第一章 擬態
「ごめんなさい」
唐突だった。
あいつと別れて以来、久しぶりに心から好きになった相手だった。
けれど、誰と付き合っても結局、心のどこかで「あいつ」と比較してしまう。
それが「女の勘」というやつでバレていたのだろうか。
「……君は優しいけれど、いつもどこか遠くを見てる気がするの」
去っていく彼女の背中を、俺は追いかけなかった。追いかける資格なんて、最初からなかった。
誠実であろうとすればするほど、俺の心に居座る「あいつ専用の空洞」が、目の前の誰かを拒絶してしまう。
一週間後、鏡に映る俺は、髪を派手な色に染め、指には安物のクロムハーツ風のリングをいくつも嵌めていた。
――いつからだろうか、一人称を「俺」と呼び始めたのは。
今日もまた、埋まるはずのない空洞を埋めに行く。
「ねえ、次どこ行く?」
適当に声をかけた女の肩を抱き、わざとらしく軽薄に笑う。中身のない言葉、心のない接触。自分を汚せば汚すほど、あいつとの純粋な思い出が浄化されるような気がして、俺は必死に「チャラい男」を演じ続けた。
そんな時だった。
テーブルの上で、スマホが短く震えた。
通知画面に表示されたのは、もう二度と鳴ることはないと思っていた名前。
――あいつだ。
『今、一人?』
たった四文字のメッセージが、俺が必死に築き上げた「チャラい自分」という砂の城を一瞬で押し流した。
俺は隣にいた女の手を振り払い、震える指で返信を打つ。
あの日、地獄のような喧嘩の果てに別れた時に交わした、呪いのような約束。
『もしお互いに一人になって、この約束を思い出したら、またあの場所で会おう』
あいつは、俺が一人になったことを知っているのか。それともあいつも、誰かの色に染まろうとして失敗したのだろうか。
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