第8話 エルベナル王都にて
レステアの一人称ですが「私」と「わらわ」の二つがあります。
もちろん、日本語で話しているのではないので、実際に「私」「わらわ」と言っているわけではありません。
「私」は、わりかし一般的な大人や貴族が使う一人称。
「わらわ」は少し古臭く、育ちのよい子供が使っていた(今はあまり使われない)一人称と言うようなニュアンスで捉えていただければ幸いです。
他にも、ものの単位やモンスターなど、読みやすいように馴染みの単位(cm、ℓ、kgなど)や英和名を使っています(ドラゴン、サンドワーム、鬼など)が、実際は異世界の単位や名称なのだなと、脳内変換していだだければ、これまた幸いです。
今更このような勝手を押し付けてしまう事を深くお詫び申し上げます。
ごめんなさい!!><
肩より少し上の辺りで切られた眩しいほどに輝く銀髪
覗き込む者に畏怖を抱かせる威厳に満ちた金色の瞳
身体から迸る力強く威圧的なマナ
透き通るほど白い肌と人間離れした美しい造形
その少女は、私が今まで目にしたものの中で最も気高く、美しい存在・・・
そしてその少女は、幼さの残る、しかしそれを感じさせない凛と澄んだ声で語りかけてきた。
「ホグルードのステーキ、パンにスープ、それと果実酒だ」
「は、はい!!」
緊張で声がうわずってしまった。
「あ~じゃぁ~俺はベラムの骨付き肉、パンスープに果実ジュースで」
少女の向かいに座っている、夜を溶かし染めこんだような黒髪に黒い瞳、どこか異国風の顔立ちをした男は眠そうに告げた。
「・・・・・・・・はい」
怪しい・・・・なんなのだろうこの2人は。
白と黒、見た目も雰囲気も、何から何まで正反対の2人
「何なんでしょうね、あの2人・・・」
パシッ!!
話を振ると、厨房で料理をしていた店長に頭を叩かれた。
「バカ、ああいうヤバイ雰囲気の連中に関わろうとするな・・・死ぬぞ?」
冒険者が多いこの街で長年商売してきた店長のセリフには、重みと説得力があった。
「は、はい・・・すみません。」
「ギルドで聞いた情報によると、エルザイアの迷宮の3階層以降には今、英雄殺しの鬼が出没するそうだ。何でも前大戦で英雄となったナントカっていう人と、討伐に出かけたナントカって宮廷魔術師が殺されたのだとか・・・・この国の一大産業となてるエルザイアの迷宮探索が滞っては傾国しかねない由々しき事態だと。鬼を倒した者には破格の報酬と地位を約束するとか・・・」
冒険者ギルドで今しがた仕入れた情報をレステアに報告する。
「ふむ、ドラゴン討伐隊の募集はどうだった?」
「ソッチはとりあえず一時的に中断、実害のある鬼の方が今は脅威だという事らしい。」
「なるほど・・・・それなら、鬼は放置しておいた方がよいな。」
と、注文の料理が運ばれてきた。
「おまたせしました。」
食欲をそそる肉や香草、スパイスの絡み合った香りに鼻腔をくすぐられ、思わず唾液を飲み込む。
「ふふ・・・光秀、欲望丸出しの面をしているぞ、卑しいヤツめ。」
意地悪く口角を上げるレステアの顔が可愛いすぎる・・・・
「ここ2日間、ずっと馬トカゲに乗ってた上に貧しい食事だったからな、疲労と空腹で倒れそうだ」
恐竜ヴェロキラプトルのような生き物に乗ってここエルベナルの王都まで2日間もかかった。
値が張るので1頭に二人乗りでだ、変にドギマギするとそれを見透かしたように「私に欲情しておるのか?」などと聞いてくるのだから、疲れないわけがない・・・色々な意味で。
「ん・・・心配するな。温泉付きのいい宿をとっておいた、今日はゆっくり休め。」
殺されかけて以来、前より優しく接してくれるようになった気がする・・・
「勘違いするなよ?お主に倒れられたら面倒だからな。」
テンプレのツンデレきた!!・・・・・なんだろこの気持ち・・・
「~~~ッ!!ほら、さっさと食え!!」
「話は聞きましたぞロレッツォ殿、オリード王国の悩みの種だった怪鳥ヴァーヴァログを仕留めたとか・・・」
エルベナルの狸大臣ガーヴァッソ・ムニエル。
後にエルベナルの王を討ち、オリード王国を飲み込むと、新国ガーヴァッソ帝国を建国、後に魔王に滅ぼされる事となるまでの僅か5年間、帝王として君臨する男だ。
まぁ、いけ好かねぇ~ヤツだから俺がさせね~けどなぁ~
「おっと、そう苦そうな顔をするなって、アンタんトコも助けてやるからさぁ~」
「苦そうな顔なんてしておりませんよロレッツォ殿、わたくしめはただ純粋にロレッツォ殿の武ゆ」
「友好条約を結んでいるとは言え、仮想敵国であるオリード王国に塩を送るようなマネをしくさってからにぃ~~これだから政の分からぬ野蛮なサルは嫌なのだ!!って顔・・・・・・してるぜ?」
「ッ!!い、いくらロレッツォ殿でも、言ってよい事と悪い事が!!」
「あ~ぁ~悪い悪い!!ただのお茶目だって、そんなにムキになられると逆に怪しく見えちゃうなぁ~」
「ッ!!」
さて、イジメんのもこれ位にしとくか
「で、そんな事より、わざわざ隣国に使い飛ばして俺を呼び戻すほどの大事な用件があるんだろ?」
腹に据えかねる!!って顔をしていたが、なんとか気持ちを切り替えたらしい、用件を語り出す。
「実は困った事に、我が国の一大産業であるエルザイアの迷宮で、近頃捨て置けぬ害獣が現れましてな・・・」
「知ってるぜぇ~エルザイアの鬼だろ?ここに来る途中、使いに聞いたわ。」
「それならば話が早い、早速討伐していただけないだろうか・・・」
「まぁ~それはコレ次第だろ、コレ」
親指と人差し指で丸を形作る。
「それならばご期待に応えられましょう、金貨1000枚(円に換算して約2億)とケベレス山一帯を討伐成功の暁には・・・」
「へぇ~~~~~ケベレス山にドラゴンが住み着いてる事を踏まえて言ってんの?」
「!?・・・・・そ、それは・・・・」
「知らないとでも思った?先々月送り込んだ討伐隊にアドバイスもしたんだぜ?カーレン宮廷魔術師に頼まれてなぁ~~~って、彼死んだんだっけ?それならアンタが知ってるハズもないか」
大方、ケベレスを俺の土地にさせる事によって、そこに住むドラゴンの起こした災害を俺の責任にし、無理矢理にでもドラゴンを討伐させるつもりだったんだろう・・・
そんな事しなくとも倒してやるんだが、このクサレ狸の思惑通りに動くのは癪だわ。
「土地はいらね~よその代わり、金貨1000枚+500枚いただく・・・あの山だけでも金貨2000枚はくだらねぇ~からなぁ~~~~~それを考えると良心的だと思うんだけどなぁ~~~~~そうだろ?」
これで断ったら、俺に厄介ごとを押し付けようとしてたと認める事になっちまうぜ?狸ちゃん?
「よ、よかろう・・・陛下にはそのように伝えておく。」
「支払いシブんなよ?そんじゃぁ~~~なぁ~」
っと、去る前に、もう少し脅しておくか・・・
「あ・・・・・・陛下によろしく言っといてくれよ」
「うむ」
「それと・・・・・・・・・・・アンタの可愛がってるお人形チャンにもな・・・ヒヒヒ」
「!?・・・・・・・き、貴様・・・・・」
「なぁに?」
「・・・・・・・・・ック!!」
なぜ知っている!?って面してるなぁ~~~~
「またな、ガーヴァッソ大臣」
「光秀!!温泉に入るぞ!!実はわらわ、その存在は知っておったが実際に入るのは初めてなのじゃ!!」
「おぅ、先に入ってきたらいい」
レステアが借りた部屋は、一部屋に一湯付いた宿、というより最早旅館と言って差し支えない豪華なものだった。
「何を言っておる?一緒に入るのじゃ、わらわの身体を洗うのはお主の仕事であろう?」
「はひぃ?」
「何素っ頓狂な声をあげておる?」
「いやいやいやいやいや!!!それはないわ~~~~~~」
「なぜじゃ?いつも洗っておるではないか。」
「いや、それは本体の方でしょレステアさん!!あーた、人の姿の時は」
「そう言えば封印を解いて以来洗ってないな・・・・念入りに頼むぞ!」
「ね、念入り!?・・・・・・ダメだレステアさん!!それはダメだ!!」
「なぜじゃ?」
な、なぜってあーた・・・・
「ん?」
「とにかくダメだ!!いいか、『男女七歳にして席を同じうせず』と言ってだな」
「つまらぬ!!命令じゃ!!一緒に入れ!!」
~~~~~~~~~~ッ!!
そ、そりゃぁ~俺だって入りたいさぁ!!男性だもの!!
「よ・・・・・して・・・・だよ」
「何じゃ聞こえぬ!」
「欲情してしまうんだよ!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「光秀!!この身体には欲情して、何故わらわの本体では欲情しないのだ!!」
え・・・・・・そっちですか!?
「それはわらわを侮辱しておるのか!!」
うわ~~~~~めんどくせ~~~~
「~~~~ッ!!キサマまた半殺しに」
「ごめんなさい!!そんなつもりはありません、ホント勘弁して下さい!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もうよい、興が削がれたわ」
「・・・・・・ごめん」
「・・・・・・ばかもの」
皆様、本当にご愛読ありがとう御座います。
次からは、ちょっとシリアスな話になる予定です。
それではまた次のお話で^^