2話
若干スキルの効果を変更致します。
【索敵Lv1:半径10m以内にいる敵の位置を識別する】
↓
【索敵Lv1:半径10m以内にいる敵の情報を探る】
今後このようなことのないよう気をつけます。
意識が覚醒し、まず最初に目に飛び込んできたのは黒い愛車のハンドルと強い太陽の日差し。
目を擦り倒れこんでいたハンドルからゆっくり体を離す。無理な体勢で意識を失っていたせいか全身の骨と筋肉がひどい悲鳴を上げた。
怒涛の一日だった。
ゆっくり前を見つめ胸ポケットに入れてあったタバコに火をつけ、紫煙をくゆらせながら昨日の出来事を思い出す。
事を決めた後は珍しくタバコも吸わずご飯も食べず馬車馬のように物資集めに奔走した。
その結果がここにある。
後部座席に目をやれば大量に積まれた米袋と缶詰の箱。そして背中に背負ったリュックに両手首から下げた大きなビニール袋。
愛車ごと飛べるかどうかは大きな賭けであったが、苦労した甲斐はあった。これだけあれば数ヶ月生きていける。
腰のベルトを外し助手席へリュックとビニール袋を置き、窓越しにサイドミラーを覗き込んだ。
男に変わった自分の顔を写し以前との違いを探す。
短く切った黒い髪は変わらない。眉毛が若干太くなり鼻が高さを増し女らしく丸かった頬や顎のラインがシャープになっている。
喉に手を滑らせると喉仏だろうか突起の感触があった。
「あー、あー。声はあまり変わった気がしないな」
少し低音になったかな? という程度だ。タバコのせいで元々低かったからかもしれない。
反対に指の関節は太くなりゴツゴツとしていて以前の手とは様相が全く違う。
身体を見下ろすと胸と股間が膨らんでいた。股間はともかく何故胸があるのかと不思議に思ったが何てことはないブラを着用したままだった。
服の中に手を入れホックを外してブラを脱ぎ丁寧に折りたたんでダッシュボードにしまい込む。
そして気になっていた股間部分に手を伸ばす。ジーンズのチャックをゆっくり下ろし寛げると白いレースの下着に包まれた男性の象徴が存在していた。
女物の下着のせいか収まりが悪く感じる。少し弄って位置を整えチャックを元に戻す。
意外に冷静な自分を発見して苦笑が漏れた。
パニックになるかもしれないと心配していただけに拍子抜けだ。
女の身体に未練はあるが、男の身体になって発生するメリットを考えると変化させてよかったと本気で思う。
女というのは不利な点が多い。
生理だけではなく強姦一発で生命が閉ざされる恐れがある。性病を移されたあげく望まぬ妊娠なんてしたら目も当てられない。
まともな医療設備の整っていない状態で出産なんて怖気が走る。
一度妊娠してしまったら堕胎するにしろ出産するにしろ生死は五分五分だろう。
男はその点は気楽だ。病気を持っていそうな玄人女や極一部の趣味人にだけ気をつければいい。
デメリットは中身が女のせいで、異性である女の身体に性的欲求を覚えるか不明なことくらいだろう。
まあ、女体に興奮しなければ性処理は右手にまかせればいい。
自ら選んだことだけにあっさり男の肉体を受け入れ、現在位置を確認するため辺りを見回す。
何かの村跡だろうか? 朽ちた石造りの家らしきものが数軒見える。人の気配はなく家屋を形成していたと見られる石塀は苔むし、雑草がいたる所から生えていて風化が著しい。今にも崩壊しそうだ。
放棄されて数十年、もしかしたら数百年経っているかもしれない。
村跡の周りには木々が鬱蒼と覆い茂り、太陽が真上にあるというのに森の奥はどんより薄暗い。
外に出てクルスを呼び出そうかとドアを開けた瞬間、ドンッと地面が激しく振動した。
「地震?!」
慌ててドアを閉めて車内に閉じ篭る。目を瞑り身体を縮めて通り過ぎるのを待つ。
だが、1分待ち5分待っても収まる気配が無い。いくらなんでも長すぎる。そう思い目を開け周囲を観察する。
――――おかしい。こんなに揺れてるのに石壁が崩れてない。
何か保護の魔法でもかかっているのか? いや、それならば風化もしないはずだ。
簡単な消去法。ならば揺れているのは……。
「車か」
車の下に何かがいる。そう考えたほうが妥当だ。車を移動させて確かめるという手もないではないが、対処しきれない事態だった場合死ぬかもしれない。
周りは森。ただの軽自動車では立ち往生してしまう。
自分の足で走って逃げるという選択肢は無い。男になっても体力1のステータスは変わらなかった。
100mほど走った所で息切れして倒れるのがオチだろう。とそこまで考えたところで思い出した。
「取ったスキルのこと忘れてた。【索敵】使おう」
スキル名を口に出した途端空中に視界を全て覆う勢いで巨大な半透明の地図が現れた。
この大きさでは邪魔すぎる。もう少し小さければ見やすいのに……そう心の中で愚痴をこぼすと半分程度にまで縮小した。
これは便利だと感嘆しつつ本来の目的である車の下の謎に迫る。
車がある地点には緑と赤の四角いアイコンが重なって表示されている。RPG的な常識的で考えるなら緑が私で赤が敵だろう。
俯瞰図ではよくわからない。横から見たいと思ってみると視点が変更された。
車の下、地中の中で赤いアイコンが規則的に上下に動いている。ジャンプでもしているらしい。
これが揺れている原因だろう。
「どんな敵なのか……って、おおー、出てきた。本当に便利なスキルだわ」
斥候ゴブリン Lv3
HP 80/80
MP 0/0
力 8
体力 5
素早さ 15
知力 1
精神 3
運 10
――――――
E:錆びた青銅の短剣
E:ぼろぼろの腰巻
【スキル】気配察知Lv2・短剣Lv1
「力はクルスの方が強いけど素早さは倍以上違うのかー……厄介だなあ」
不安要素はあるがとにかくやらせてみるしかないだろう。やばくなったら車内に逃げ込ませればいい。
そう決めるとパンと頬を叩き気合を入れてドアを開けた。
シートに座ったまま手を外へ伸ばし召還の呪文を唱えると無駄に眩しい光と共に大荷物を持ったクルスが現れた。
クルスは私を見つけると“喜び”の感情を溢れさせながらこちらへ走ってくる。まだ会ってから1日しか経っていないのに凄い懐かれようだ。
苦笑しつつも悪い気はしない。クルスから荷物を受け取り助手席の物と一緒に後部座席へ詰めた後、長柄の斧を渡しながら作戦を説明していく。
「敵が出てきたらその斧で殺して頂戴。相手はクルスより素早いから気をつけて戦うこと。私が車に戻れと言ったら助手席に逃げること。わかった?」
「ヴァ!」
「よし!」
キーを回しエンジンを始動させる。バックミラーで後方に待機しているクルスの姿を確認しながら慎重にアクセルを踏む。
2,3mほど前進した所で地面から緑色の物体が飛び出してきた。
あれがゴブリンか……バックミラーに写る緑の肌に長い耳を持ったはげ頭の小さい子鬼。想像していた通りの姿だ。
10mほど車を移動させた後ブレーキを踏んだ。エンジンを止め助手席のドアに手をかけつつ背後を振り返り戦闘の様子を観察する。
クルスは雄たけびを上げ斧を大きく振りかぶってゴブリンに襲いかかる。力を込めて斧を振り下ろすが横へ飛んで避けられドスリという音と共に斧が地面に突き刺さった。
クルスはすぐさま斧を地面から抜き再び大きく振り上げる。だが次の攻撃もいともたやすく避けられた。
長柄の武器にしたのは失敗だったかもしれない。いちいち動作が大きくなるせいか簡単に避けられている。
しかも地面に突き刺さった斧を抜いている間にちくちくと攻撃を受け、皮のジャケットやジーンズに細かい傷が出来ている。ダメージはくらっていないがこれでは埒が明かない。何より地面に何度も刃を叩きつけていては斧がダメになってしまう。
運転席の窓を開けクルスに向かって叫ぶ。
「クルス! 斧を横に振って!!」
クルスは力が強いが素早さではゴブリンに劣る。ならば振り下ろすという点の攻撃よりも横に振り回す面の攻撃の方が当たりやすい。そう判断したのだ。
「グギャアァーッ!!」
ゴブリンはいきなり変わった斧の軌道に対応できず反応が遅れた。斧の刃が右手側面に突き刺さり小さな腕を吹き飛ばす。そのままわき腹へと食い込むが胴を両断するには足りず中途で止まった。
クルスはゴブリンの肩に足を乗せ力を入れて刃を引き抜き、そのまま上から下へと振り下ろした。
――――グチャ。
おぞましい擬音が聞こえ思わず目を瞑って顔を背ける。まだ死体を見てもいないのに心臓が早鐘を打ち冷や汗があふれた。
殺せと言ったのは私じゃないか……クルスに情けない姿を見せるな。そう自分を叱咤し荷物の中から精神安定剤と水が入ったペットボトルを取り出す。
錠剤を噛み砕き水で喉へと流し込む。口内に広がる薬の苦さに少しだけ心が落ち着いてきた。顔をしかめつつ外へ出る。
「クルス」
名前を呼ぶと嬉しそうにこちらへ走ってきた。近くに寄られた瞬間、違う意味で顔を背けたくなった。
クルスの全身にこびりついた黒や茶色の体液のせいで筆舌尽くし難い悪臭がする。
鼻呼吸から口呼吸に切り替え、ペットボトルの水でタオルを濡らし丁寧にクルスの身体を拭う。
「お疲れ様。酷い有様ね。頭でも潰したの?」
「ヴァ」
「今度から頭は避けて首を刎ねて。脳みそって結構臭いわ」
「ヴァヴァ」
素直に首を上下に振るクルスに思わず笑みがこぼれた。
◆◇◆◇◆
体液を綺麗に拭っても匂いは落ちなかった。幸いダッシュボードに消臭スプレーがあったので事なきを得たが、毎回コレでは困る。
消臭スプレーも今ある1本のみなので後で対策を考えなければ……そう思いつつクルスのステータスを確認する。
クルス Lv1
種族:人工生命体 性別:男 年齢:0歳
主:アキ・ヤマシタ
職業:無職
HP 210/210
MP 0/0
力 15
体力 20
素早さ 6
知力 1
精神 0
運 5
容姿 1
【残りステータスポイント5】
【スキル】【忠誠:主を背に戦う場合力+10】
【残りスキルポイント1】
【次のLvまで必要経験値18】
「おー、レベル上がってるじゃない。おめでとう」
HPが10上がっている。力などのステータスはポイント消費でしか上がらないようだ。
クルスのステータスに干渉できるのか不安だったが問題なく操作できた。
「ステータスは容姿に全部って決めてたけどスキルはどうしよう……【献身】か【片手斧Lv1】かなあ」
スキル効果はそれぞれ、
【献身:取得条件・体力20、命を賭してまで守りたい主を持っている。
効果・一日に一度だけ主が受けるダメージを自分に移す】
【片手斧Lv1:取得条件・力10。効果・片手斧の操作技術が上がる】
わが身の安全を取るか、クルスの戦闘力アップを取るか。
「うーん……ごめん、今回は【献身】で!」
クルス Lv1
種族:人工生命体 性別:男 年齢:0歳
主:アキ・ヤマシタ
職業:無職
HP 210/210
MP 0/0
力 15
体力 20
素早さ 6
知力 1
精神 0
運 5
容姿 6
【残りステータスポイント0】
【スキル】【忠誠:主を背に戦う場合力+10】【献身:一日に一度だけ主が受けるダメージを自分に移す】
【残りスキルポイント0】
【次のLvまで必要経験値18】
【これでよろしいですか? はい/いいえ】
迷わず【はい】を押すとクルスの顔面が渦巻きを描くようにぐねぐねと動き出す。あまりの不気味さに表情が引きつる。
しばらく待っていると変化が終わり新しいクルスの顔が現れた。
顔の上半分を占めるほどの白目の部分がない釣り上がった大きな黒い瞳。顔の中心当たりに小さく開いた2つの穴。
向こうの世界でグレイと呼ばれていた宇宙人にそっくりだ。
のっぺらぼうの時より人類から離れている気がするのは私だけだろうか?
「……毎回毎回、クルスは予想外ね」
「ヴァ?」
「なんでもないわ。歯と舌はできた? あーんしてあーん」
パカリと開いたクルスの口内を調べてみるが残念ながらまだ発生してなかった。どうやらまだポイントを振らねばならないようだ。
結果に肩を落としたが頭を振って気分を変える。落ち込んでいる暇はない。
ゴブリンの死体を片付けねば血の匂いに釣られて厄介なモンスターが寄ってくるかもしれない。
車内の物資を漁って50cmほどの緑のバックを取り出し、中身を組み立てる。完成した80cmほどのスコップをクルスに渡しゴブリンの死体に近づいた。
グロい。正にその一言に尽きる。辺り一面に血と脳漿が飛び散り地面に黒いシミを作リ出している。少し離れた場所には切り取られた腕が転がっていた。
精神安定剤のおかげか眉をしかめる程度で済んだが気持ちが悪いのは変わらない。
死体から錆びた青銅のナイフだけ奪うと後はクルスに穴を掘って埋めるよう指示を出す。
ナイフは錆びとりして研げばある程度使い物になるだろうとの判断だ。
ナイフをダッシュボードに放りこんだ後ゴブリンが出てきた地面に目をやる。
どこからどう見ても階段にしか見えない。索敵スキルを発動させつつ1段目に足を乗せ体重をかける。
2度3度と足に力を込めて踏みしめるが崩れる様子はない。周りの家屋の石塀とは違い劣化していないようだ。
所謂ダンジョンという奴だろうか? 奥が気になるがそろそろ野宿の用意を始めなければならない。
探索はまた今度と諦め車を移動させて入り口を塞いだ。
◆◇◆◇◆
野宿とはいっても落ち着くまでこの場所に居座るつもりなので長期滞在に向けての準備を始める。
森を抜けて人里を探すという選択肢もあるが、未だLv0の身ではそんな賭けはできない。
せめて一撃死しない程度の体力を身に着けなければお話にならないだろう。
死体を埋めたクルスに車から少し離れた場所にもう一つトイレ用の深めの穴を掘るよう指示を出した後、車内の物資を一旦全て外に出す。
テントで寝泊りする予定だったが、車内の方が安全で安心だ。
物資を出してすっきりした車内に入り後部座席を倒しフラットな状態にし、座席と座席の間にある足置きスペースに米袋を詰め座席と同じ高さになるよう調整する。
その上に銀色の保温マットを敷き端をテープで止めていく。さらにその上に真っ白なラグを敷けば即席ベットの完成だ。
2人では少し狭いがそこは我慢するしかない。
後部ドアを開け、フラットにしたシートの下に缶詰などしばらく使わないであろう物資を入れていくが……。
「入りきらないわ」
顎に手を当てしばらく考え込んだ後、助手席のシートを外すことにした。掃除の際に何度か自力で外したことがあるので問題ない。
ダッシュボードに入れっぱなしになっていたレンチでシートの下にあるボルトを緩め大きな掛け声と共にシートを車外に出した。
出来たスペースに缶詰が入っていたダンボールを使い簡単な物入れを作り食器や調理器具、調味料にタオル、医薬品などすぐに使いそうな物を入れていく。
その後も黙々と作業を続けようやく終わった頃には太陽が傾き、空が暗くなり始めていた。
「もう夕方かあ」
タバコに火をつけ口に咥えながら大きく伸びをする。ずっと中腰の体勢だったため腰や首の骨がパキパキと軽快な音をたてた。
クルスの穴掘りも終わったようだ。
お疲れ様、そう声をかけようとした途端グーとお腹が情けない悲鳴を上げた。
食事の事をすっかり忘れていた。そういえば昨日の朝から何も食べていない。自分はまだ平気だが戦闘に穴掘りと重労働だったクルスはぺこぺこだろう。
「クルス、ご飯にしようか」
そう呼びかけると案の定“喜び”の感情を伝えてきた。
折りたたみ式の小さな椅子にクルスを座らせ、自分は外した助手席に腰を下ろす。
地面にコンロを置き鍋を載せて水を入れて火にかけた。
夕飯はコンビニ弁当。
まずはクルス用の大きめの器にハンバーグや肉団子を移しフォークでミンチ状にしていく。
そして弁当2つ分の白米を鍋に入れ軽く塩をふった後ミンチと共にぐつぐつおかゆ状になるまで煮る。
離乳食を買っておけばよかったと思いつつ、漬物や玉子焼き、海苔などを包丁で丁寧に細かく刻み鍋の中に投入していく。
舌がないのだ。味は適当でもかまうまい。
今は味より明日のため、エネルギーを沢山とって貰わねば困る。
完成した大量のおかゆを器に移しクルスに渡す。
そして地面に置いたカップに水を注ぎ、自分用の弁当を膝に乗せ両手を合わせた。
「いただきます」
「ヴァーヴァヴァヴァー」
後は無言で箸と口を動かし続けた。
◆◇◆◇◆
「あー、お腹いっぱい」
ぐでーっとシートに懐き腹をさすりつつタバコを吸う。正に至福のひと時。
食事を取っている間に辺りはすっかり暗くなっている。
このままシートに懐いていたい気持ちでいっぱいだが、寝る準備を始めなければ。
クルスにシートを譲り、ヘッドライトをつけて使用した鍋や食器類をウェットティッシュで拭いていく。
洗剤を使って洗いたかったが水はミネラルウォーターしかない。流石にもったいないので我慢する。
コンロや食器を片付け、ボンネットに使用済みのウェットティッシュを乗せる。
乾かして火付けやトイレの尻拭きに使う予定だ。何事も資源大事に、の方針でいく。
トイレ用に掘った穴で排泄を済ませスコップで土を落とす。こうすれば匂いはマシだろう。
クルスにも排泄物が見えなくなるまで土をかけるよう命令してある。
索敵スキルで辺りを確認した後、後部ドアを開けて腰を下ろし靴と服を脱ぐ。全裸になり水で湿らせたタオルで簡単に身体を拭う。
クルスの視線は気にしない。以前は兎も角今は男同士。恥ずかしくない。
その後歯を磨き寝巻き代わりのジャージに着替えベットにダイブした。
「クルスー! そろそろ寝るよー」
「ヴァヴァ」
トイレから戻ったクルスに同じように身支度させベットに上らせる。
ドアロックを確認した後ヘッドライトを消し車内灯に切り替えた。
寝転びながら今日一日を振り返りつつ手帳に日記を綴り、これからの予定を書き込んでいく。
「とりあえず明日の目標は水かなあ。お風呂は無理でも毎日身体拭きたいしねー」
「ヴァ」
「後は余裕があったら階段の下にいってみよっか」
「ヴァヴァ」
「んじゃ、それで決まりだね。電気消すよー」
「ヴァー」
暗くなった車内でクルスに毛布をかけ、自らは寝袋を広げた掛け布団に包まる。
服を入れたリュックを枕に目を瞑るが睡魔はなかなか訪れない。
今何時だろう? そう思って腕時計を見ると午後8時。寝付けなくて当たり前、向こうではまだ仕事をしている時間だ。
ごそごそ体勢を何度も入れ替え寝る努力をしていると横から穏やかな寝息が聞こえてきた。
――――クルスのくせに生意気なっ。鼻の穴塞いでやろうかしら。
そう心の中で悪態をつくが本気ではない。暗闇の中でクルスの寝顔を見つめているとだんだん瞼が重くなってきた。
寒そうに身動ぎするクルスに追加でタオルケットをかけてやった後、瞳を閉じ睡魔に身をゆだねた。
おまけ
【亜紀の異世界日記】
異世界1日目。
緑の子鬼が襲ってきた。車揺らしすぎ。壊れたらどーする!?
まあ、知力1だしのーたりんなんだろう。
っていうかさ、コレ車乗ってなかったら即効死んでたんじゃないの?
車ごと運んでくれたのには感謝するけど、担当者出てこい。小一時間ほど説教してやる。サービス精神という物を学べ。
臭い対策どうしよう? 香水は持ってきてるけど使ったらまざってえらいことになりそうな気がする。
とりあえず保留。
クルスが小鬼を倒したらレベルが上がって宇宙人になった。
容姿のステータスって何なの? 数値が増えたのに悪化するとかありえん。
これはこれで愛嬌があるからいいけどさ。次に期待。
※やることリスト※
・水探す。
・階段降りる。
・ナイフの錆を落とす。
・レベル上げ。