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ALIVE  作者: 清 涼
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第四章・江戸の変(一)


「珍しいな、お前ら」


そう言われてふと顔を上げると、メンバーの秀也とナオが不思議そうにこちらを見ている。

「どうしたの? 二人して本なんか読んじゃって。司ならともかく、晃一まで」

ナオは持っていたペットボトルをテーブルに置くと、どっかと椅子に座り、テーブルにあったタバコに手を伸ばす。秀也も立ったままタバコに火をつけて一服吸うと、煙を吐きながら司の隣にあった椅子を少しずらして座った。

司と晃一は一瞬目を合わせたが、黙ったまま再び本に目を落とした。

「ふ~ん」

冷たいなぁと言わんばかりに秀也とナオは溜息ためいきを付いて顔を見合わせた。

 開演まであと1時間足らず。リハーサルを終え、あとは本番を待つだけだ。いつも開演前のこの時間はゲームをしたり本を読んだり、のんびりと好きな事をして過ごす。ライブ前の腹ごしらえに用意されていたサンドウィッチをつまむ。コーヒーのお替りをしようと、司が本を開いたままひっくり返して立ち上がった。

「新選組?」

サンドウィッチをつまみながら秀也が本の表紙に目を落とした。思わず、興味をそそられて本を取り上げた。

「ああっ、そこのページ、閉じるなよ」

カップにコーヒーを注ぎながら司が言うと、秀也はテーブルに置いてあったメモをそのページにはさんだ。そして、ペラペラとページをめくる。

「ふーん、司って意外だったな。こんなのも読むのか」

「うん、ちょっとね」

座り直してカップに口を付けると、一口飲んだ。

「知ってる?」

「そりゃ知ってるよ。歴史ん中じゃ、戦国時代の次に荒れた時代だからな、幕末って言えば」

秀也の言葉に晃一も顔を上げた。

「ねぇねぇ、秀也って、どっち派なの?」

司が秀也の顔を覗き込みながらく。「俺?」不意にかれて一瞬戸惑ったような顔を見せたが、タバコを一服吸って煙を吐きながら灰皿にタバコを押し付けると、

「どっち派って事もないけど、坂本龍馬と桂小五郎は結構好きかなぁ」

と、言った。

「何だ、討幕派か」

「討幕って訳でもないけどさ、たまたまそいつ等が官軍だってだけだろ。確かに勝てば官軍、負ければ賊軍なんて言葉もあるけど、俺は嫌いだな。だって、負けたヤツ等だって、それなりの正義の為に戦ってたんだ。幕末の事、結構知ると、どっちの味方もしたくなるよ。どっちがいか悪いかなんて分かんなくなる」

「ああ、それ言えてる。武士の時代終わらせる為に起こした戦争だけどさ、結果その後の日本て、かなりの悲劇だぜ。ま、近代化も早かったけど」

「確かに・・・」

ナオの言葉に皆が頷くと黙ってしまった。

鎖国から開国したとたん、諸外国との戦争に次ぐ戦争で多大な悲劇を生んでしまったのだ。しかし、急速な近代化もいなめない。

「けど、新選組って、よく分かんねぇよなぁ」

秀也が本をペラペラめくりながら言った。

「何で?」

「京の町の治安を守る為に出来た組織だろ? けどさ、何だかよく分かんないけど、その京の町を荒らし回ってただけじゃないか、とか思ったりもしてさ。彼等の位置付けがよく分かんない」

「位置付け?」

「うん。 だって、最初は確か幕府の家来の筈だったけど、戊辰戦争の、えーっと、鳥羽伏見の戦いの後は、幕府からも嫌われたんだよな。で、結局、近藤勇は罪人扱いで処刑されただろ。その後の新選組って、ほとんど壊滅状態だしな。唯一土方歳三が、最後まで残ったぐらいか。何かこう、中途半端なんだよ」

首を傾げながら言う秀也に、司と晃一は何か言いたかったが、その「何か」が、まとまらず、ぐっとこらえた。

「ああ、それ分かる。新選組の“これ”っていうのがよく分かんないからだろ。新選組で何かを成し遂げるっていうより、隊律厳し過ぎて内輪もめの方が多いっていうのはよく聞くからな。それに・・」

「それに?」

ピクリと片方の眉を動かして晃一が少し口を尖らせるように言った。

「それにさ、坂本龍馬の海援隊にしろ、高杉晋作の奇兵隊にしろ、トップの考えっていうか、理念みたいな大義名分がはっきりしてるけど、新選組の近藤勇にはそれが感じられないんだよな。まぁ、元々武士じゃないってのもあるのかなぁ」

「 ってか、それって、ただの偏見だろ」

「偏見じゃないよ。彼等は最後の武士だって、よく言うけど、武士になりたかっただけだろ。武士の世の終わりにそれを夢見て出て来ただけで、タイミングが悪かったんだ」

ナオの言葉に晃一が少しムッとして言ったが、秀也が続いた。

「タイミング?」

司が秀也を見る。

「うん、多分。 だって、武士とか侍とかに夢見て天下取ったヤツだっているんだ。別に出が農民だからとかっていうのは関係ないよ。豊臣秀吉がそうだろ? その時はまだ良かったんだ。けど、近藤勇の場合、タイミングが悪かったんだと思うよ」

「時勢を読み違えたって、事か・・・」

秀也の言葉に司は何となく頷いた。


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