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ALIVE  作者: 清 涼
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第一章(二)

っっ!?


余りに驚きすぎて声が出ない。それどころか思い切り息を飲み込み過ぎて窒息しそうだ。

「何者っ!?」

声と共に瞬間二人は物凄い勢いで両壁へと体を押さえ付けられた。

一瞬何が起こったのか分からない。

ただ、物凄い力で喉下を何か固い棒のような物で押さえ付けられているのは確かだ。じりじりそれが顎を持ち上げて行く。

「 ・・・っく・・・」

凄い力だ。きっと相当の武術の使い手だろう。司にはそれが感じて取れると、抵抗しようとする事を考えるのをやめてしまった。それに相手は数人もいる。

「何者だっ!?」

かなりがっしりとしたいかつい顔つきをした男が、司を更に締め上げながら言った。

何とか自分の手をその捕まれた腕に触る事が出来るくらいだ。しかしその腕は余程鍛錬されたと思われる程、固い筋肉で覆われていた。


 っくく・・・


歯を食いしばって耐えてはいるが苦しさは増すばかりだ。息をするのもはばかられる位だ。

「新八さん、それじゃぁ、答えられないですよ」

その後ろからすこし食ったような声がする。とたんに男の腕が緩む。

「あ? ああ、そっか」

新八と呼ばれた男が司の首から手を離すと、司は苦しそうにはぁはぁと息を吐いた。そして、その男の顔を見ようと少し顔を上げた瞬間、今度はシャキっという微かな音と共に鼻先に何かを突き立てられた。

それが鋭利な刃物の先である事はすぐに分かる。

「ちっ、ちょっと待った・・」

同じように向かい側で首と腕を押さえ付けられていた晃一が、かすれたような声を出した。

そして、勘念したように両手を上げる。

「お、俺達、撮影の邪魔はしないって。だから、ちょっと勘弁してくれよ」

少し情けない声で言うと、浪人風に長い髪を束ねた目の前の男の肩越しから司に視線を送った。

すると、司の目の前でふんと鼻先で笑う声がする。

「君、何言ってるのかな? 訳の分からない事を言うと斬っちゃうよ。 平助、斬っちゃっていいんじゃない?」

と、さらりと言った。とたんに剣先から冷たい物が流れて来るようだ。その先にある細長い眼から殺意という閃光が司に向けられた。「GO」という誰かの命令があれば即座にこの剣が突かれる。「剣」というよりこれは「刀」だ。

 平助と呼ばれた男が晃一の首から腕を離すと、既に抜いていた刀を晃一の目の前に持って来る。

「ちょっ、司っ・・・!?」

晃一は慌てて司に声を掛けたが、司に刀を突き立てている男の羽織の柄に気付くと息を呑んだ。

既に司は気付いていたのだろうか、体は硬直し、顔もこわばっているのが分かる。しかし晃一にはどうしてもこれが何かの演技としか思えてならない。とすれば、この目の前にあるどう見ても本物にしか見えない刀も実はよく出来た作り物で、「斬る」とは言いながらも実際には切れないのではないか。それに、もし仮にそんな事をして晃一がケガでもするような事になれば立派な傷害罪だし、第一本物の刀を持ち歩くだけでも銃刀法違反などという立派な犯罪にもなるのだ。


 - 多分、大丈夫だ -


妙な過信からか、晃一は上げていた手の片方をゆっくり下ろしかけた。

「晃一っ!?」

「 っ!?」

瞬間凄まじい殺気を感じた晃一は、驚いて再び両手を真っ直ぐに上げた。が、次の瞬間、首に冷たい刃先が当たる寸前の所で、その冷気だけが感じて取れていた。ほんの少しでも動けば間違いなく切れる。

「晃一、動くな、本物だ」

その言葉に呑み込もうとしていた息を一旦止めると、次にゆっくりゆっくり呑み込んだ。

「君、物分りが良さそうだね。でも、そこまで動揺してるって事は、何かな? まさか僕達が新選組だって分かったら、何かマズイ事でもあるのかな?」

司に刀を突き付けるその男の目はいやらしい程の殺気に満ちている。

体の線は細いが、隙がなく、研ぎ澄まされた精神力を持っていることが伝わって来る。そして余裕の笑みさえ浮かばせているそれは、不気味という言葉さえ当てはまる。

「早く答えねぇと総司に斬られるぞ」

新八が小声で脅す。

 司は、先程自分が目にしたこの信じ難い水色に袖口を山形に染め抜いてある羽織に何一つ納得の行くものがなく、今のこの状況をどう判断すればいいのか戸惑いを隠せずにいたが、三人の男達の名前を耳にした時、ようやく今の自分を取り巻く状況を察した気がした。

「総司、・・・、沖田総司。新選組一番組組長の沖田総司。そして、二番組組長永倉新八、そっちが八番組組長の藤堂平助。そして、近藤勇」

軽く息を整えながら冷静に言うと刀が下りた。

一人のがっしりとした男が沖田総司を下がらせたのだ。鉢金の下から覗く鋭い気配から大将である風格を伺わせ、それが荒ぶる新選組を束ねる局長近藤勇である事が分かる。

何かの資料で見た写真からもその気迫は伝わって来るが、生身の肌でそれを感じると、さすがの司でさえも身震いするほどに怖気づいてしまう。

能力者狩りのタランチュラと異名を持ち、数々の能力者を葬り去っていた司だが、それでもこの目の前にいる剣客達には到底敵うものではない。

ましてやこの近藤勇は、動乱の幕末を駆け抜け、維新の志士達と肩を並べる程にその名を残した天然理心流の道場のあるじなのだ。

「我らを新選組と知っての事か。何ゆえこのような所に居る?」

どっしりとした落ち着きのある声だ。だが司たちが剣客でない事をすぐに理解しているのだろう、少し優しさを含んだ声だった。

「ここは?」

「ここは三条小橋を少し入った所だ。お主らは道に迷ったのか? ならば案内しよう」

「近藤さんっ、こいつらが怪しい者くらい見りゃわかるでしょ? 早いとこ始末した方がいいですよ」

永倉新八が少しとがめるように言った。

「よさんか、むやみに殺してならん。それに、この者達が不逞浪士でない事くらいすぐ分かる。 ・・・、にしては、お主らの格好は・・・」

近藤は言いながら司の姿を上から下まで見下ろすと首を傾げた。

「怪しすぎる」

藤堂平助は既に下ろしていた刀をまるで脅すように自分の顔の前に上げると、晃一の姿を見回した。

「いやいや、怪しくないって。俺達フツーの格好。お前らの方がおかしいって。ま、このセットん中じゃ似合ってるけど」

晃一のセリフに司は呆れたが、今のこの状況を説明する程の余裕はない。

「で、君達はここで何してるの?」

再び沖田が口を開く。

「こんな時間に出歩いているなんて普通じゃないよね? それに、どう見たって異国の装いみたいだし。まぁ、剣を持っていないって事は、武士ではないみたいだけど、だからと言って不逞浪士ではないって決め付ける事は出来ないしね。もしかして君達って、攘夷派の人なのかなぁ?」

とびきりニヒルな口調で淡々と言う沖田に晃一は何となくムッとしてしまった。

「異国だ、攘夷だって、この時代に何言ってんだよ。 ったくここは幕末かって・・」

「晃一っ、それ以上言うなっ」


 っ!?


その瞬間、再び沖田の剣先は司の喉下を突く。

「 ・・・、どういう事か説明してもらおうか?」

沖田の眼光に鋭い殺気が漂う。

司は自分でも上手く説明のいかないこの状況にじりじりと焦りを感じ始めていた。



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