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ALIVE  作者: 清 涼
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第一章(三)

「四国屋か・・・。間に合うか?」

司は走りながら考えていたが、実際には土方隊は間に合って援護しているのだ。それに、ここからも然程さほど遠くはない。

一瞬ためらった。

何もここで自分が行かなくても何ら問題はないのだ。それならこのままこの動乱から逃げるか。しかし、せっかくここへ来たのだから見届けるのも悪くはない。

また悪いクセだ。

「ま、いいか」

あれこれ考える前に、近藤との約束を果たす方が先だ。そう思い直して角を曲がった。

さすがにこんな夜更けでは人もいなければ灯りもない。月明かりだけが頼りだ。

夜空を見上げると、ビルの間から見えたほんのり赤い下弦の月が怪しげに光っていた。

 辺りを見渡し、池田屋と同じような造りの建物の前でその看板を確認した。

「ここか」

そして、少し先の物陰に十数人の気配を感じてそちらへと歩き出した。


 カチャ


刀の束に手を掛けた殺気を感じた。ササっという地面をる音が聞こえる。月明かりに映し出された隊服を確認して司は彼らに近づいた。

だが彼らは、動くことなく静かだ。しかし物凄い殺気を感じる。そして、さらに近づいた。

「誰だっ!?」

一気に囲まれる。

見れば皆が鞘に手を掛け、いつでも刀を抜ける構えになっている。刀を抜いていないのは司が刀を持っていない事に気付いたのだろうか。


 凄いな・・・


思わず感心してしまった。本物の剣客達だ。少しでもこちらに不穏な動きがあれば一瞬の間に斬られてしまうだろう。居合いとはそういうものだ。

しかし、そんな殺気立った剣客達の前列にいる至って物静かな男は両手を下ろしたままだった。そして、その風格から彼が中心人物である事が分かる。それに、どこかで見覚えのある顔だったからだ。

「あんたが土方さん?」

臆することなく聞いた。

「だとしたら何だ?」

余りにぶっきらぼうな答え方だ。少し呆気に取られたが、侍の格好はしていても元は農民の出である事を思い出して一瞬気が緩んでしまった。

しかし次の瞬間には思わず息を呑んでしまった。音もなく一つの剣先が、自分の喉下を突いていたのだ。

その剣をたどって行くと、少し痩せて背のすらっとした男と目が合った。その目には、鋭く研ぎ澄まされたやいばのような眼光が一筋入っている。明らかに他の隊士とは違う剣客である事が分かる。沖田総司も相当な腕の持ち主である事は史実でも言われているが、確かに先程会った時にもそれは感じて取れた。だが、今目の前にいる彼は、沖田のような嫌味や意地悪さはなく、その心が感じて取れない程に冷静そのものだ。

少しでも動こうなら、隙もなくられるだろう。

司は、こちらにその気がない事を伝えるように息を一つ吐いた。

「あんたらの大将の近藤さんからの伝言でね」

その瞬間、土方の目が鋭くなる。後ろに控えている隊士の殺気も一段と鋭くなった。目の前の剣先にも冷たい物が流れるようだ。

が、司のポケットから差し出された物を土方が受け取ると、喉下の剣が下りた。

そして静かにその刀が鞘に納められる。

「で、近藤さんは何と?」

「本命は池田屋」

「何っっ!?」

「土方さんっ!?」

土方以下全員に動揺が走る。が、土方はふっと苦笑したような息を吐くと、素早く刀を抜いて司の鼻先に突き付けた。

「なぜ貴様を信用しなければならない? これが本当かどうか分からない。だとしたら嘘かもしれないだろう?」

その言葉に隊士達の殺気が土方の刀に集中する。

「嘘かどうかはオレにはどうでもいいよ。ただオレは近藤さんと約束しただけだ。それに、近藤さん達はすでに池田屋に突入して乱闘になっている。会津藩も動いていないんだ。あの人数じゃ、早く助けに行かないと死人が出る。 ・・・、それに、沖田総司も血を吐くぞ」

「な・・に・・?」

さすがの土方にも動揺が走った。目の前に突然現れたこの見た事もない格好の人間に、今夜の自分達の行動を見透かされ、事もあろうか自分が一番信頼している近藤の伝令だと言われ、どこをどう信じていいものなのか戸惑いは隠せない。一瞬の底知れないためらいが土方を襲った。

「どうしますか? 土方さん」

先程司に刀を突き付けた男が物静かに口を開いた。

「 ・・・。 斎藤はどう思う?」

土方は刀を司に向けたまま聞いた。

「この状況ではそやつを信じる事は難しいでしょうが、嘘を言っているとも思えません」

斎藤と呼ばれた男は答えながらも、ずっと司から目を離さないでいる。一切の隙を見せない。

「それに、所司代たちの動きが遅すぎます。会津藩が動いていないというのも納得出来ます。 それに・・ 」

「それに?」

「四国屋が静か過ぎます」

「そう、だな」

斎藤の言葉に迷いが取れたようだ。刀を下ろして鞘に納めると、一度口の端をニッと上げた。

「命拾いしたな」

そう司に言うと、近藤のお守りを司に返した。

「お前が何者かは後で詮議する。お前も来いっ。 皆行くぞっ!」

土方の一喝で司は返事をするまでもなく、連れ去られるように隊士達に囲まれたまま走り出していた。

 土方を先頭に隊士が続く。

全員の士気が高まり一つの殺気として走っていた。そして、これから始まる戦いの場へ向かって駆けて行た。

だが司にはそれとは別の方向へ向かって行く気配を感じてそちらへと目をやった。黒い影が奥へと消えて行く。今まで新選組の気迫に押されて気付かなかったが、まるで監視されていたような感覚だ。思わず透視していた。

「俺は十番組組長の原田佐之助だ。お前は?」

走りながら槍を持った男が司の横にぴたりと寄せてニッと笑った。

「光月司」

「司か、よろしくな。とりあえず土方さんに代わって礼を言うぜ」

原田の言葉に思わず笑ってしまった。確かに鬼の副長と異名を持つ土方だ。たかが伝令ごときに一々礼など言わないだろう。それに司とは初対面だ。

だが冷静に考えればよく見ず知らずの自分の事を信用してくれたものだ。最初に土方の殺気を感じた時に斬られると思った。なぜなら仲間でさえも規律の為には容赦しない男だからだ。近藤と同じくした局長だった芹澤鴨を斬ったのも土方だと伝えられている。この後、同志であり親友でもある山南敬助を切腹させるのもこの土方だ。土方歳三、幕末の動乱を駆け抜けた計り知れない心の持ち主であるこの男の背中をじっと見つめた。


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