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MONSTERS~モンスターズ~  作者: RAI
銀の息は全てを止める
7/12

第7話 それぞれの思い

 『エルザイアの迷宮』はエルベナル王都近郊に広がる『魔女の森』その中で、獲物が入ってくるのを待ち構えているかのごとく口を開いているらしい。


地下に広がる巨大な迷宮は何階層にも区切られ地下深くに伸びており、1階層以降になると、まるで迷宮そのものが生きているかの様に、つねに構造が変化し、数々の冒険者を飲み込んでいった、通称『人食いの迷宮』と呼ばれ恐れられている。


しかし、迷宮内には目も眩むような財宝や、失われし古代の魔道器、神々の英知が眠ると言われ、夢とロマンを求める冒険者が後を絶たず迷宮攻略に挑んでいる・・・らしい。


その迷宮が経済の潤滑油となり、エルベナル王国は栄え、小国が大国になりえたと言うのだから皮肉なもんだ・・・



 そしてその迷宮の3階層以降に生息しているらしい、巨大な穴掘り芋虫『クローラー』と契約し、家の増改築をしようというのが今回、レステアがわざわざ人の姿になった理由・・・らしい。


なんでも、人間としての身体を最後に使ったのは62年も前らしく、リハビリと準備を兼ね5日ほど出発までに期間をとる事にした。


その準備期間中に俺は、人の姿の間でも本体は寝ているような状態なだけで腹は減るらしいレステアの本体ドラゴンが、旅の間に腹を空かせぬよう、大量の家畜を市場で買い込み、畜産農家の生活を潤す。


なんとレステアは、2つの身体を自由に移動でき、食事及び縄張り内に不審な者が入ってきた場合にはドラゴンの身体に戻るらしい・・・・すごく便利だ。



 しかし、買出し以外にもやらなければならない事があった。



 レステアのリハビリに付き合う事・・・・・・・・・というのは名ばかりの、レステアによるしごきだった。





 「光秀!!剣を手首で振るな!!何度言えば分かるのだ!?肘で動かせ!!」

 「足捌きが悪い!!それでは自分の足を斬ってしまうぞ!!」

 「そんな腕で私の相手が務まるか!!このゴミムシが!!」

 「いいかげんマナの扱い方を覚えろ!!ゴミムシですらもっとまともに扱えるぞクソムシが!!」


 とても62年ぶりとは思えないほどの身のこなしで剣を振るい、本体時と遜色のないほどの魔法を放つその姿に、もはやリハビリなど不要と思われた。



 「立て光秀!!まだ動けるだろうが!!」


 外見は見目麗しいティーンエイジャーといったとこだが、中身は鬼教官だ。





 「いやぃゃ、朝から動きっぱなしだし、チョット休ませてくれよ・・・もう若くないんだし」




 パァーーーーン!!





 思いっきり後頭部を叩かれた。






 「貴様!!そんなに軟弱で」

 「チッ・・・・うっせーよ・・・」











 「なんだ?その態度は・・・・」






 比喩ではなく、文字通り空気が凍りつき、水分が空中で結晶となりだすが、それにビビッて頭を下げるのも癪だ。



 「ただ休みたいと言っただけだろ?何ピリピリしてんの?」



 一度溢れ出すと、日頃押さえてたストレスが怒りとなり、感情を支配してゆく。



 「ワケも分からず理不尽に召喚されて、帰る術も分からずドラゴンの下僕にされ、毎日おもりに明け暮れる日々、終いには休憩すらも与えてもらえず殴られて、とんだ災難だわ・・・」



 俺の周囲の空気が凍りつき始める・・・・どうやら怒りにより引き起こされる現象らしい。


 そんな俺を睨みつけていたレステアは、くるりと踵を返すと洞窟に入っていった。




 今のは、俺悪くねーよな・・・おぅ、全然悪くねぇ・・・・





 と、洞窟の奥で“何か”が光っている・・・・・




 あれは・・・・・・・・・・・・ヤバイ!!




 咄嗟に身体を投げ出すと、今まで俺がいた場所を炭にして火球が通り過ぎて行く



 洒落になってない!!




 今の一撃は、殺すつもりの一撃だ




 と、銀色の巨体が大砲のように洞窟から飛び出て来る



 世界から色と音が消え失せる



 これは俺の体自身が、余計な情報をシャットアウトして視覚に集中させているのだ、そうしないと




                 間違いなく殺される・・・




 反射的にバックステップをすると、目の前の地面がドラゴンの前足による一撃で無残に抉れる


 が、避けられる事を見越していたように身体を反転させると、尻尾で次の攻撃を繰り出す


 動作が異常に速い上に範囲が広い一撃、俺は避けることを諦めると咄嗟に剣でガードし、防御結界を



 が!駄目!!



 まともに魔法が使えたためしがない俺が、この刹那で防御結界を張れるはずがなく、そのまま剣を真っ二つに折られ、腕、アバラが折れる音を初めて耳にした


 「ガハッ!!」


 そのまま弾丸のように飛ばされ、渓谷の下へと落ちていく


 体勢をなんとか整えると、そのまま川へと落ちた。








 ドラゴンは、追って来なかった・・・・・・・・・。







 「ゲホ・・・・ゲホゲホ・・・」


 血と水を吐きながら、何とか川から上がる。





 ・・・・クソッ



 あれは本気だった



 本気で俺を殺そうと・・・。










 何故だか涙が溢れた。








 殺されかけた恐怖や


 生き延びることができた安堵感ではなく


 心に渦巻く感情は




 もっと違う、心地の悪いものだった・・・・




 「・・・・・・なんだよ・・ッツ!!」


 息をすると胸に激痛が走る。



 俺は死ぬかも知れない・・・


医療技術が発達してそうには見えないこの世界、アバラをバキボキに折られ、もしかしたら肺に骨が刺さってるかも知れない。




 なのに・・・



 なんであのドラゴンの事ばかり考えてんだろ・・・・・・



 殺されかけた・・・どころか、死ぬかもしれないダメージを負わされたのに・・・



 なんで、怒りではなく、こんなに悲しいんだろ・・・・・。





 「そ・・・・その程度にしか・・思ってなかったのかよ・・・・ッツ!!」





 所詮は下僕か?


 ただの使い捨てか?


 ふざけんなよ!!散々こき使いやがって!!


 恩を仇で返されるとはな!!


 あんのクソ爬虫類がッ!!








 「でも・・・・・おもりは言い過ぎたかな・・・」



 

 もう、ダメだ・・・・分かってたのに・・



 バカみたいな話だが・・・





 俺はアイツに、レステアに・・・・








 ずいぶん前から惚れている。








 「殺されるかも知れないな・・・・」


 痛む身体をなんとか起こすと、すでに日が落ちてしまった森の中を歩き出す。



 それでも




 これで終わりってのは絶対に嫌だ!!


















 あやつ・・・・矮小なクソムシの分際で、この私に楯突きおって!!!


 ほんの少し気にかけてやれば、何を勘違いしたのやら調子に乗りすぎだ!!


 私の爪で引き裂いてやればよかった!!





 まぁ、致命傷は与えた・・・


 あやつから伝わる波動も徐々に弱くなっていっておるし、私が手を下すまでもないであろう・・・・




 そう、私が手を下すまでもなく・・・・・・・死ぬ。




 そうだ、ゴミムシの分際で高貴な私に楯突いたのだ、万死に値する!!


 死んで当然なのだ!!!





 『何が・・・・・誓いますだ、嘘吐きめ・・・ッ!!』




 なぜだ?



 なぜ、私の声は震えておるのだ?



 怒りだ!!


 そう、怒りすぎてッ・・・・・・体まで震えてきた・・・




 何だ・・・






 何だと言うのだこの感情は!!!




 あやつは私を裏切り、誇りを穢した!!


 当然の報いじゃ!!


 死んで当然じゃ!!


 そしてあやつはもうすぐ死ぬ!!



 なのにッ・・・



 なぜこんなにも気分が悪いのじゃ!!



 嫌じゃ!!


 嫌じゃ!!










 もう光秀に会えぬなんて・・・





 死ぬなんて許さぬ!!



 わらわは・・・・ッ!!






 「よう・・・・・レステア。」



 !?



 光秀ッ!!





 『何だ・・・ころ・・・殺されにでも戻って来たのか・・・?』




 「さっきの事、謝ろうと思ってな・・・・」


 光秀は不器用に笑顔をつくる。


 この顔は、わらわが翼を噛み千切った時「泣いてないから」なんて言いながらつくった表情じゃ



 「あれさ・・・・俺のためにしてくれたんだよな・・・・こんなに弱い俺だったら、ダンジョンなんて入った瞬間死んでしまうから・・・」


 『う・・・自惚れるでない・・・わらわのリハビリのためじゃ・・・・』



 「だから、ごめん・・・・・そして、ありがとう。」





 わけが分からぬ・・・おぬし、死ぬのじゃぞ?


 わらわがやったのじゃぞ?




 なんで・・・




 なんで、それでも・・・・



 そんなにも・・・




 わらわの事を好いておるのじゃ?



 

 ドサッ・・・・



 光秀は、それだけ言うと、その場に倒れた・・・・。













 『ゆ・・・・・許さぬぞ光秀!!!!わらわはおぬしを決して許さぬ!!!!』


 わらわは寂しかったのじゃ


 『目を開けよ!!命令じゃ!!まだおぬしにはやらねばならぬ事があるのじゃ!!』


 ずっと独り・・・・


 『光秀ッ!!聞いておるのかッ!!』


 光秀が死んでしまう!!



 また独りになってしまう!!





 そうじゃ!!わらわの(ドラゴン)血と、マナがあれば!!


 『待っておれ光秀!!今ッ・・・・!!』


 口の中に鉄の臭いが広がる。


 手で光秀の口をこじ開けようとするが、なにぶん小さい・・・



 わらわの(ドラゴン)手では難しい・・・・・なら、直接!



 光秀に口付けをすると、息を吹きかけるように血を送り込む



 ビチャビチャビチャッ!!



 光秀の顔が血で赤黒く染まる。



 これだけあればよいであろう!!






        み・・・・光秀を治すのじゃ!!


               今すぐ光秀を治すのじゃ!!


                     トリカトリカ・トリカトリカ




























 朝だ・・・・・


 右目が開かない・・・・何か糊のようなもので接着されてる・・・・



 ベリ・・・・・・・ベリベリ・・・


 「なんだ、この黒いの・・・・・・・・・・血?血か?」


 『光秀!!起きたのか!!』



 どうやら、巨大なドラゴンの掌で寝ていたらしい、レステアが慌てた様子で俺の顔を覗きこむ。





 「おはよう・・・・・」



 ちょっと気まずい・・・





 『わ・・・わら・・・私に楯突いたおぬ・・・お前がわ・・悪いのじゃぞ?』



 な・・・・なんか、キャラ変わってませんかレステアさん?



 『う・・・・』





 「昨日は、本当にごめんなさい、あれは俺が悪かった・・・慣れない環境とか、悩みとか、ストレスとか・・・・・レステアにぶつけてしまった、本当にすまない。」




 『わ・・・分かればいいのじゃ!!じゃが、昨日ではなく、4日前じゃ・・・だ』


 じゃだ?


 「4日も・・・・・まぁ、相当瀕死だったからな!!あはははは・・・・」



 『ばかもの・・・・・・体調はどうだ?』


 「すこぶるいいな・・・・体がいつもより軽い気がする」


 『そうか、なら遠慮なく4日分の仕事と、遅れたエルザイアへの準備を押し付けれるな』



 ・・・・・・・・・・鬼



 『鬼、とか思ってるんじゃないだろうな?』


 「お、思ってねーから!!じゃ、体洗って仕事仕事!!」



 マジ、鋭すぎるだろ・・・



 








 『・・・・光秀ッ!!』




 「何?」


 川へと進めた足を止め振り返る








 『わ、わらわの方こそ・・・・・すまなかった・・』










 うわ・・・・・・・・犯罪的な可愛さ・・・・





 『な!!・・・もう行け!!さっさと働け!!』






 「はいはい、ご主人様」








ぎゃーーーーーーーー!!



1位あうわう!!日刊1位とれるだなんて!!


ありがとうございますありがとうございます!!!

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