第4話 契約
『私の下僕になるか、さもなくば魂まで凍てつく氷像になるか、お前に選ばせてやろう。』
白銀のドラゴンは、俺を見下ろしながら、ゆっくりと告げた。
まるで、呪いでもかけるかのように・・・
うん、これ選択肢ないよな?
逃げれそうにないし、だからと言って氷漬けはカンベンしてほしいモンだ。
つまりは下僕ライフ一択ってワケだが、まぁ、未知の世界で独り彷徨うよりも、強者の庇護の下、現状把握及び帰る手立ての模索をした方が安全だろう・・・。
「二つ、聞いてもいいか?」
本当は聞きたいことが山とあるが、答えてくれるとしたら多分、この程度が限界だ・・・・そんな気がした。
『ふふ・・・賢しい奴よ。いいだろう、申してみよ』
「まず一つ、なぜ俺はこんな場所にいるのか、それが知りたい。」
誰が、何の為に、って事も聞きたいとこだが、まぁ、それはこの場所にいる理由が分かれば自ずと導き出されるだろう。
『召喚だ、お前の目の前で氷漬けになっている人間どもが召喚術を使ったのだ。まぁ、召喚術は失敗に終わったがな』
「失敗に終わった結果、俺が呼び出されたと・・・」
『そうだ、ちなみにそこの人間どもは、古の獣と呼ばれる魔獣を召喚しようとしたのだ、私と戦うためにな・・・愚かしい事よ』
薄ら寒くなるような冷い響をもって、頭の中にドラゴンの声が響いた。
「ではもう一つ、下僕になれと言ったが、どういう事だ?」
この世界に呼ばれた理由、そして、これからどうなるのか・・・これが、俺が最低限知りたい事だ。
『私と、魂結びの契約をしてもらう。そうすれば、お前は私に逆らえなくなり、心身ともに私の下僕となろう。』
「え・・・ええぇぇぇぇぇぇええ!!!!」
それは嫌だな~~~~~~魂って事は、永久就職っぽいよな?
給料や休日も望めないような下僕職に永久就職とか洒落にならねぇ~よ!!
『嫌なら無理強いはしないぞ?』
「嫌って言ったら殺されちゃうじゃないかーーー!!」
『そうだ、お前には死んで魂の純潔を守る道もあると言う事だ』
「純潔?ハッ!!俺の魂なんて既にドグラでマグラなんだよ!!」
『それは謙遜しているのか?今まで見たことがないほど、お前は穢れのない魂を持っている』
「ちょ・・・・・・・・・ってか、この世界の住人はどれだけ穢れてんだって話だよ!」
『はは・・・お前今照れたのか?お前の魂はいわば、真っ白な雪原だ。何色にも染まっていない、マナの気配すらもない美しい雪原だ。』
「照れてないから・・・だからイタズラ心で、その雪原を蹂躙したいと」
なんとなく悔しかったので、つっかかってみる。
『察しがいいな、その通りだ』
「ええぇぇぇぇぇええ!!」
何かトンデモない事に巻き込まれたと、今更ながら愕然とする。
『さて、そろそろ答えをき』
「なるよ、下僕でも奴隷でも好きにしたらいい」
そう、始めから答えは決まってる。
このドラゴンは冷徹なとこはあるが、悪いヤツではない気がする・・・とりあえず、体中に傷や深刻そうなダメージを負っているにも関わらず、質問に丁寧に答えてくれる余裕と、器のデカさを感じた。
あと、声が色っぽくて好きだし、このドラゴンが俺をこんな事態に巻き込んだ張本人ではないというのもデカいな。
だが、一番の理由は・・・・・・・・・・俺はまだ死にたくない。
まぁ、悪いようにはされない・・・と、思いたい。
そんな俺を興味深げに見つめていたドラゴンは、静かに、しかしいやらしく口角を上げる。
『そうか、ならば契約だ。』
と、ドラゴンの前に複雑な記号を幾重にも組み合わせ、絡ませたような、ケルト模様に似た魔方陣が浮かぶ。
『汝、我に忠誠を、我と共にあり、我とともに死に、我に全てを捧げる事を誓え』
まるで結婚式の誓いのようだ・・・・そう考えると、結婚式の誓いは、一種の呪いみたいなものなのかも知れないな。
「・・・・・・・・・・・・誓います。」
すると、激しく光り出す魔方陣にドラゴンが手(前足?)を当てる
『では、魔方陣に触れよ』
まるで、ガラス越しに手を触れ合う恋人同士のようだ、なんてロマンチックな事を思う自分に寒気を感じながら、恐る恐る魔方陣に手を触れた。
と、魔方陣が絡み合った二匹の蛇の様に解け、ドラゴンと俺、互いの腕をスルスルと伝って登って来る。
そして胸の辺りまで来ると、不意に、水月に激しく鋭い痛みが走る
「ウグッ・・・・ァアアッツ!!」
『・・・・・・・・・・ック・・』
激痛にうずくまる俺を見下ろしながら、ドラゴンは告げる。
『契約完了だ・・・これからは、私のために生き、私のために死ね。』
ドラゴンの声が遠くなっていくのを感じながら、俺は迫り来る闇に、意識を委ねた。
ちょいと遅くなりましたが、4話です!!
お気に入り登録してくれたみなさま、ありがとうございます!
本当にうれしいです、これからもよろしくお願いします^^