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ALIVE  作者: 清 涼
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第二章(二の2)


 カチャっカチャっ!!


瞬時にして一斉に侍の格好をした者達に囲まれ、刀を突きつけられた。


「何か用か?」


平然と澄ました顔で言う司に晃一は息を呑んで青ざめた。

鋭く研がれた刀がきらりと光る。

夜に見る剣先とでは明らかに違う。今度は正真正銘の真剣である事は間違いなさそうだ。

それに、刀を構えた侍の体格が、明らかにきたえ抜かれた筋肉で覆われている事も、着ている羽織やはかまの上からでも分かる程にいい。

もし仮にこのまま乱闘になればいくら喧嘩に強い司でさえも、一瞬にして打ち負かされてしまうだろう。それどころか立ち所にして斬り殺されてしまうかもしれない。

晃一は変な想像をしてごくりと息を呑むと、冷や汗が流れるのを感じた。


「怪しいヤツっ、どこから来たっ!? 名を名乗れっ!」

侍の一人が威嚇いかくするように怒鳴る。

「名乗れという前に自分から名乗るのが侍なんじゃねぇの? ったく失礼なヤツらだな」

「何だとっ!?」

明らかに挑発しているとしか思えない司のセリフに晃一は気が気でない。

しかし、自分が出て行っても何の役に立たない事くらい承知している。仮に出て行ったところで、今度は足手まといになって司に怒られるのも目に見えている。

せめて相手がどんなヤツらなのかくらいは見たいものだ。そう思い、顔を出そうとした時、

「あれぇっ!?」

と、拍子抜けしたような驚いた声が上がった。

「どこかで見た事のある顔だと思ったが、お前、確か池田屋の時に会った、・・・、えっと・・・、司、だったか? 光月司かっ!?」

中心にいた長い髪を無造作に一つに結わえた男が、思い出したように言って刀をさやにしまった。すると、他の者も全員刀をしまう。

「原田左之助?」

昨夜は暗がりで顔がはっきりと見えなかったが、おぼろげによく似ている。やりの名手で新選組の中でも右に出る者はいない。かなりの短気で、まだ伊予藩に居た頃、何かの折に『切腹の仕方も知らぬ無礼なヤツ』と言われたのに腹を立ててその場で切腹したが、死に切れずに腹に一文字傷を持っている『死に損ない左之助』と言われている原田だ。しかし、土方の次にその顔立ちも良く意外と優しいところから、花町ではもてていたとも言われている。なるほど、確かに目鼻立ちもすっきりと通っているし、黙っていればその甘いマスクに優しい言葉をかけてもらえば酔ってしまうだろう。


「お前っ、生きてたかっ!? ええっっ!? 幽霊じゃねぇよなっ!?」

興奮したようにガシっと司の両肩を掴むと顔を覗き込んだ。

「どこで何してたっ!? あん時突然消えちまって斎藤が大変だったんだっ。いやあ、お前等無事で良かったよ。ずっと探してたんだ。何たってお前の伝令のお陰で事なきを得たんだ。それに、ケガ人も大事に至らなかったんだからな。 はあ、よかったぁ」

半分泣きそうになる程大袈裟(おおげさ)に安心する原田に思わず苦笑してしまう。

 イケメンが台無しだ・・・


「晃一、もう大丈夫だ」

安心したように司が晃一を呼ぶと、原田が少し驚いたように晃一に視線を送った。

「お前かぁ、もう一人の男ってぇのは? 俺は新選組十番組組長の原田左之助だ。よろしくな」

「俺は矢神晃一」

胸を張って言う原田に晃一は右手を差し出したが、原田は「ん?」と、晃一の手を見ただけだった。

「何だよ、相手が侍じゃなきゃ握手しねえのかよ」

晃一は呟くように言うと、チっと舌打ちした。

「晃一、この時代はまだ握手っていうあいさつはないよ」

司は少し笑いながら耳打ちした。一瞬考えた晃一だったが、握手という行為は欧米から伝わって来たものだと思い出すと、それもそうだと少し笑ってしまった。当たり前のようなこの行為も元々は日本のものではなかったのだ。


「ところでお前等、今まで何処にいたんだ?」

原田は二人をうながして歩きながら聞く。

「え? あ、ああ・・・」

司と晃一はどう答えていいものかと曖昧あいまいな返事をすると顔を見合わせた。

「まあ、言いたくなきゃいいけどよ。土方さんに会ったら色々聞かれるぜ。 何せ、あんときゃ斎藤がちょっと目を離した隙にお前等居なくなって、誰かにさらわれたんじゃねぇか、神隠しにでもあったんじゃねぇかって、エライ騒ぎになって、土方さんにエラく怒られてさすがの斎藤も相当落ち込んでたからな。そのあと斎藤も」

そこまで一気にしゃべった後、急に黙り込むと宙をにらんでチッと舌打ちした。


 ?


司と晃一は少し気になって原田を見たが、原田は、「何でもねえよ」と、言ったきり黙ったまま二人を屯所まで連れて行った。

 まるで大きな寺のような大きな門前に着いた。そこには新選組屯所と書かれた看板が立っていた。ためらわず門をくぐり中へ入った。

「すっげぇ、立派だなあ!」

思わず晃一は感嘆の声を上げた。先程見た壬生みぶの屯所とは大きく違う。八木邸も前川邸もそれなりに広く、宿としては立派な造りになっていた。だが、こちらの敷地は広大で、屋敷自体も建てられたばかりなのだろう、新しくて立派だった。それに幾つもの建物がある。その一つ一つも大きかった。

「そりゃあ、天下の西本願寺が建てた屯所だからな、そんじょそこいらのもんとは格が違うぜ」

原田が少し鼻高に言う。

「 って事は、これが不動堂村の屯所か」

確かめるように言う司に、

「よく分かったな。 ・・・ お前、何者だ?」

という、落ち着いた声が不意に木陰から聞こえた。

見ると、見覚えのある凛とした顔立ちの土方が立っていた。



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