第21話 最強と最強
「まあ、混乱するわな」
「ああ、私たちも最初はかなり戸惑ったからな」
眼球をくるくると忙しなく動かしながらフリーズしている怒真利を見ながら、数日前の自分たちのことを思い出す二人。
「おかんだけやと思っとたら、まさかのおとんもやなんて」
「私はそうなんじゃないかと思っていたぞ?」
「マジですか!?うちは武流はんを超えるような化物みたいな人かと想像しとったわ」
「ああ、それは私も少し考えた。しかし武流殿が特殊なのは月読様の加護のせいだからな。その父親の体格は関係ないんじゃないかと思った」
「それは確かにそうやな。いや!騙されへん!この見た目だけでも十分に化物じみとるわ!」
「……よく分からないけど、多分俺は悪口言われてるよね?」
「「いやいや全然」」
「すまん……誰か説明してくれるか?」
怒真利は頭を押さえながらため息をつくようにそう呟いた。
「ええと……つまり、そっちの青年がこっちの中年男の父親で、このおっさんがお前たちを助けたという武流殿で間違いないんだな?」
「今ので伝わったのか?便利だな空行」
「メタいこと言いなや!」
「おっさんではありません。武流殿です!」
「いや、どこからどう見てもおっさんだろうが……」
怒真利の言葉に、後ろで聞いていた師団員たちもうんうんと頷く。
「彼はまだ四十です!私たちよりも若いのですよ!」
「四十は立派におっさんだろうよ。比較対象と比べて若いかどうかでいうのなら、ワシだって相手次第では少年になるわ」
先ほどまで自分比較で勝手に青年も少年だと思っていた男の言葉とは思えない。
「怒真利師団長が少年になる比較対象いうたら、もうそれは人の領域超えてるやろな……」
「何か言ったか猫野瀬?」
「比較対象が化物やったら少年になるかもな?って言いました」
「絶対にもっとマイルドな言い方だったよな!?ワシ、まだ六十だぞ!?」
「還暦が少年になるやいうたら、それこそ総理相手やないと無理ってもんですよ?」
「……あの人か。まあ、確かに化物の類ではあるな」
「怒真利師団長、猫野瀬副師団長。今の発言はあまり……」
第一師団員の一人が二人をたしなめるようにそっと呟いた。
「あ、ああすまん。今のは失言だ。忘れてくれ」
「うちも調子に乗り過ぎたわ。聞かんかったことにしてや」
ばつが悪そうに顔を背ける二人。
総理がどのような人物であったとしても、自分たちにとっての最上官であることに違いはない。それを公然と化物などと揶揄するのは退魔隊の隊員たちにとってタブーでもあった。
「総理って化物なのか?」
「蒸し返すなや!空気読め!」
そんなものを読めた試しなど武流の人生において一度も無かった。
「まあ、どうやら君が二人を助けてくれたことに間違いはないようだ。退魔隊を代表して礼を言わせてくれ」
怒真利はそう言うと似合わない笑顔を浮かべて右手を差し出した。
「いや、そんな礼を言われるようなことでもないんだが」
武流は戸惑いながらも怒真利の手を握った。
「いやいや、そんなことはない!二人は退魔隊にとってなくてはならない人材である!つまり、ひいては日本国全体にとっての恩人とも言えるのだぞ?」
——ギリギリ
「怒真利師団長。それはさすがに大袈裟ですよ。私たちにそれほどの価値はありません」
「何を言う初鹿野師団長!お前たちがいることでどれだけの国民の命が救われてきたと思っておるのだ!そしてこれからの未来においてどれだけの命を守るというのだ!その命を救ったということは、その救われるはずの人々の命を救ったと言っても過言ではなかろう!」
——ギリギリギリギリ
「怒真利師団長……。せっかくええこと言うてるんやから、ちゃんとうちの方も見ながら言うてくれんやろか?完全に愛さんにだけ言うとるよね?」
「そう聞くと何か良いことをしたような気がしてくるな……」
「気がするのではない!間違いなく良いことをしたのだよ君は!!」
——ギリギリギリギリギリギリ…………
「そこでなんだが」
怒真利は何故か顔を真っ赤にしながら武流を直視する。
「どうやって『がしゃどくろ』から二人を救ったのか教えてはくれないだろうか?いや、もし能力について教えたくないというのなら仕方ないが……。しかし信じて欲しい!その力については絶対に誰にも口外しないと月読様の名に誓おう!」
「がしゃどくろ……。ああ、大骨の外での呼び名だったな。いや別に何かを秘密にするつもりはないが……」
——ゴゴ……
「ん?なんや?」
一瞬足下が揺れたような気がした猫野瀬。
「別に大したことはしてないぞ」
「謙遜しなくても良い。あの化物から二人を逃がすなどという離れ業。誰彼として出来るようなことではないんだからな。高速で動けるのか?それとも姿を消せるのか?」
怒真利の中に武流が単独でがしゃどくろを討伐したという考えは一切ない。
あるとすれば隙をついて二人をその場から離脱させた程度だろうと高をくくっていた。
「いや、本当に特別なことは何もしてないぞ」
「そうか……。やはり教えられないということか……」
——ゴゴゴゴゴ……
「やっぱり揺れとる。地震か?」
足元から確かに振動が伝わってきた。
他の者もさすがに気付いた様子で、周囲をきょろきょろと見回している。
「特別なことなんて何もしてなくて、普通に大骨の頭を殴って倒しただけだ」
「——なぐっ!?戯言をほざくなぁぁぁぁぁ!!!!」
——ドゴォォォォォォォン!!!!
「うわっ!」
「きゃあ!!」
「「「おおおおお!!」」」
怒真利が叫ぶと同時に眩い光の柱が二人を包み込み、握手をしたままの二人の周囲の地面が轟音と共に激しく陥没する。
その衝撃は凄まじく、その場の全員が回避行動を取る事も出来ないままに吹き飛ばされた。
そして、まるで二人を中心に隕石でも落ちてきたかのように巨大な窪みが出現した。
「今のは怒真利はんの……。地震や無かったんかい……」
「武流殿!!」
慌てて立ち上がり窪みに駆け寄る愛。
他の師団員たちも武流にとって最悪の結末を想像しながら中を覗き込む。
「なるほど……。あながち戯言というわけでもなさそうだな」
窪みの底にはそれまでと全く変わらない体勢で握手をしている二人の姿があった。
「おおー。何か凄いことになってるな……」
他人事のようにきょろきょろと窪みの中を見回す武流。
「ワシの全力の握力を涼しい顔で受け流し、今の攻撃をも耐えくさるか……」
「武流殿!!大丈夫か!!」
「師団長!早まったことを!!」
血相を変えて二人の安否(主に武流)を確認する者たち。
しかし武流の無事な様子を見て、愛はほっと胸をなでおろす。
「……え?」
逆に無事だった武流を見て驚愕の表情になる師団員たち。
「あかんな……。うちだけ全然心配する気にならへんかったわ……」
どうせ無事だろうと思っていた猫野瀬。
何事かと集まってくる野次馬たちの中、一人だけ周囲との温度差を感じながら頭をぽりぽりとかくのだった。




