第6話
シルドからの依頼を終わらせるためにジークは調合部屋に入り、調合を開始するとドアの隙間からこちらを覗いているノエルと目が合う。
「……あのさ。覗かれると酷くやりにくいんだけど」
「す、すいません。でも、わたし、お薬を作っているところを見たことがないので」
呆れ顔のジークの姿にノエルは彼が気分を害したと思ったようでドアを開け、慌てて頭を下げた。
「……いや、そこまで謝られる事ではないんだけど、見てても別に面白い事でもないと思うぞ」
「そ、そんな事ないです。わたしは治療薬を作っているところを見た事がないので」
「そ、そうかな?」
ノエルは見た事がない道具が並んでいる様子に目を輝かせており、ジークに尊敬のまなざしを向けた。ジークはノエルの言葉に気分を良くしたのか照れくさそうに頭をかく。
「……ねえ。ジーク、調合を始めたのは良いけど、もう少しゆっくりとしてても良いんじゃないの? 急いでいるみたいだけど何かあったの?」
ジークが照れている姿がフィーナには鼻の下をのばしているようにしか見えないようで不機嫌そうな表情でジークに今の状況を確認する。すると、ジークは表情を引き締めて、ノエルとフォーナにシルドから聞いた新たに見つかった遺跡の話をする。
「へぇ、あの遺跡の奥に新たな遺跡ね。知らなかったわ」
「……フィーナ、お前、一応は冒険者の端くれだろ」
フィーナは遺跡の話が初耳だったのか、感心したように頷く。しかし、ジークにしてみれば冒険者をしている彼女が知らない事に驚きを通り越してあきれたようである。
「う、うるさいわよ。私みたいな優秀な人間が行くにはレベルが低すぎるのよ」
「はいはい。そうですね」
フィーナは知らなかったのは自分のせいではないと言いたいようで声を上げる。ジークは既にどうでもいいようで調合を再開する。
「あ、あの。ジークさん、フィーナさん、その遺跡って有名なんですか?」
「有名って言うか、ここら辺のモンスターは大人しいから、冒険者を志す人間が力試しに行くような小さな遺跡だよ……と言うか、2人ともいつまでここにいるつもりなんだ?」
ノエルはこの村に来たのが初めてのため、遺跡の話に首を傾げる。ジークは彼女の疑問に答えるも、やはり、見られていると調合がやりにくいようで苦笑いを浮かべた。
「あ、あの。ご迷惑ですか?」
「まぁ、さっきも言ったけど、見られてると調合がやりにくいんだよな・後は迷惑と言うか、ノエルは俺の両親を探しているんだろ。ここにいたって無駄だよ。会いたいなら、どこか人族と魔族が戦争しているようなところに行った方が良いと思うよ」
ジークはノエルに両親に会いたいなら、この村にいる事にメリットはないと言い切る。
「で、ですけど、闇雲に探すよりはここで待っていた方が会える可能性が高いと思うんです」
「……まぁ、確かに住所不定だから、見つけられないか? でも、そうじゃなくてさ。ここで待つって言ってもさっきも言ったけど、あのろくでなし夫婦はここになんて絶対に帰ってこないよ。それに君はドレイクなんだ。人間の村に居て何か騒ぎになったらどうするんだよ」
ノエルはこの村に残る方が出会える確率が高いと考えているようである。ジークはその考えも否定はできないとは思いながらも、それ以上にドレイクであるノエルがこの村に居座る事が危険だと話す。
「騒ぎですか? わたしは話し合いにきたんですから騒ぎなんか起こしませんよ」
「……だから、そう言う意味じゃなくてさ」
しかし、ノエルは自分は話し合いに来ているため、争いを起こす気はないと答える。ジークは純粋すぎる彼女の様子に心配になってきたようで困ったように笑った。
「確かにね。私もジークも、流石にノエルと騒ぎを起こすつもりはないけど、他の人間はそうもいかないよね?」
「あぁ、ただでさえ、もう直ぐ、遺跡探索だとか言って冒険者達が押し寄せてくるんだ。ドレイクが村の中を闊歩していたら……下手したら、村が壊滅する」
「そうね。大きな都市からノエルを殺しに来る可能性が高いわ」
フィーナはジークの言いたい事が理解できたようでため息を吐くと、ジークと顔を見合せて最悪、ドレイクであるノエルの討伐も考えられるため大きく肩を落とした。
「で、ですけど、わたしは人族と友好関係を結びにきたんです。騒ぎなんて起こしませんよ」
「……いやね。ノエルがそんな事を考えても周りはそう思わないから」
「そうね」
ノエルは必死に自分は争う気はないと主張するが、ジークとフィーナは問題はそこではないと首を振る。
「どうしてですか?」
「普通に考えれば、そうだろ。それができたなら、人族とドレイクの争いなんて起きないんだからさ」
ノエルは納得ができないようで喰い下がる事はなく、ジークは何と説明して良いのかわからないようで頭をかく。
「ですから、それを変えて行きたいんです!! 種族間の争いは何も生みません。話しあって仲良くなれば協力できる事だってあるはずです」
「まぁ、それをやろうとするのは素晴らしい事なのかも知れないけどさ。だけど、それは理想でしかないよ。そんな理想だけで誰かが動くなら、こんな世の中にはなりはしない。だいたい、同じ、人間同士でだってくだらない殺し合いをしているんだ。個人でとならまだしも、種族として考えた時に違う種族となんてわかりあえるわけがないよ。生活、考え、全てが違うんだ」
「そ、そんな事はないです」
ノエルは本当に人族とドレイクとの争いを治めたいようで真面目な表情をする。しかし、ジークと彼女には酷ではあるが絶対に無理だと言い切るとノエルはジークの言葉に反論しようとする。
「それじゃあ、悪いんだけど、2人とも出てってくれるかな。俺はいつまでも2人と遊んでいる暇はないんでね。ここから先は面倒だから調合の邪魔もされたくない。フィーナ、店を出る時にプレートは『準備中』のままにしておいてくれ」
「ちょっと、ジーク」
「ジークさん」
ジークはやはり価値観が違うため、これ以上の話は無駄だと判断すると調合も忙しくなってきたため、2人を調合部屋から追い出してカギをかけた。
「……まったく、人族とドレイクや他の魔族が争わない世界なんてできるわけはないだろ。でも……そんな世界になったら、2人は帰ってきて、ばあちゃんの墓に手でも合わせてくれるかな? ……止めよう。考えたって仕方無い事だ。仮にそんな事になっても2人が戻ってくる事はないんだ」
ジークはドアの向こうから聞こえる2人の声にため息を吐くと、ノエルの理想の世界にも期待したい自分がいるようで、その感がを振り払うように首を大きく横に振ると調合を続ける。




