第34話 転生したら〇〇だった件
「どうやら全て思い出したようですね」
「……え?」
「そこは素直にハイと言ってください。回想シーンはありませんよ?」
「あ、はい。全部思い出しました」
そうだ……俺は、俺たちは任務中に餓鬼と遭遇して……。
「あいつらは!?隊のみんなはどうなったんですか!?」
「心配はいりません。貴方が囮となったお陰で皆さん無事に逃げることが出来ましたよ。ただ……」
「ただ?」
「その後、餓鬼たちによって町の人には被害が出ましたが……」
「そんな!?……俺のせいだ。俺たちはみんなを守る為にあの町に行ったというのに……。何も、何も出来なかった……」
「そんなに自分を責めるものではありませんよ。餓鬼たちは貴方たちの世界とは違う理にある存在。科学の力が無力なのは仕方がない事なのです」
「しかし!ではそれならば今後も奴らによる被害は増える一方ではないですか!そんな、そんな地獄みたいな世界……」
生きている意味などないではないか。
「その事も心配いりません。私は神だと言ったでしょう?それも貴方の生まれた日本という国の神の一柱なのです。このような事態を放っておくはずがないでしょう?少々調整に手間取ってしまいましたが、日本の皆さんには餓鬼たち黄泉の世界の者たちと戦える力を与えます。そうすれば貴方が思うような地獄にはならないでしょう。それにこれまでと同じとはいきませんが、それに近い生活環境をお約束します」
「戦う力を……。月読様。貴女が日本の神の一人であるというのでしたら、そのお力で餓鬼たちをいなくさせる事は出来ないのでしょうか?」
「そうですね。やはりそう思うでしょう。しかし答えは出来ない、と言うしかありません」
「何故!?」
「神の一柱と言ったでしょう?日本という国は八百万と呼ばれるほど多くの神の力によって造られているのです。私が管轄しているのは日本の夜の世界。餓鬼たちの棲む黄泉の世界には干渉する事が出来ないのです」
「干渉出来ない……。つまり貴女が直接手を出せないということですか……」
「そういう事です。本来ならば私のこうした行動も許される事ではないのです。どのような事が起ころうと、神はただ見守るのみ。全てはその世界に生きる人たちの手に委ねられているのですから。しかし今回はこちらにもいろいろと事情がありまして、特例として私が手を貸すという事になりました」
「いろいろな事情?」
「まあ、それはここで貴方に言っても意味が無いので省略させていただきます。それに時間もあまり残っていないようですし」
月読様が意味ありげな視線を俺の足下に向ける。
俺はその視線を無意識に追うと、俺の下半身が少し透けるように薄くなっていた。
「え!?何だ!?身体が——」
「俗に言うところの『お迎え』の時が近いようですね」
「俺は……このまま成仏するのですか?それともどこか別の場所に行くのでしょうか?」
日本は今後どうなってしまうのか?
月読様は力を与えてくれると言ってくれたが、果たしてその力でどれだけの人の命が救えるのだろうか?
消えた太陽は?
助かった隊員たちは今後もまた危険な戦いに赴くことになるのだろうか?
心配事はいくらでもある。
しかし、自分が死んでしまった事を受け入れた俺にはもうどうする事も出来ない。
「偶然とはいえ、なかなか良いところを突いてきますね」
月読様は切れ長の目を更に細めてうっすらと笑ったように見えた。
「こちらに特別なチケットがあります。勇敢に戦い、仲間たちの命を救った貴方にはこれを受け取る権利があります」
「チケット?」
月読様の手には遊園地や映画館に入る時に受け取る切り取り線の入った一枚のチケットらしきものが握られている。
「期間限定。枚数限定の特別な転生チケットです」
「転生……チケット?転生?俺は生まれ変われるんですか?」
「まあ生まれ変われるのは貴方だけではないのですがね。輪廻転生。この世の魂は常にそうして廻っているのです。しかしこのチケットがあれば、その輪廻の輪から抜け出すことが出来ます」
「……意味がよく解りません。輪廻の輪から抜け出す?生まれ変わるのに輪廻転生ではないということでしょうか?」
「輪廻転生というのはこの世界においての魂の廻りの事です。このチケットで生まれ変わるのは、こことは別の世界。異世界なのですよ。それも今の記憶を持った状態で生まれ変わる事が出来るんです」
「異世界!?」
「そこは今の日本よりも昔の文明を持った世界。魔物が存在し、人々は剣と魔法で戦う、ゲームのようなファンタジーな世界なのです。貴方はそういう世界観がお好きなようでしたから」
「ドラ〇エみたいな世界という事ですか?」
「実名は出さんでもろて」
「いや、確かにRPGは好きですよ。でも、餓鬼一匹に殺されるような俺がそんな世界に生まれ変わったとしても、今度はスライムに殺されるのが関の山なんじゃ……」
「特別なチケットだと言ったでしょう?これは異世界に転生出来るだけではなく、その世界で楽に生きられるだけの力が与えられる特別製なのですよ」
「楽に生きられる力?その魔物とやらを倒せるだけの力でしょうか?」
「余裕です。貴方が望むのでしたら、剣を振れば山を切り、魔法を使えば一国を亡ぼせる程の力を与える事も出来ます」
「いやいやいや!そんな物騒な力はいりませんよ!?」
「まあ、貴方ならそう言うとは思っていましたけどね」
そう言ってクスリと笑う。
どうやら俺はからかわれていたようだ。
「実際には国最強の剣士か魔法使い。そのレベルになれるくらいの力ですね。それでも十分に貴方があちらの世界で楽しく生きていく事が出来ると思いますよ?」
魔法という言葉には惹かれる。
中二病のような意味不明で長い詠唱を唱えて魔法を放つとか男の憧れじゃないか。
「全人類の男性代表みたいな事を言わないでください。あと詠唱は意味不明ではなく、ちゃんと意味がありますからね?」
でも疑問もある。
「もし、もし俺がそのチケットを受け取らなかった場合はどうなりますか?」
「え?受け取らなかった場合?……それはこのままこの世界の輪廻の輪に戻る事になりますが……。ええと、そんな選択肢あります?他の方は皆さんよろこんで受け取って転生していきましたよ?」
「ああ、他にもチケット貰った人がいるんですね。それで枚数限定か……」
「正直に申しますと、今回餓鬼たちによって命を落とされた方にはもれなくチケットをお渡ししております」
「結構破格な条件のチケットですよね?」
「それはもちろん!いろいろな世界の神たちに交渉して手に入れましたからね!」
「それで少々手間取ったと?」
「まあそういう事です。さすがにどこの神も簡単にはイエスと言ってくれませんでしたから」
「一人だけ言いそうな神様はこの世界の神ですしね」
「上手いことを言いますね!」
「つまりそれだけのチケットを配らなければいけない程の事だと。この出来事は貴方たち日本の神の不始末であるという事ですね?」
「……何を言ってらっしゃるのか意味が解りません」
月読様の目がバタフライのように激しく泳ぎ、チケットを持っている手は残像が見える程震えている。
あからさますぎるほどに動揺している。
「ど、童謡なんて歌っていませんよ!」
「チケットは受け取りません」
「——え!?どうして!?これがあれば俺tueeeムーヴも、異種族ハーレムも思いのままなんですよ!?」
「今度は俺が何を言っているのか意味が解りませんが……」
「とにかく!このチケットで異世界転生すれば貴方は思い通りの人生を送る事が出来るんですよ!?それを受け取らない!?」
魅力的な話だとは思う。ちょっと意味不明なところもあるけれど。
でも思い通りの人生を送る事が出来るというのであれば——
「俺は日本でもう一度人生を送りたいです」
そして今度こそ未練を残さない生き方をしたい。
今度こそもっと多くの人の助けになるような生き方をしたい。
それが俺の望む思い通りの人生だ。
「俺をもう一度あの世界で生まれ変わらせてください!」
「それは……チケットを受け取らないというのであれば、頼まれなくてもそうなりますが……。生まれ変わるのはいつの未来になるか分かりませんよ?それに当然ですが記憶も引き継がれません。今の貴方という存在を自分で認識する事が出来なくなるんですよ?」
「記憶は……仕方ありません。それは今の自分に前世の記憶が無いのと同じ事なのでしょうから。でも、生まれ変わるなら出来るだけ早くお願いします!」
「はい!?出来るだけ早く、とは?」
「記憶が無くなったとしても、少しでも早くみんなの力になりたいんです!」
月読様の言葉が本当だとしたら、俺が生まれ変わっても何らかの力が与えられているはずだ。
その力で出来るだけ多くの人たちを守りたい。
「成程……。貴方の想いはどこまで行ってもそのベースにあるのは正義の心なのですね……」
そんな立派なもんじゃない。
俺は俺の都合でそう思っているだけだ。
これはただのエゴイズムでしかない。
「エゴもそこまでいけば立派な正義ですよ」
そう言うと月読様は持っていたチケットを切り取り線から半分に千切る。
「ではこれを貴方にお渡ししましょう」
そしてその半分を俺に差し出してきた。
「い、いや、俺はチケットを——」
「これは異世界へのチケットではありませんよ。この半分は転生のチケット。つまり貴方は今この時点から転生する事になりますがよろしいですね?」
「……日本に、ですか?」
「日本に、です」
「——ッ!ありがとうございます!!」
「かといって、これだけでは他の方と同様の償いには足りませんね。さて、どうしましょうか?時間もほとんど無いようですし」
差し出されたチケットを受け取ろうとした俺の手はほとんど消えかかっていた。
慌てて僅かに輪郭の残った手でチケットを受け取る。
「ではこうしましょう。期間限定——日本が元の状態に戻るまで、という区切りをつけてになりますが、貴方には他の方よりも強い神力を与える事にしましょう」
月読様はそう言いながらパンと手を叩く。
持っていたチケットの半券がぐしゃっと潰れた。
「神力?神の力と書いての神力ですか?それがみんなに与えられる力なのでしょうか?」
「ああ、もう時間が無くなったようですね。ここでそれを聞いたところで生まれ変わった貴方は覚えていません。ですからその答えは次の人生で確認してください」
そう言い終わると、月読様の体の輪郭がぼんやりとしていく。
「違いますよ。私がぼんやりとしてるのではなく、貴方という魂が生まれ変わる準備を始めたのです」
聞こえてくる月読様の声もだんだんと遠くなっていく。
「その名の通り勇気ある貴方に素晴らしい来世が訪れん事を」
それが俺が今世で最後に聞いた言葉だった。




