第5話 氷解
あれから10日が過ぎた。
ドラゴンの下僕となった俺は、邪魔な人間をジェノサイドしまくったり、近隣の村や街を襲ったり、世界征服に向けての布石を置いたり・・・・・・・
な~んて事はまったくなく、ドラゴンの世話と巣穴から街への往復が、俺の主な仕事内容となっていた。
どうやらこのドラゴン、同属であるファイアドラゴンに手痛くやられたらしく、辛くも逃げ込んだこの洞窟で傷の回復を図ろうとしていたらしい・・・・・・が
ハンターやら冒険者やら騎士団やらと、次々と襲い来る人間達により、体力的にも、マナと呼ばれる魔力的にも限界に達しており、ちょうど召喚された俺を小間使いにし、現状の改善を試みた・・・・と。
まぁ、そんなこんなで、俺は今日も街に買出しに行くために山を降りる。
何を買出しに行くかと言うと、家畜だ。まぁ、早い話ドラゴンの餌を買いに行くのだ。
近くの街に農畜産の大きな市場があり、あのドラゴンの好物であるホグルードと呼ばれる、鹿を太らせたカンジの家畜を買いに往復5時間。
お金は、怪我をして抜け落ちてしまったドラゴンの鱗や甲殻を冒険者ギルドとやらに持ち込んだところ、大金で買い取ってくれた。
なんでも、上質なドラゴンの素材は金よりも高価らしく、ホグルードを100頭近く買えるほどの資金を手に入れ、スーツを汚したくないのもあり、自分の装備一式しれっと買い揃えたりしたのだが、黙認してくれてるっぽい・・・・なかなか太っ腹だ。
そうそう、あと契約した事により色々と変化が起きた・・・・・俺の身体に。
まず、胸の少し下、水月のあたりに魔方陣のような文様が浮かんでいた。
なんでも、それがドラゴンと契約した証らしい・・・・これで日本に帰っても温泉に入れなくなった。
それと、身体能力が上がった。
悪かった視力もマサイ族並によくなってるし、聴力もよくなったと思う。が、何よりも身体が軽くなった、垂直で軽く3mほどジャンプできるし、走っても原付で飛ばしてる位のスピードを出せる。
今だったら、オリンピックで金メダル取れるかもしれない・・・まぁ、次の日筋肉痛で苦しんだが。
あと、ドラゴンから知識をダウンロード及びインストールができるようになった・・・・・のだが、これはもうカンベンしてほしい。
竜語、古代語、神語、獣語、人語、一通り必要らしい言語をドラゴンからダウンロード及びインストールした時の事だ、あまりの情報量に激しい眩暈を起こし、鼻血を垂らしながら気絶した。
これ以上やると、いつか脳みそが破裂する・・・・比喩ではなくマジで。
最後に、マナと呼ばれる力を得た。
これは、この世界を司るエネルギーで、この世界のもの全てに宿っているらしい。
だが、この世界の住人でない俺はマナというものをまったく宿しておらず、ドラゴン曰く、真っ白な雪原のようだったらしいが、契約により、ドラゴンの力を少なからず宿した俺は、ドラゴンのマナを体内に吸収、魔法が使えるようになった・・・・らしい(使い方が分からない)
まぁ、それらのおかげで、言葉には困らないし、強いマナとやらを発しているらしい俺を襲おうとする輩も少ない。たまにいるが、余裕で逃げ切れる。
次にドラゴンの世話の方だが、毎日身体を磨いてやり、傷口に薬を塗る。なんでも、同属にやられた傷は治りが遅いらしい。
これはドラゴンにしなくてもよいと拒否られたが、傷口を放置して悪化したんじゃ、俺が迷惑を被る。
なぜなら、このドラゴンが死ぬと、俺も道連れにされるからだ・・・契約とは恐ろしいもんだな。
「やるなと言われようがやる、俺の命もかかってるんだ、大人しく塗られてろ。」
そう言うと、驚いたように目を見開き俺を見ていたが『命令に従わないとはな!それでは契約した意味がないではないか!』と、なぜか爆笑していた。
あと、糞の始末だ、これが一番堪える・・・・なんせ、1日2頭もホグルードを平らげるのだ、糞のデカさも洒落にならん。
しかし、放置しとくと悪臭を放つ、ドラゴンは回復のためになるだけ身体を動かしたくないらしいので、やはり俺が始末するしかないのだ・・・・。
それが終わると、川に身体を洗いに行く、真冬かと思っていたが、実は春先だったらしく、召喚された時の、あの凍てつくような寒さの森は、ドラゴンブレスによるものだったと言うのだから、その威力には舌を巻く。
何はともあれ、真冬の行水にならなかった事には感謝したい。
買出し→身体磨き、傷の手当て→巣の掃除、糞の始末→行水
とまぁ、これが俺の最近の生活リズムになりつつある。
あぁ、それと、寝る前に色々と元いた世界の話をドラゴンに聞かせている。
『お前のいた世界の事が知りたい。記憶を私に見せよ・・・・余すことなくな。』
なんて言われて、全力で拒否したのだ。
「そんな生き恥さらす位なら死んだ方がマシだ!!」と
そしたら爆笑された後『ではお前が語れ、異界の話を・・・』と、そういう流れになった。
ドラゴンが喜ぶのは科学の分野だった。
雨が降るメカニズムや雷、台風、ハリケーンなどの気象についてや、ナノやミクロ、目に見えぬ小さな世界から、恒星や惑星、ブラックホールに宇宙の誕生、ビックバンから永遠と広がり続ける広大な宇宙の話など、俺が知る範囲の科学を話し、質問され、答え、考え、聞いて、また二人で考える。
「で、物質を構成する原子や分子の熱による震動が完全に静止する温度、それが絶対零度と言われていて、まぁ、理論的には不可能だと言われてる・・・・・・多分、だったと思う。」
『なるほど、それを認識、意識しつつマナを組上げれば、さらなる高みへと・・・』
「いやいや、洒落にならないからな?周囲への影響もちゃんと考えろよ?多分大変な事になるぞ?」
『私を誰だと思っている?お前に言われるまでもない・・・・しかし、原子や分子とは何だ?どのように物質を構成しているのだ?』
「ゴメン、もうこの辺から分からね~わ」
『おい貴様、ここからが一番大切なところであろう!?なぜ知らないのだ!?知りたいとは思わないのか!?物質を構成しているメカニズムなのだぞ!?』
「いや~んな事言われてもね~~~あ!たしか原子は、原子核っていうのと電子っていうので構成されているとかなんとか・・・」
『原子核、電子・・・また新たな“子”が出てきたな!!電子とはなんだ?』
「宇宙を構成する素粒子の一つだ!!」
『ほう!!宇宙を構成するとな!!・・・・また新たな“子”が出てきたな・・』
「ごめん・・・・マジでもう分かりません・・・・」
『なんだと!?おい、ふざけるな!!なぜ知らないのだ!?』
「いや、俺勉強ニガテだったからな~まぁ、これでも割と科学好きだったんだけど・・・」
『世界を、いや宇宙を解き明かす鍵が目の前にあるというのに・・・なぜ知りたいと思わないのだ!?』
「いや~なんでだろうね~~知らなくとも生きていけるからかな~~~」
『~~~~~~ッ!!!!貴様はッ!!!私の下僕なのだぞ!!!』
「いや、意味わかんイテテテテテ!!ぎゃぁぁぁぁぁ!!ギブギブ!!潰れるから!!出ちゃう出ちゃう内臓出ちゃう!!」
機嫌を損ねると、前足で潰されそうになる。
しかし、その頃にはすでに、このドラゴンに対して情が移っていた。
傷が酷く、壊死してしまった左翼を噛み千切る事となった時には、必死に止血と手当てをしたし『もう飛べぬのだな』と千切れた翼を悲しげに見つめるドラゴンにウルっときてしまい『なぜ光秀が泣いているのだ?』と笑われたりもした。
これも契約の力だとすれば、それは本当に恐ろしいと思えるほど・・・。
1ヶ月が過ぎた。
傷もほとんど癒え、ドラゴン、ことレステア(竜語で吹雪という意味)は山中を散歩したり、時には動物を狩ってくるほど回復していた。
俺的には、糞の処理をしなくてもよくなった事が一番うれしい。
それと、山にも変化があった。
レステアが回復するのに比例して、細い木々が巨木になり、まるでジャングルのように生い茂った大山へと生まれ変わった。
なんでも、ドラゴンに集まる豊富なマナをエネルギーとして育ったらしいが、1ヶ月でこの変わり様は異常である。
そして、それに伴い、モンスターと呼ばれるような猛獣奇獣を見かけるようになった。
最初、二足歩行で立って歩くトカゲを見た時には腰を抜かしそうになったが、そのトカゲは俺を見ると、まるで神でも崇めるような姿勢をとった。
どうやら、この山はすでにレステアの縄張りとなったらしく、その縄張りに住むモンスターはレステアに服従を誓うのだと言う。
特に、ドラゴンを神のように信仰しているリザードマンならば、レステアとまったく同じマナを持つ俺が拝まれるのも、なんら不思議はないと。
そしてその日も、いつものように街で家畜を買い、洞窟に戻った。
「ただいま~~~~っと、なんか王国騎士団がまたドラゴン討伐隊の求人出してたぞ?だいぶ良くなったとは言え、まだまだ病み上がりなんだから気を付けないとなっと・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あれ?レステア?また散歩にでも行ったか?」
しんと静まる洞窟に違和感を覚え、奥に入る。
深さはそこまでなく、そろそろ改築したいなとレステアがぼやいてたのを思い出す。
そう言えば、ちゃんとした家にしたいとも言ってたな・・・
と、奥にレステアが丸まった姿でじっとしているのが見えた。
「なんだ、いたのか・・・・・メシ、買ってきたぞ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
動かない、胸騒ぎがする。
「おい、レステア?どうした?傷でも痛むのか?」
すごく動揺してるのが自分でも分かる、自分の鼓動が五月蝿い。
「おい!!」
「ふふ、動揺しすぎだな」
「!!」
後ろから聞こえた声に、慌てて剣を抜く
振り向きざまに横に薙ぐが、それは親指と人差し指、それと中指の3本指で止められた・・・
銀色の髪、金色の瞳、人形のように整った顔立ちの少女によって
信じられない、剣の腕は初心者と言え、契約によりドラゴンの力の恩恵を受けているのだ、その剣戟を3本指で受け止めるとか・・・・・色々とショックだ・・・
「だ!?・・・・・誰だアンタ!?」
剣を引こうとするが、ビクともしない
「ふふふ・・・・まだ気付かないのか?アホゥが・・・」
「え?・・・・・・・・・レス・・テア・・・・?」
外見はまったく異なるが、少女の放つマナは、レステアのそれだった。
「いかにも・・・しかし、ご主人様に剣を振るうとは、躾のなってない犬だな。」
そうだな、主人の教育がなっていないのだろう。と、いつもなら軽口もたたけるのだが、俺にそんな余裕はなかった。
「どんなファンタジーだよ・・・・」
俺の言葉を聞き、少女は満足そうに笑った。
5話おまたせしました~
って、待ってくれてるのかな!?
でも、10人は待ってくれてるよね?
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