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ALIVE  作者: 清 涼
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第三章(三の2)

「光月っ!?」


驚いた斎藤は、思わず悲鳴に近い声を上げてしまった。

倒れた藤堂に近寄り、助け起こすかと思ったが、そうではなく、片足を蹴り上げて藤堂の刀を奪い取った瞬間、刀の柄を掴み直すと、その刃先を藤堂に向けたのだ。しかも、その透き通るような殺気が月明かりと重なって静か過ぎる程冷たく恐ろしい。隋一の剣客と言われる斎藤でさえも、容易に動く事は出来なかった。

そして、静かにその刃先が持ち上がると、殺気も満ちて行く。

万が一の時には刺し違える覚悟で、斎藤も自分の刀に手を掛けた。


 まさか・・・!?


そう思った時、

「司っっ!?」


 ガっっ


晃一が叫ぶのと、司が刀を突き刺すのが同時だった。

一瞬の静けさが辺りを包む。

そして、司の手が刀から離れるのと同時に、斎藤もホッとしたように手を離し、二人に近寄った。

「平助」

呼ばれて藤堂は目を開けた。

そっと視線を動かすと、自分の首の真横に刀が突き刺さり、その刃に二人の人影が写っているのが見えた。

「藤堂平助は死んだ。 早く行くぞ」

斎藤とは別の声が聞こえた。

 遠くからはまだ争う音が聞こえて来る。

もうすぐ何人かがこちらへ向かって来るだろう。

司達は急いで用意していた荷車に藤堂を乗せると、上からむしろを掛けてその場を離れた。

剣と剣のぶつかる音や雄叫びが遠のいて行くと、それもいつしかなくなり、白々とした月夜が静かに辺りを照らしていた。

 どれ位歩いただろうか、少し疲れて来た頃、ようやく土方の別宅と呼ばれる家に着いた。藤堂を中へ運ぶと、斎藤は荷車を押して、また何処かへ行ってしまった。


「司、どうすんだよ? このケガ・・・」

晃一は青ざめて血に染まった藤堂を見下ろす。顔色がひどい。背中をばっさり斬られて死んでしまう侍をテレビで見た事がある。晃一の目の前で起きた事がそれなのである。思わずごくりと息を呑んだ。

「見てても始まるらねぇ。とにかく手当てするぞ。晃一、服を脱がせてくれ」

そう言って司は部屋の隅に置いてあったかごふたを開けて中を確認すると、籠を持って来る。そして、くすぶっていたかまどに掛けてあったかまから湯をむ。

「用意がいいな」

晃一は感心したように治療を始めた司を見ながら、言われる通り藤堂の体を支え直した。

万一の為にと、あらかじめ土方に用意しておくよう頼んでいたのだ。司としても、そうならないよう願ってはいたのが、それも叶わず、結果的には藤堂の治療をする羽目になってしまった。

しかもかなりの深手だ。

この様子なら一週間くらいは難しいだろう。しかし、余りゆっくりもしていられない。この殺伐さつばつとした幕末の京都では、侍の負傷者が当たり前のように出ている。その中でも重要人物であると分かったとたんに、対峙たいじする者達が踏み込み、その息の根を止めに来る事もあるのだ。花のみやこうたわれていた京の街は、一気に血生臭い街へと変わってしまった。しかし、それは長い日本の歴史において、必ず訪れる変革の時でもあった。


 三日程して藤堂も起き上がれるようになり、目を覚ましてからの二日間で斎藤と二人きりで話をし、ようやく今の自分の受け入れを決めてから、司と晃一とも口を利くようになった。

「思い出したよ。あの時のお前らだ、って事を」

そう言って晃一を見ると、笑みを浮かべた。

晃一も思い出すと、思わずあの時絞められた自分の首を軽くさする。

「あの頃が懐かしいなあ・・・。 まだ、三年しか経っていないのに、遠い昔の事のように思える・・・」

「 ? 」

「池田屋に踏み込んだ時の俺は、本当に新選組にれ込んでいたし、誇りだった。あれからの巡察の時に、京の町の連中が見せたおびえたような目。俺達新選組をおそれる目、あれは快感だった。それに、俺達新選組は他の侍とは違う。何か特別な誇りを持っていたんだ。それが近藤さんや土方さんだったんだ。だから付いて行ったんだ。 ・・・、なのに、何でだろう・・・。何処で間違えたんだろう? 何か、・・・、信じられるものが無くなってしまったんだ。・・・何処で、どう、間違えたんだろう・・・?」

そう言って藤堂は自分の両手の平を広げてじっと見つめた。

「 ・・・、 間違えた訳じゃないだろ」

少しの間の後、司が言った。

「そうそう、間違えじゃねぇよ。 時代だよ、時代」

晃一が調子よく司に続いたが、瞬間、司からにらまれたよう視線を感じてハッとしたように口を閉じた。

「時代?」

当然のように聞き返して来る藤堂に、答える事が出来ず、司に助けを求めるような視線を送った。

 ったく・・・

内心呆れ返って晃一を軽く睨むと、顔を上げた平助に視線を移した。

「大政奉還によって幕府が権力を握る時代は終わったんだ。だからと言って、徳川に代わる新しい幕府が出来るとかじゃない。これからは一部の大名だけが権力を握る時代じゃなくなる。あんたも伊東の下に少しは居たんだから分かるだろ? これからの日本は外国の影響をもろに受けて変わって行くんだ。今までとは全く違う新しい時代が来るんだよ」

そう司は言うと、一つ息を吐いた。

「新しい時代・・・」

藤堂は黙って司の話を聞いていたが、何か一つの区切りを見付けたように天井を見上げると、そう呟いた。


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