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ALIVE  作者: 清 涼
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第四章(二)

「チェっ、結局秀也とナオって、分かってねぇんだからっ・・・、ったく、あんな言い方しなくたってっ・・・」


憮然ぶぜんと晃一は言うと、右足で地面をった。

 結局、ライブ開始まで何故かあのまま幕末新選組談議をしてしまい、何となく納得の行かないままライブを行い、その余韻に浸るというより、晃一としては何故か司と二人で話しをしたいという衝動に駆られ、そのままメンバーと別れて二人で出て来たのだった。

「まぁ、仕方ないだろ。そういう見方もあるって事だよ。それに、よく考えてみろよ。オレ達はあの時土方さんに世話になったから新選組側で見てるけど、これが、桂小五郎と会ってたらどうなってると思う?」

「あ・・・」

「だろ? 新選組は完全な敵だぜ」

司に言われ、晃一は思わずハッとすると、二人は顔を見合わせた。

「それに、秀也とナオの言ってる事だって一理あると思うよ。漠然と客観的に見たらそうだと思うし、不動堂村の屯所に行った時だって」

言いながら路地裏の小料理屋の引き戸を開けた。

「いらっしゃいませ。・・・ 奥へどうぞ」

何処どこからか声がしたのでそのまま奥に入り、靴を脱いで座敷に上がる。天井近くまであるつい立でほとんど個室に近い。少しホッとして二人は向かい合って座ると、出されたお茶を飲んだ。

「 ・・・、で?」

注文を終え、身を乗り出して晃一が訊く。

「ああ、えーっと、あの時ね・・」

思い出して、持っていたタバコに火をつける。

「あの屯所にいた時、土方さんは来てくれたけど、あんな大事な頼み事でも近藤さんは顔も出さなかったなって、思ってさ。で、あの後、こっちに戻ってから本読んだけど、結構な大名気取りだった、って話だから、何となくそれもかぶって近藤勇って、好きになれなくなちゃってさ」

溜息ためいきをつくように言うと、再びタバコを吸った。そして、いつの間にか運ばれて来た冷酒に口を付ける。

「確かにな・・・」

晃一も少し納得するように頷くと、冷酒を口に含んだ。

冷酒独特の甘い澄んだ香りに、和室の落ち着いた香りが重なると、喧騒けんそうを忘れるような心地良さに包まれる。

だが二人は急に深妙に考え込むように黙ってしまった。触れてはいけない所に触れてしまったような気分だ。

何故なら、その近藤の傲慢ごうまんさに耐え兼ね、鳥羽伏見の戦いで敗戦した後、新選組は決定的な分裂をしてしまうのだった。


 土方はどうしているだろう・・・


ふとそんな事を二人は同時に思い、深い溜息を付くと、一瞬目を閉じた。

そして、同時に溜息を付いていた事に顔を見合わせると、苦笑してしまった。

「ま、考えたって・・・、とりあえずはもう、過去の話だ。 ・・・、にしちゃ、あちらさん、結構熱いなぁ」

晃一は、司の背にあるつい立をひじを付きながら人差し指で指した。

何かの議論でもしているのだろうか。時々、腹の底から響くような相槌あいづちが聞こえて来る。

それにしては静かな筈の店内が急にざわついているのは何故だろう。まあ、恐らく客が多勢で入って来たのだろう。そう思い直して、司は再び冷酒をぐいっと飲んだ。そして、運ばれて来た料理に手を付ける。

「そういやお前、2曲目のアタマ、出遅れただろ?」

思い出したように司が晃一をにらむ。

「わりィっ」

すかさず晃一は両手を合わせた。

「 ったく、邪念じゃねんは捨てろよな。あいつらの言った事に気にし過ぎなんだよ。あれはあれ、ライブはライブだろがっ。それに、新選組なんて、元々オレ達には関係ねぇんだから」

「おかみィ、酒っ」

司の言葉をさえぎるように、隣の男が座敷ののれんを上げて大声で叫んだ。

 

 え?


「おかみ?」

思わず二人は顔を見合わせ、晃一がそっとのれんを上げて、店内をのぞく。


「 ・・・ 」


瞬間晃一は手を下ろすと、顔を引っ込めた。息を呑む事すら忘れ、目を大きく見開いたまま司に視線を送る。

「どうした?」

その問いに、ようやく息を飲み込むと、黙ってのれん越しの店内を指す。

司は何だよと言わんばかりに、軽くのれんをけて店内を見たが、そのとたん、晃一と同じように手を離すと、顔を引っ込めてしまった。


「う・・っそだろ・・・」


呟いて晃一を見つめたが、晃一は放心状態だ。司は再びのれんを上げて店内を見渡した。

「あら、そちらのお客さんもかい?」

不意にかれ、見ると、髪を結ったかすりの着物を着ている女がこちらを見ている。どう見ても時代劇の衣装だ。

「え?」

「お酒、お替りかい?」

「あ・・・、えーっと、オレ達はいいよ」

「そうかい、また何か用があったら呼んどくれよ。それにしちゃ、綺麗きれいな顔してるね、あんた」

チャキチャキ言われて、呆気に取られてしまった。

「いやだわ、そんなに見つめないでおくれよ。照れるじゃないか」

頬を赤らめ、手を横に払う。

「おい、おかみ、何やってやがる。早く酒持って来てくれ」

少し呆れたように隣の客が言うと、「あいよ」と、少しふくれたように返事をして去って行った。

 つい今しがた入った小料理屋の店内は少し薄暗く、カウンターに座敷が数席というこじんまりとしていた筈だったが、今目の前に見える店内は、少しだだっ広く、大きな柱がいくつかあり、座敷も四方にある。何よりそこで酒を呑んでいる男達は、まげをつけた和服姿の侍や町人ばかりだった。

思わず呆然としてしまうと、すぐ隣でチッという舌打ちが聞こえ、わずかばかりに、こちらに対しての殺気を感じてしまった。ふと見上げるようにそちらに視線を送ると、色黒の浪士風の男にギロリとにらまれてしまい、首をすくめた。

「おい矢田、どうした?」

「何でもない」

奥から呼ばれて、その男はのれんの中へ姿を消して行った。


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