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ALIVE  作者: 清 涼
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第一章(四)

 どれ位経っただろうか、剣と剣のぶつかり合う音が静かになっていた。戦闘が終わったのだろうか。耳を澄ますと、威嚇いかくする声や、仲間を呼ぶ声などはまだ響いて来る。

二人は顔を見合わせた。

「終わった、かな?」

恐る恐る顔を覗かせた。

そして、思わず息を呑んでしまった。これが暗がりでよかった。

 池田屋の入り口付近には数人の隊士が疲れ切った様子で立っているが、その隊服、顔には返り血と思われる染みで濡れているのが分かる。二階を見上げれば、障子はほとんど破け、月明かりにうつしだされた格子や柱、壁は血だらけになっていた。建物全体が血に染まっていたのだ。

ごくりと息を呑み込んで視線を移すと、通りの少し先に、提灯ちょうちんを手にした侍が数人と、その後方には何十人という侍が隊列を成している。そして、その侍達と池田屋の間に一人の侍が対峙たいじするように立っていた。土方歳三だ。

「あそこで役人を抑えていたのか」

「すげぇな、ホントに一人でやったんだ」

池田屋での不逞浪士捕縛を新選組の手柄として、会津藩や所司代たちの立ち入りを阻んだとされる土方の振る舞いは後の世まで語り継がれている。これによって新選組の名は世間に恐れられるようになった。

それを二人は目の当たりにしたのだ。自分達の置かれている今の状況などすっかり忘れ、二人は土方に見惚みとれていた。


「お主ら、そこに居たのか」

ハッと顔を上げると、斎藤が立っていた。手には血のついた刀を持っている。鉄のやいばと血の混じった臭いが鼻を衝く。

晃一は既に司の腕を掴んでいる。

「晃一、心配するな。斎藤(はじめ)だ」

「斎藤一? あの三番組の? ・・・、 確か生き残った・・」

「しっ」

言いかけた晃一を慌てて止める。本人を目の前にして本人の未来を語るなどとんでもない事だ。

「何を言っている? とにかく手向かい致すな。ここでじっとしてろ。お前達の沙汰を聞いて来る」

落ち着いた言い方だが、どこかに刺すような冷たさがある。これが、土方が最も信頼していた部下で、新選組でも一、二を争う剣客の斎藤一なのだ。

新選組の数少ない生き残りで、幕末から明治、大正と生き抜いた人物だ。

「なぁ 司、本物、だよな。 なんか、すげぇな」

「ああ」

二人は土方と話をしている斎藤を目で追った。寡黙な人物で知られる斎藤一は、生き残った後も多くを語っていない。新選組が関わった事件でも必ずと言っていい程になんらかの形で関わっているのは斎藤だ。恐らく多くの秘密を抱えているだろう斎藤には何かしらの興味を抱いてしまう。

斎藤がこちらに視線を送った時には思わずドキッとしてしまった。

やがて、二人がこちらへと近づいて来た。

「まだ居たのか。早く姿を消せと言った筈だぞ。あいつらに見られると面倒になる。が、まぁちょうどいい、斎藤と一緒に総司を会所まで運んでくれないか」

「いいのですか?」

「ああ、構やしねぇ。斎藤、それにお前がついててくれりゃこいつらも危なくねえし、ついでに後で詮議も出来る。 それに・・」

一度司に目を落とすと、振り向いて隊士に抱えられて出て来た沖田を見ながら、

「総司が血を吐くと言ったのはこいつだ」

と言って、再び司に向いた。他にも何か言いたげだったが、それを呑み込むと、

「まぁいい。とにかく急いで運んでくれ」

そう言って沖田の元へ歩いて行った。

 司と晃一は立ち上がると、土方と斎藤に抱えられて来た沖田を引き継いだ。

「まだ、いたんだ・・」

少し苦しそうな息遣いで二人を上目遣いに見ると苦笑いを浮かべた。

「 ったく、気丈なヤツだな」

晃一が少し呆れて言った。

 沖田の右側に立った司に沖田は一瞬ビクッと警戒したが、司は黙って首を横に振った。勘念したように息を吐いた沖田に斎藤も緊張の糸を解いた。さすが剣客だ。利き腕側には警戒心が強い。

暗い路地を歩きながら司は右手で沖田の体を支えるように気を送った。時々苦しそうにむせていた沖田だったが、送られて来る気を感じたのだろうか、ふっと緩むような表情を司に向けた。


 鴨川に掛かる橋のたもとまで来た時、ダダダっという人の駆ける音が聞こえたかと思うと、4,5人の侍に囲まれてしまった。

「ヒエっ」

晃一は短い悲鳴を上げると1歩後ろへぐいっと引いてしまった。その拍子に晃一と沖田がひっくり返りそうになる。


 カキーーンっっ!!


一斉に刀が抜かれて振りかざされた。それを一瞬早く刀をを抜いた斎藤が応戦する。

「何ヤツっ!?」


 ゴホっ ゴホっ ゴホっ


 カキーーンっっ


沖田がむせ返るのと、沖田の刀を素早く抜いた司が、突かれて来た剣を弾き飛ばすのが同時だった。

「司っ!?」

「晃一っ、そいつを頼むっ」

叫びながら靴で地面を蹴り上げ、飛び掛って来る侍を蹴散らす。その間に晃一は、激しく咽返る沖田を引きずるように争いから遠去けた。そして、斎藤と司が本物の刀で戦っている様を茫然と見ていた。

「おのれーーっ、新選組っっ!!」

一人の侍が司に斬りかかって行く。

 

 ガンっっ!!


剣と剣が激しくぶつかり火花が散った。


 ぐぐっ・・・


二本の剣がお互いを激しく押し合い、鉄と鉄のやいばきしむ音がギギギっと鈍く鳴る。

「オレは新選組じゃねえっつうのっ」

もの凄い力で押され、歯を食いしばった。だが、相手もかなりきたえ抜かれた男だ。次第に司の体が後ろに押されて行く。

「とあーーっっ」

不意に背後から剣を振り下ろされる気配がした。


 カキーーンっっ


一瞬で斎藤が入り込み、それを避ける。

「 ったく、一騎打ちじゃねえのかよっ」

吐き捨てると、足を蹴り上げた。

「うわっ」

相手がひるんだ隙に一気に剣を振り下ろす。


 ガンっ


鈍い音がすると、目の前の男はそのまま倒れて動かなくなった。が、すぐ様もう一人別の男が斬り込んで来る。再び構えて突き上げるとその刀を弾き飛ばし、その男の首にも一撃加えた。刀が地面に落ちるのと同時に男も崩れた。


 ザシュっっ


背後で音がする。振り返ると、斎藤が男を水平に斬ったところだった。


 タタタっ・・・


最後の侍が沖田と晃一目掛けて刀を振りかざして走って行く。瞬間、司は倒れていた男の小太刀を抜くと、それを放った。

「うわーーっっ!?」

という晃一の悲鳴と同時にその侍がどっと倒れる。その背中には小太刀が突き刺さっていた。




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