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ALIVE  作者: 清 涼
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第五章 箱館の変 (一)

「は~るばる来たぜハコダテ~~♪」

思わず拍子に合わせると、右手を高々と上げてコブシを作ってしまった。

「でたよ・・・」

「ナンだよ、付いて来てくれよ」

「ムリ」

一人浮かれたように言った晃一だったが、他のメンバーのしらっとした視線をまともに受けてがっくり肩を落としてしまった。

「つっかさく~ん」

皆と離れて一人展望台から街を見下ろしている司に気付いて近づくと声を掛けた。

「寄るな」

「冷てぇなぁ。 ・・・、ところで司、とうとう此処ここまで来ちまったけど、そういやあの後、何もなかったよな」

「 ・・・、そうだな」

一瞬考えた司だったが、上野で土方と別れてからは何もなく、無事、現代の生活とライブのスケジュールを過ごす事が出来ていた。

 跡を追うように福島・宮城・青森とライブの為に訪れ、その度に少しドキドキしていたが、タイムスリップする事はなかった。

ただ、その地へ向かう道中や訪れた時にはやはり幕末の動乱の事を考えずにはいられず、資料を見ながら彼等の事を想像し、重ね合わせると胸が痛んだ。


 慶応4年4月11日、江戸城が引き渡された後、土方は江戸を脱出し、旧幕府軍と合流して翌日には大鳥圭介らと共に宇都宮に向かった。

原田の予想通り、19日には宇都宮で開戦し、宇都宮城を落城させた。だが、その4日後には新政府軍に奪い返されている。その時負傷した土方に代わり、先に会津に着いた斎藤一改め山口次郎が新選組を率いた。そして会津は史上最悪の悲劇に見舞われてしまったのだ。恐らく今の大和魂の根本であろうと言われる会津魂を貫いた結果の惨劇さんげきだったのだ。


「結局、斎藤さんは、会津に命を懸けたんだもんなぁ」

晃一は斎藤を思い出して言った。

少し先の眼下には星の形をした五稜郭ごりょうかくが見える。堀の緑が見事にかたどっていた。

「結果、チャンスつかんで生き延びたって訳か。運が良かったんだな。しかもあんだけうらまれた新選組の幹部でも、新政府の下では警察官だもんな。 ・・・、あれ? けど、警察官って、結局新選組と同じじゃねぇか」

「あん?」

「やってる事」

黙って晃一の話を聞いていた司だったが、結局斎藤は生涯新選組だったのだと思うと、少し笑ってしまった。

『新選組は、俺の生きる道だ』

そう言った斎藤の言葉が忘れられない。

「そして土方さんは、五稜郭か」

「 ・・・ 」

黙って眼下を見下ろした。

確か、一本木関門で撃たれ、その後の混乱に紛れて五稜郭に埋葬されたと伝えられている。

この辺り一帯は林で覆われていただろう。5月と言えば新緑の季節。春が遅い北海道でもこの時季、木々は生い茂っていた筈だ。


 桜は咲いていたか?

 それとも散ったか?


思わずそんな事を考えてしまった。

「でも・・・」

不意に晃一が言った。

「土方さんが五稜郭に埋葬されたっていう事実は、今のところ確信がない、よな」

「 ・・・、確かに・・・ 」

当時、まだ敵の大将の首を取る風習があったせいか、死んだ土方の首を取られまいと、部下達が必死になって隠したとも言われ、土方の遺体を本当に見たという者の証言が資料上ないのだ。土方の埋葬先を知られ、掘り起こされまいとしたのだろう。それだけ、土方への信望は厚かったのだ。

「生き残った斎藤さんや永倉さんの墓はきちんとあるし、局長の近藤さんだって斬首されて埋葬されてる。沖田総司だって病死したのは間違いないし、新選組の幹部の中で、死亡が曖昧あいまいだったのは、藤堂平助と原田左之助、それに、土方歳三だよ。どうする?」

そこまで言って晃一は少し不安な視線を司に向けた。

「大丈夫、心配すんなって。土方さんは間違いなくこの函館で死んだんだから。ただ、混乱に乗じて・・・」

その先を言おうとして思わず息を呑んでしまった。

「その混乱に乗じて逃げたって事はないだろうな?」

代わりに晃一が言う。

「まさかぁ。だって見ろよ、この地形だぜ。どう見たって逃げ場はないだろ。八方はっぽうふさがりだ」

司は眼下を遠くの方まで見ながら言った。

これだけひらけていれば、逃げようがない。それに、両側にある海からの進軍でははさちだ。腰を撃たれて落馬したとなれば、その体を動かして逃げる事は、そう容易な事ではない。

しかし司としては、土方には生きていて欲しい。何処どこかでそう願わずにはいられなかった。


「司ぁっっ!!」


その時、離れていたメンバーから悲鳴に近い叫び声が聞こえ、二人はハッと振り返った。


 !?


スタッフが何人か荷物や服を振り回しながら逃げ回っている。

「逃げろーーっっ!!」

秀也とナオがものすごい勢いで走って来ると叫んだ。

「何だよ?」

「ハチっ! スズメバチの巣があったんだっ!!」

「ええーーっっ!?」

一瞬にして回りは大パニックになっていた。

ブーンという大きな羽音と悲鳴。展望台にいる全員が逃げ惑っている。

「うわっっ、来るっっ!! 飛び降りろっっ!!」

「うわーーっっ!!」

もみくちゃになりながら4人は目の前のさくを乗り越えた。


 ズザーーっっ!!


とたんに急な勾配こうばいを転げ落ちるように滑る。司も体制を何とか維持しながら滑っていたが、ふとした瞬間に、晃一・秀也・ナオの体を一気に受け止めてしまい、それが抑制出来ずに、何かに体を打ち付けてしまった。そのうち、もの凄い速さで通り過ぎて行った緑の景色も見えなくなり、風の音も何もかも聴こえなくなってしまった。



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