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ALIVE  作者: 清 涼
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第三章(二の2)


「平助は・・・」


少しの沈黙の後、斎藤が呟くように言った。

「平助は・・・、本当は望んではいなかった・・・」

少し苦しそうな声で言う斎藤に、晃一は何故かこれ以上聞いてはいけないような気がして、身を乗り出して止めようとしたが、司の手がそれをはばんだ。

「伊東さんは初め、新選組に加わる事をこばんだのだ。もちろんそれは勤皇の思想の違いからだ。それに、近藤さんは元々幕府方の思想の持ち主だ。だが伊東さんは違う。それが分かっていながら近藤さんはどうしても伊東さんが欲しかった。あの人の名が欲しかったんだ。才ある伊東さんが新選組に加わる事で、新選組も勤皇の一人として認められる。 それで、元同じ道場だったというだけで、平助があの人を説得する事になったのだ。平助は二人とも尊敬していた。だから二人の板挟みになった事を相当苦しんでいた。 俺には分かっていた。平助が新選組を離れたくなかった事を。だが、仕方なかったのだ。平助があの人を隊に引き入れたようなものだからな。伊東さんが離隊する事になった時、その責を負ったのだろう。だから一緒に付いて行った。だが、伊東さんの真の目的は近藤さんを抹殺する事、初めから伊東さんはこれを企てていたのだ。それを知った時、平助は見抜けなかった自分を責め、悔いた。腹まで切ろうとしたが、それは何とか思いとどまった。だから、今夜の一件で、平助が新選組に斬られるのは本望なのだ」

斎藤は内に溜めていたものを一気に吐き出すように話した。

黙って聞いていた晃一は、思わず何かに打ちひしがれてしまったように両手を後ろに付くと、天井を見上げて、大きな息を吐いた。

「だから・・・」

「それは違うな」

斎藤が決心したように口を開いた時、司は間髪入れずにそれを否定した。

「斬られて死ぬのが本望、だなんて、ただの綺麗事だ。そりゃ誰だって楽になりたいさ。悩んで苦しむくらいならいっそ死んでラクになった方がマシだって、誰だって思う。けど、それは違うんじゃないかな。死んでしまったら何もなくなっちまうからな。この先、悩んだ後どうなるか見る事も出来なくなる。だったら、チャンスがあるなら生きるべきだ」

そう言うと一つ息を吐いた。

刀を持つ者はどうしてこうも死に急ぐのだろう。それが定めなのだろうか。しかし、坂本龍馬のようにもっともっと生きたかった者もいる。

「チャンス?」

少しの間の後、斎藤が聞き返す。

「あ、えーと、何だ? 機会、か」

「キカイ、とな?」

「要は、少しでも望みがあるなら生きるべきだ、って事だ。生きて見届けるのも悪くはないと思うぜ」

司が少し面倒臭そうに言うと、斎藤は何か含むような笑みを浮かべた。

「生きて見届ける、か・・・」

そう自分にも言い聞かせるように言うと、決心したように顔を上げた。

「ま、そういう事だ」

「分かった。 ならば迷いはしない。お主達の手を借りよう」

斎藤はそう言って自分の刀をつかむと、目の前にかかげた。

司と晃一は顔を見合わせて頷くと笑みを浮かべ、互いの右腕をぶつけ合った。



 ******


『お前達に折り入ってやってもらいたい事がある』

あくまで命令口調な土方の言い方には少し頭に来るものがあるが仕方がない。自分達も訳も分からずタイムスリップしてしまい、一応世話にはなっているのだ。

司はぐっと呑み込むと、

『何だよ、もったいぶらずに言えよ』

と、勘念したように言った。

『平助を助けたい』

『平助?』

『そうだ、伊東派について行った藤堂平助だ。 お前が言ったように、伊東が近藤さんの暗殺を計画しているなら、こちらとしては受けて立つしかない。だが、仕掛けられる前にこちらから仕掛けてやる。明日、伊東を七条に呼び出し、長州探索の金を渡す、と見せ掛けてその場で斬る。後は油小路にヤツ等をおびき出し、全員を始末する。まさかヤツ等も自分達の立てた計画でられるとは思ってもみないだろう』

鼻で笑うように土方は言うと、一度隣にいる斎藤に確認するように目配せする。斎藤も頷いて応えた。

『そこには必ず平助も来る。もちろん伊東のかたきを討つ為にこちらに刃向かって来るだろう。近藤さんは平助を助けるよう新八に頼んだ。だが、その命令を受けているのは新八だけだ。他の隊士は斬り合いになったらそれどころじゃなくなるからな。当てにならん。かと言って新八だけじゃ心元ない。そこで、お前に頼みたいのだ』

『 ・・・ 』

黙って聞いていたが、返事をする事が出来なかった。土方の勝手な頼み事にも呆れるが、決死の覚悟での斬り合いからどう助ければいいのかそのすべがすぐに見当たらない。

『なあ司、確かあの件って、ほとんどメッタ斬りだよな』

晃一が思い出したように司に耳打ちする。

確かにそうだ。史実によれば、七条の油小路に伊東の遺骸を放置してその仲間をおびき出し、そこで激しい死闘が繰り広げられたのだ。

伊東派も名だたる剣客ばかり。いくら鍛錬たんれんしているとは言え、寄せ集めの隊士では数人で掛かって行かなければ歯が立たず、結果、その場で伊東派の数名は無残にもずだずだに斬り裂かれてしまったという事だ。その中にはもちろん藤堂平助の名も含まれていた。

『光月君、君の剣なら心配いらない。この俺が保障する』

斎藤の言葉には思わず苦笑してしまう。

『別にそんな事に心配している訳じゃない。 もし、仮にその平助とやらを助けたとして、その後はどうすんだ? 一度裏切ったヤツをここへ連れて帰って来るのか?』

『いや、それはしない』

すでに策はあるようなのか、土方は即答すると、辺りから人の気配が感じない事を更に確認すると続けた。

『すでに策はある。上手く平助を助ける事が出来たなら、まず平助を別宅にかくまう。それからすぐにでもお前らと共に江戸に向けてってもらいたい』

『江戸へ? オレたちも?』

『お前らは護衛だ。 ・・・ いいから聞け』

司が少し口をとがらせたのに気付いたのか、土方がなだめるように言う。

『江戸にいる俺の知人宛の書状は用意してある。そこへ行ってもらいたい。十分な路金もある。そこで平助を何とか立ち直らせたいのだ。近藤さんが言うように、平助はまだ若い。若過ぎるくらいだ。だから、まだまだやり直せる筈だ。それに、京の町は今、とてつもなく危険だ。お前達も京から離れた方がいい』

そう言って、真っ直ぐに司を見つめた。

『やってくれるな?』

一瞬、司は迷ってしまった。これで歴史が変わる事はないだろうか? しかし、目の前にいるりんとしたこの二人をもう一度見た時には、

『分かったよ』

と、返事をしていた。


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