第11話 夜の街
「ばばんばばんばんばん~♪あびばびば」
おきまりの歌を歌いながら久しぶりの湯船を楽しむ。
露天風呂なんていつ以来だろうか・・・
夜の帳がおりた夜空と、心もとないランタンの灯火、木の枝から絶え間なく舞い落ちてくる紫色の花弁
その情景があまりに和風で、もといた世界の事を否応なく考えさせられる。
実家の家族は元気にしてるだろうか?心配してないだろうか?家賃や、部屋の私物はどうなったのだろうか・・・・・もう、帰れないのだろうか・・・・・・・そして
「いざ、帰れるとなった時に、俺は・・・・」
レステアの事が頭にちらつく・・・・
彼女は強く、聡明で気高く、とても美しい・・・なのに、どこか儚げでほおっておけない。
一度ケンカ(一方的暴力)して以来彼女は、感情が昂ぶったり機嫌がよかったりすると、子供が話すような、少し幼い話し方をするようになった・・・
彼女自身それを恥じているらしく、直そうと心がけている様子が伺えるのだが、なぜかその傾向は顕著になってきている。
「まぁ、そこが可愛くもあるんだが・・・・」
ザバァァーーーー
身体を拭きながら考える。
帰れるとなった時、もといた世界と、レステアがいるこの世界・・・・・どちらを俺は選ぶのだろう。
「クゥ・・・・・・・クゥ・・・・・・・」
静かな寝息をたてながら、レステアはベッドの上で丸くなっていた。
そういえば、そろそろ寝る時間帯だな・・・・・
山奥の洞窟で、焚き火の明かりしかない夜の世界で、できる事は話す位しかなく、日が暮れるとレステアと話ながら、夜の7時~8時位だろうか?その時間帯には眠りについていた。
シーツをレステアにかけると、そっと部屋から出る。
だがしかし!!ここは山奥ではない・・・・・寝るにはまだ早すぎるだろ。
「あら、不思議な色の瞳と髪をしてるわね・・・・・どう?私と遊んでいかない?」
「いやぁ~貧乏なもんで・・・ツケききますか?」
「はぁ?貧乏人に用はないよ!」
途端に豹変する娼婦。
我ながら、なかなか上手いこと考えたと褒めてやりたいところだ。
なるだけマナが漏れ出さないよう注意しながら夜の街を歩く。
昼間見かけた、冒険者ギルド横の酒場、あそこなら何か面白い話や情報が聞けるかも知れない。
カランカラン・・・・・カラン・・・・
西部劇に出てくるような酒場、見るからにただ者ではない者達、アルコール臭充満する店内・・・
見慣れない奴を観察するような視線を浴びながらカウンターに座る。
そして、どうしても言いたくなったセリフを衝動に負けて口にしてしまう。
「マスター、ミルクをひとつ!」
ギャハハハハハハハハ!!ミルクだってよ!!
下品な笑い声が店内を覆いつくす。
やった!!思ったとおりの反応だ!!こんなコテコテの反応、今時珍しい!!とくに日本では・・・
小銅貨をカウンターに出すと、木製のジョッキに注がれたミルクがドンと目の前におかれる。
「おいおい坊主!!ここはお子様の来る場所じゃね~んだぜ?」
酒臭い息を吐きながら、毛むくじゃらの男が隣の席に座る。
腕の太さ、傷だらけの身体、使い古され、しかし手入れの行き届いたタバルジン(片手戦斧)、なかなかの兵らしい只ならぬ雰囲気を放っているが、レステアに比べればカワイイものだ。
「いいタバルジンですね・・・まるでドラゴンの爪の様だ。」
武器の良し悪しは分からない、が、この男が大切に使っているだろう事は分かる。兵が愛用している武器が、悪い武器なワケがない。
それに、自分の愛用品を褒められて嬉しくないワケがない・・・しかし、ドラゴンの爪は褒めすぎたか?
「おぉ!!!相棒の素晴らしさが分かるか小僧!!」
小僧って年齢ではないし、素晴らしさも分からないが、多少の人付き合いなら心得ている。
「いや~ここが戦場じゃなくてよかったよ、じゃなきゃ逃げ出してたとこだ。」
「ブハハハハハハ!!気に入ったぞ小僧!!おい、こんなシケたモンじゃなく、男の飲み物を俺様が特別にご馳走してやるぜ!!マスター!!ボム酒だ!!ガハハハハハハ!!」
日本社会で鍛えたよいしょスキルが、こんなトコで役に立つとは・・・・
「ほら、あそこで酒を飲んでいる女2人組み、あの2人が殺されたと言われてるブラニッツのパーティメンバーだった2人だ、あのチビっこいのも四英雄の1人で、かなりの腕前らしいぞ。」
毛むくじゃらの男は、見かけによらず気のいいヤツで、最近起こった出来事を色々と話してくれた。
「あ、ホグルードの塩漬け肉2人前追加で!ガルドさん、お酒追加します?はい、ボム酒1つ追加で・・・あと果実酒。」
「なんか悪いな光秀、逆にご馳走してもらっちまって!」
「いえいえ、それだけの価値がありますから“ガルドさんの”話には」
「ガハハハハ!!そうかそうか!!ガハハハハ!!」
嘘ではない、情報は時に金以上の価値を持つ、命に関わる情報ならなおさらだ。
「で、その鬼とやらを見たって人は?」
「あぁ、みんな病院行きさ・・・と言っても、そんなにいないがな、鬼の姿を見て帰って来た奴は。
結構な実力者も犠牲になってるからな、みんな鬼にブルっちまって迷宮に入りすらしない、入っても2階層まで、俺は最近3階層まで行ったがスグに引き返しちまったよ・・・入ったとたん肌で感じた・・・・・あそこはヤバイ。」
そう言うと、ガルドは酒を煽る。
「光秀、お前は行くなよ?俺はお前の事を気に入った!!気に入った奴が死ぬのは辛いからなぁ~」
カランカラン・・・・・カラン・・・・・
と、酒場に誰か入って来た。
しんと静まる店内。
まるで、息をするのさえ躊躇われるような緊迫感・・・・・渦巻く強大なマナ・・・・
「光秀・・・・」
静かな、しかし底冷えするほどの怒気が篭もった声・・・・
誰も動けない、動いたら・・・・・殺される・・・・・。
「主人を置き去りにして酒盛りとは、随分と偉くなったものだな・・・・光秀。」
「その酒代はどこから出てると思っている?私の身体(鱗、甲殻)を売った金であろう?その金で酒盛りとはのぉ~」
ガシャン!!
首根っこを掴まれると椅子から引きずり落とされる。
「一度、徹底的に躾なければならんのぉ~~~光秀。」
ズル・・・・・ズルズル・・・・・・
「た、たす・・・・・・・」
カランカラン・・・・・カラン・・・・・
「何者だあの娘?」
「ありゃ人間じゃないな・・・・神や悪魔の類だ。」
「あのミルクボーイ・・・・死んだな。」
「しかし、あの男もヒドイ奴だな・・・・自業自得。」
「マスター、光秀の・・・・弔いの酒をくれ・・・・」
「光秀!!背中ばかりじゃなく、ちゃんと前の方も洗え!!」
光秀のヤツめ!!わらわを置き去りにおって!!
クソ、狼狽してしまった自分が恥ずかしい・・・
「いえしかしお嬢様、そのような・・・」
「なんじゃ?わらわに刃向かうのか?」
「いえ、決してそのような・・・・」
あたり前じゃ!!余計なことは考えず、わらわに言われたまま動いてればよいのだ!!
「早くしろ!!」
「でわ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・んっ・・・」
「お、お嬢様!?」
「な、なんじゃ!素っ頓狂な声をあげおってからに!!」
「もう綺麗になったと思います・・・・よ?」
「ひとなでしただけであろう!!ほら、黙って手を動かせ・・・」
「はい・・・・・」
「・・・・・・・っ・・・・・・っ・・・・・くっ・・・・・もうよい・・・」
「・・・・・はい」
「ん?光秀も洗ってほしいのか?」
「そんな!!わたくしめは先程自分で洗いましたので!!」
なんじゃ、つまらんヤツじゃ・・・
紫色の花弁に彩られた湯に浸かる。
妙に緊張した光秀は、わらわに背を向けて「俺はロリコンではない!!」と、頭の中で唱えている・・・・・ロリコンとは何であろうか・・・・
「光秀・・・」
「はひっ!!」
「もといた世界に帰りたいか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・帰りたい・・・かな。」
何やら迷っているようだが、よく分からない・・・・・・最近、光秀の心が読み辛くなっている。
わらわの与えたマナが、光秀のマナとして、わらわのマナとは少しずつ変化しているのが大きな要因であろう。
「この世界は・・・・・好きか?」
わらわは何を光秀から聞きたいのであろうか・・・・自分で分からない。
「正直分からない・・・・俺はまだ、この世界の事をあまり知らないから。」
「わらわの・・・・・・・・」
「ん?」
「・・・・・・・・・・なんでもない、あがるぞ。」
ザバァーーーーーー
寝る気満々で着替えをしている光秀に、少し腹が立つ。
「光秀、おぬしはここで一晩中立っておれ!!」
「え?マジで?」
「マジじゃ・・・・・1人で出かけた罰じゃ!!」
「はい、お嬢様・・・・・・・」
「うむ、ではおやすみ」
「・・・・・・・・・・・・おやすみ」
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
「光秀・・・・・・・もうよい。」
「は?」
「わらわは慈悲深いのじゃ、わらわの横で寝る事を許そう・・・」
「はぁ・・・・」
「それに今日はまだ、話を聞いておらん・・・・」
光秀が、ごそごそと横に入ってくる。
「では・・・・・・・今日は、『シュレディンガーの猫』という話をしよう。」
光秀の口から紡がれる異世界の話はどれも興味深く、知的好奇心を刺激される。
「その猫ははたして生きているのか・・・・・それとも死んでいるのか・・・」
本格的な迷宮探索は次の話からです。
すいません!!この話、さっきまで中途半端な状態で投稿されてたみたいなんです!!
ほんとすいません;;