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ALIVE  作者: 清 涼
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第一章(三の2)

 あともう少しだろうか、往復して全速力で走ればさすがに司でもすっかり息が上がってしまっている。それに、彼らの足は陸上選手並みに早い。

一人二人と抜かれ、池田屋に着いた時には一番後ろに付いていた。

隊士らは既に加勢に入り、原田達も裏口に回っている。そして、中からは激しい斬り合いの音が聞こえた。


 はぁっ・・、 はぁっ・・・


膝に両手を付いて息を整えていると、誰かが目の前に立った。

「大丈夫か?」

顔を上げると土方が立っていた。司は返事をする事も出来ず、肩で息をしたまま軽く頷いた。ポンと肩を叩かれ、再び顔を上げると、先程まで見せていた鋭い殺気はなく、労うような優しい目をした土方が、よくやったと言わんばかりに頷いた。つられて司も笑みを浮かべた。

 赤い月灯りに映し出された土方は、資料で見た写真以上に凛々しい。役者のような顔立ちだったと記録されているのも頷ける。全身からかもし出される士気も半端ではない。オーラがあるというのはこういう事を言うのだろう。本物の男らしさを兼ね備えていると思った。

現代にこれだけ猛々しい男はいないだろう。

女でなくても惚れる。

そう思った自分に思わず照れ笑いを浮かべてしまった。

「ご苦労だった。あとは俺達がやる。お前はすぐにここを離れろ。そんな格好でいれば怪しまれる」

そう言って、司の頭から足の先まで目をやると、不思議そうに首を傾げた。

 到底この時代では余り目にしない。短くカットされた髪に、黒いカッターシャツ。捲り上げられた袖から出る腕も細い。そして、そのその手首には金色のブレスレットが巻かれている。そして、黒い細身のズボンに革靴。西洋に影響を受けた者が身にまとっていた格好なのでいくらかは見た事もあるが、まだまだ一般では珍しい。

「お前も来いと言っておいてそれはないだろ。 まぁ、邪魔はしないけどちょっと勝手にさせてもらうよ。 あっと、それと土方さん」

「何だ?」

少し苦笑した土方に大事な事を言わなければならない。

「さっき、会津藩の密偵が報告に行ったみたいだから、そろそろここに来る頃だぜ」

「 ・・・、 そうか」

一瞬、何か考えるように目を伏せた土方が次に見開いた時には、鬼の副長と呼ばれる程の鋭い眼光を携えていた。思わずドキっとするほどだ。

「ここで手柄に出来るはお前のお陰だ。礼を言うぞ。 俺は新選組副長、土方歳三。お前は?」

「光月司」

「光月司か、覚えておくぞ」

そう言ってきびすを返すと、中へ入って行った。

 

 覚えておかなくていい


そう心の中で呟くと、激しく争われている池田屋を見上げた。

 中は激しい斬り合いだ。斬られて血を流し、仲間に抱えられながら外に出て来た者もいる。返り血だろうか、隊服や顔や手に血がほとばしっている。そして、手にした刀からは血が流れ落ちていた。

血の臭気が辺りに漂う。

これは夢や幻想ではない。本物だ。

池田屋事件から新選組の幕末の動乱が始まったと言ってもいい。ただの不逞浪士取締りから、日本の維新を懸けた戦いに巻き込まれて行く運命にあった彼らの始まりの戦いでもあったこの本物の斬り合いを、司はしばし茫然と見ていた。


「 っさ、・・・、司っ」


微かに自分を呼ぶ声がする。ハッと我に返り辺りに目をやると、路地の陰から晃一が顔を出した。

「晃一っ!?」

すっかり晃一の事など忘れていた。思い出して駆け寄ると、すっかり怯え切っている晃一がしがみついて来る。

「大丈夫か?」

「 ・・・、なわけねぇだろ」

「だよな」

かすれるように返事をする晃一に少し苦笑してしまった。それに、自分自身この状況の中で大丈夫だとは言い切れないのだ。

 二人は壁に寄り掛かって腰を下ろすと、聞くともなしに聞こえて来る激しい斬り合いの音を耳にしながら、幕末の動乱の夜空を茫然と見つめていた。





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