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ALIVE  作者: 清 涼
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第四章(二の2)

「司」

今度は自分が呼ばれ、我に返ると、晃一の前に座り直した。

「驚いただろ?」

すっかり落ち着いたような晃一に言われ、「うん」と、素直にうなづくとタバコに火をつけた。そして、何の言葉も見付からず黙って煙を吐いた。

「なぁ、司」

晃一が切り出したので、思わず顔を上げる。

「ん?」

「思うにさ、このままずっとここに居れば、そのまままた、元の東京に戻れるんじゃないかと・・・」

「ああ?」

「だって、別に何処どこかに行ったとかいうんじゃなくて、その、何だ? 此処ここに座ってただけだろ? 俺達」

「まあ、な」

素っ気ない司の返事に晃一は少し不安になってしまい、それをごまかすように酒を一口呑んだ。そして、晃一も同じようにタバコに火をつけると、司の頭上に向かって煙を吐いた。

「ところで晃一、ここは今、何の時代だと思う?」

そう言って一服吸うと、天井に向かって煙を吐いた。二人の吐いた白い煙がゆらゆらと天井を伝って流れて行く。

「まあ、状況から考えれば、あのまま幕末の江戸ってとこか?」

「そうだな、・・・、って事は、これから此処ここはすっげぇ荒れるって事だよな・・・」

「荒れる?」

「 っていうか、場所が京都から東京に移って、しかも形勢逆転。薩長が優位に立って、幕府側は・・・。 で、今がいつなのか分かんないけど、これから東北・箱館で戦争だな」

そして急にやるせなくなってしまうと、二人共黙ってしまった。

司はそれを吐き出そうと、再びタバコを吸うと、顔をそむけて下に向かって煙を吐こうとしたが、瞬間のれんが上がり、驚いて顔を上げると、そのまま煙を真っ直ぐ前に向かって吐いてしまった。


「ケホっ ケホっ ケホっ・・・」


目の前の黒い頭がき込んだ。

「悪ィ・・・」

呆気に取られながら謝ったが、余りのタイミングの悪さにそれ以上の謝罪の言葉が見当たらない。

「ケホっ、てめェっ 何しやがるっ ・・・ ケホっ」

一瞬顔を上げた男が凄んで言うが、再び咳き込んでしまった。


 あれ?


しかし、次の瞬間、互いに何かに気付いて思い出そうとハッとすると、男が再び顔を上げた。その顔を見たとたん、司も晃一も、その男も、「あっ!」と言ったまま、互いに釘付けになってしまった。

「お前っ!?」

「え・・っと、原田さんっ!?」

無造作に束ねた黒髪に、黒くて大きな瞳が印象的だ。あの時より更に浅黒い肌になったように思われる。それに、いくつかの修羅場を乗り切って来たようなそんな雰囲気をかもし出していた。

「司と晃一じゃねぇか、ひっさしぶりだなぁっ」

驚きを隠せないまま大喜びで、自分が何をしに来たのかもすっかり忘れ、ずかずか上がり込むと、司の隣にドカっと腰を下ろしてしまった。

「原田さぁん」

隣から声がする。

「おうっ、悪ィが先、行っててくれ」

原田が腹の底から吠えるような声で応えると、「しょうがねぇな」という声が聞こえて来る。晃一が「いいんですか?」と訊くと、「気にするな」と、少しうんざりしたような顔をして言った。

 久々の再会だったが、司と晃一は少しためらいがちに顔を見合わせた。

なかなか原田が口を開こうとしなかったが、隣から「じゃあな」という声がして、「おう」と、原田が返事をすると、原田の連れが帰って行った。

すると、ようやく原田が「ふう」という大きな息を一つ吐いた。

「どうしたの?」

「ふっ、おめェは本当に簡単に聞いて来やがるな」

苦笑しながら司を見るが、緊張の糸が解かれたようだ。すっかり肩の力が抜けている。

「あいつらはかなり血気盛んだが、イマイチ俺は乗り気になれねぇ」

「え?」

「ああ、・・・ おっと、その前にお前らには言っておかねぇとな」

改まったような原田に司と晃一も少し緊張する。

「俺はもう新選組じゃねぇんだ。ついこの前、近藤さんとはたもとを分かった。今は新八と靖共隊せいきょうたいってのをやってる。ま、やってる事は新選組とそう変わんねぇがな」

そう言って、司の酒を取ると、ぐいっと呑んだ。

「 って事は・・・」

司と晃一は息を呑んで顔を見合わせると、再び原田に視線を送った。



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