣道部・・・?」

「見りゃわかるっしょ。あ、剣道部1年の渡辺龍です。一矢に呼ばれてきたんだけど。」

一矢とは先ほどの夏川のことだと思うが、それより気になることがある。

「河原も剣道部だったのか?」

「ああ、今はやめちまってるが、けっこうすごかったんだぜ。」

俺は素直に驚いた。あの華奢でかわいらしい少女が剣道部だったとは。人は見かけによらないな。

「なあ、俺早く戻んないと部長や藤堂にどやされるんだけど。」

そうか。いじめの加害者として名が挙がった藤堂みゆきも剣道部で、練習の鬼だったか。

しかし加害者である藤堂みゆきと、被害者である河原恵美が同じ部活をしていたとは。

これは何かあってもおかしくは・・・おっと、急がないとな。

「悪いな、河原の様子が最近おかしかったんだって?詳しく聞かせてくれないか」

渡辺という剣道少年は、いかにもいやだというような顔をして、口を開いた。

「河原ってさ、部を辞めた後も明るくてさ、俺ら剣道部とも仲良かったんだよ。」

「うん」

「だけどさ、10月入ってからなんか暗いんだよ、ずっと。俺びっくりしてさあ。あの河原がって。」

母親が来るようになったのも今月…10月に入ってからだったな。時期的には合う。

「で、いじめられてるんだって、俺に相談してきたんだよ。最初は勘違いしたなあ。お、俺に気があるから相談してきたんじゃないかってさ。」

「違ったのか」

「全然!話ききゃあ、剣道部の1年ほぼ全員に相談してたよ。そのうえ、担任や対策室、親にまで相談してたんだって。」

そのどれもが河原を救えなかったのだが。

「でもさあ、河原のやつ、変なんだよ。つらそうな顔していろんな奴に相談して。その上誰にいじめられてんのか聞くと、言いにくそうにして、結局だんまりなんだよ。」

「じゃあ誰もいじめたやつを知らないのか?」

「いや、何人かには口を割ったらしい。知ってんだろきりっちも。藤堂だよ。」

まいった。いじめの加害者の名前が広まってるのはまずい。藤堂って子が傷つくのは目に見えてる。

「でも、俺らはそれを信じなかったよ。だって、あの鬼の藤堂だぜ?いくらなんでもいじめはないよ。かといって、なんで河原が嘘つくのかわかんなかった。だからこれは剣道部の間だけの秘密にしてんだ。」

なんて友達思いのいい子達なんだろう。俺は柄にもなく少し感動していた。どちらかを傷つけることなく、自分たちの間で保留にしておくとは。この子らの主人のクズにも見習わせたい。ただ、女の子に鬼はいかがなものか。

「あ、裏切ってるやつはいないと思うぜ。裏切ったらシッペだから!」

だからなんなのかとも思ったが、もう俺は渡辺を信じていた。気持ちよく練習に戻ってもらおう。

しかし、少し気になることがあと一つあるので、聞いておかなきゃな。

「ありがとな、練習中に。あと、河原は何で部を辞めたんだ?」

その瞬間、渡辺の体が震えた。そのあと、時間をかけて渡辺は口を開いた。

「そ、それだけはいえないんだ。剣道部だけの秘密なんだ。ごめん先生!」

そういって、渡辺は走って行ってしまった。

そんなに言えないようなことを俺は今聞いたのか? 何気なく聞いたことだったんだが。

もしかしたらいじめによって辞めたのかとも思ったが、今の反応は明らかにそうじゃないし、さっきの渡辺の発言とも矛盾する。

「なぜ剣道部を辞めたのか」まさか、今の質問がこの事件の核心に迫るものだったのだろうか。

俺はなんとなく、そう思った。


渡辺の態度は気になるが、今は聞き込みを続けよう。なんか刑事みたいになってきたな。

ようやく5時まわったか。肝心の藤堂みゆきにはまだ会えない。ああ、イライラする。

藤堂に会えたら、事件はぐんと前進すると思うのだが。

渡辺の言っていた、剣道部のだけの秘密が気になる。一つは『いじめた人物の名前』で、もう一つは『河原恵美が剣道部を辞めた理由』か。後者を言えない理由は何なんだろうか。

俺は今日の聞き込みに飽きたので、適当な生徒に適当に話を聞くことにした。

ちょうど教室にメガネの女の子がいる。宿題をしてるんだろうか。

「ちっといいかな?」

少女の顔はまだ幼く、小学生にも見えるほどだった。あまり話すのが得意な印象は受けない。

「はい、なんですか先生。」

メガネっ子はシャーペンを止め、こっちを向いた。

「河原恵美って子と、藤堂みゆきって子を知ってるか?」

「あ、はい。河原さんって、1組の子ですよね。最近お母さんが学校によく来てる…」

流石にあの母親の件は噂になってしまっているようだ。とはいえ、この子はあまり二人と面識がないようだから、早めに切り上げるか。

「藤堂さんのほうは、あまり知らないんですけど、確か河原さんと仲がいい子ですよ。」

ナニ!?その情報は初耳だった。同じ部活、ということは知っていたのだが。

「それが、河原さんが剣道部を辞めてから、疎遠になってるんだって、って聞いたような気がします。」

それが本当だとするなら、やはりいじめ疑惑と部を辞めた理由とは関係があるような気がするが、さっきの渡辺の反応とは合致しない。

ともあれ重要な話だ。しかし、二人が仲がいいことを知っているなら、渡辺はなぜあの流れでそれを言わなかったんだろう。単に言いそびれてたんだろうか。

「勉強中に悪いな。」

「いえ、大丈夫です。」


俺は名も知らぬメガネっ子に礼を言って、1年4組の教室から出た。なかなかいい情報を手にれることができたが、解決にはまだつながっていない。

やはり剣道部に行ってみなければ。藤堂をはじめとした関係者はそこにいる。そこで、バラバラのピースをつなぐことができるんだろうか。

さすがに疲れたな。一度屋上にでも行ってブレイクタイムをとるとするか。

今後何を聞かなきゃいけないのか、整理する必要がありそうだ。











そんなに話進みませんでしたね ははは

すみません、まあじっくりいきます。

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