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ALIVE  作者: 清 涼
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第二章(一の2)

「案外歩けるもんだな」

小一時間程歩いたところで着いたのは、新選組が屯所として使っていた壬生寺だ。正確に言えば、壬生寺は日々の稽古けいこや訓練等で使っており、実際の屯所屋敷としては、付近にある八木邸と前川邸にあった。

「という事は、昨夜の今日だから、今頃あの池田屋からここまでパレードして帰って来たって事になんのか」

晃一は思い出したように昨夜の彼等を想像して言った。

近藤を先頭に、全員が隊服姿で闊歩する様はさぞ勇ましかった事だろう。と同時に、血だらけになった彼等に京の町の人々は新選組に対して恐れをいだいた事だろう。

「はは、そうだな」

司も思い出して笑ったが、ケガ人が多数いた事を思い出すとふっと影を落とした。実際には隊士一名が戦死しているのだ。それに、池田屋にいた浪士も多数斬り殺されている。そして、自分自身刀を振るい、小太刀を一刀浴びせているし、目の前で斎藤と沖田が浪士を斬り殺している。

それが、幕末の京都だった。



 コーヒーを飲み、タバコを吸いながら自分達の覚えている足跡そくせきについて語り出す。

「確か、池田屋事件の後に『禁門の変』だったか?」

晃一が言った。

「そうだな。あれから1ヶ月くらい後だったか、長州が攻めて来て御所に発砲しちまうんだよな」

「意外と早いよな。それって池田屋事件の報復って気もしないでもないけど。ホントのところどうなんだか?」

「ああ、それも一理あるな。それに、ホラ、池田屋事件の発端になった古高俊太郎の自白・・・、京の町に火を付けて天皇を長州に連れて行くとかってヤツ。それが現実になったって訳だ。で、朝敵になって、京から追放されて逃げ切れずに、天王山で切腹」

「あれ? でも長州って、元々尊皇攘夷派じゃなかった?」

晃一はタバコの煙を吐きながら言うと、タバコの灰を灰皿に落とした。

「うん。だからあの発砲は誤砲で、やっちゃった、って感じだったと思う。あとは野となれ山となれ、だろ。やっちゃったもんはしょうがないからな。長州でも過激派がやっちまったんだろ。可哀相に・・・、京の町は火の海だ」

司は一つ溜息を付くと、タバコの煙をゆっくり吐いた。

今でこそ歴史深い情緒溢れた町ではあるが、動乱の犠牲になっていたのだ。その戦で、池田屋事件の後に催された祇園祭の山鉾やまほこもほとんどが消失している。

「ところで、そういう時お前らはどうすんの?」

「お前ら?」

「司のご先祖様、ホラ、朝廷の隠密」

「ああ、・・・、どうすんだか?」

「頼りねぇなあ。 まぁいいけどよ。 それにしちゃ、やっぱり荒れてたんだな・・・。京都だけだろ? 街ん中ででかい戦争がたくさんあったのって。 確か、室町の応仁の乱もそうじゃなかった?」

気の毒そうに言う晃一の言葉に、コーヒーを飲みながら司は、そのご先祖様は本当にどうしていたのだろうとふと疑問に思った。もちろん護衛はしていただろう。しかし、裏では本当のところ何をしていたのだろう。この後歴史は大きく変わって行く。将軍は失墜し、朝廷が再び権力を握るのだ。

「まぁ、時代ときの権力争いだな。 内乱はどこにでもある」

そう言うとカップを置いた。

「権力争いか・・・。 やっぱり幕末のあれって権力争いになるのか?」

少し身を乗り出して晃一が聞く。

「単純に考えればそうだろ。そりゃ、歴史の専門家とかは思想の違いとか、単なる権力争いではないって言うだろうよ。けど、オレ等素人目線から言わせれば、結局のところ、260年っていう長い長い徳川政権に飽きて、新しい政権で世の中を変えようって思っていた矢先のチャンス到来ってのが、あの時代だったんだ。タイミングだよ。 いわゆる第二の関が原だろ。東軍、西軍って、ほとんど顔ぶれ同じだろ?」

「あっ、それ、言えてる」

晃一は感心したように、カップに口をつけた司に相槌あいづちを打った。

「 って事は、今度は形勢逆転だな」

と、付け加えた。

「ま、そういう事だ。加えて言うなら、今度に関しちゃ、朝廷も絡んでるって事だな」

そう言って、司はタバコを抜くと火をつけた。そして、空になった箱をくしゃっとつぶすと、ウェイターを呼んで2箱持って来させた。

「 で、それはそうと、次はどこに行く?」

「そう、だな。 ・・・、じゃ、このまま下って西本願寺でも行くか?」

「西本願寺?」

「うん、二番目の屯所跡。 ほら、伊東甲子太郎(かしたろう)が入って来て、山南敬助と対立し

て山南敬助が脱走して切腹した後に移った屯所」

「ああ。 なあ、山南敬助って何で脱走したんだろな?」

晃一はタバコに火をつけようとして、一瞬手が止まってしまった。

そう言えば昨夜の池田屋事件の時は山南の姿は見ていない。確か彼は新選組の中でも頭脳明晰で剣客としても優れている筈だ。幹部の中でもトップ3に入っていた筈だった。

「さあ、本当の理由はどうか分からないけど、近藤勇が嫌っていたとか、伊東甲子太郎に対してのねたみとか、諸説あるらしいけどな」

「ああ、そっか。 確か、土方歳三もねたんでたってのもあるよな」

「へぇ、あの土方さんがねぇ」

昨夜の土方を思い出すと、想像が付かず思わず笑ってしまった。





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