表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラインスナイプ! 世界を驚かせた高校生テニス少女の物語  作者: ヨーヨー
第四章 全国大会編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/103

第64話 嵐の予兆、譲れぬ一戦

全国大会優勝の熱狂がまだ冷めやらぬなか、紗菜は特別招待選手エマ・ローレンスと激突する。

一進一退の攻防は緊張感を増し、スコアはついに5–5。

冷静沈着なエマが先行するが、紗菜も意地と気迫で食らいつき、互いの魂をぶつけ合う。

外では風が強まり、空には厚い雲――嵐の予兆が忍び寄るなか、試合はさらに激しさを増していく。

「5–5!」

審判のコールが響いた瞬間、観客席がざわめきに包まれた。

声援と拍手が入り混じり、どちらを応援するのか分からないほど熱が渦巻く。


紗菜は額の汗を手の甲で拭い、ラケットを握り直す。全身が熱く火照っているのに、指先はひやりと冷たく震えている。

(ここから――一つでも落としたら負けにつながる。絶対に踏ん張らないと!)


そのときだった。

ふっと頬をかすめる風。

観客席の旗が揺れ、コートの影が少し濃くなる。

(……風?)

空に目をやると、わずかに雲が流れ込んでいた。まだ青空は残っているが、胸の奥にざらりとした不安が残る。


エマがサーブに入った。

高くトスを上げる。

だが、風に煽られてボールが一瞬揺れた。

それでも――彼女の体は微動だにしない。

「ハッ!」

鋭い掛け声と同時に、ラケットが振り抜かれた。


――ズバァンッ!

センターに突き刺さる直球。

紗菜のラケットはわずかに遅れ、フェンスの近くでボールが弾む。

「15–0!」


観客の一部からどよめき。

「風に流されたのに修正した……」

「やっぱり冷静すぎる!」


二球目。

今度はボディを狙ったサーブ。

紗菜は面で合わせ、必死に深く返した。

だが、エマはすぐに前へ踏み込み、ベースライン近くから鋭いクロスを打ち込む。

「30–0!」


(押し込まれてる……!でも、負けない!)

紗菜はステップを速め、足を小刻みに動かす。


三球目。

ワイドへ逃げるサーブ。

今度は紗菜も読み切った。

早めに動き、逆クロスへ叩き返す。

「30–15!」

観客席が大きく沸き立つ。


「いいぞ!」「返した!」

声援が飛び交うが、エマは無表情のまま。淡々とボールを受け取り、次の構えへ。


四球目。

ラリーが始まった。

互いの打球が左右に走り、砂を巻き上げ、スニーカーのきしむ音が響く。

10球、15球――会場全体が静まり返り、打球音だけが刻まれる。

紗菜の頬を汗が流れ落ち、息が荒くなる。

(まだ……まだ繋ぐ!)


だが、わずかに浅く浮いたボールを、エマは見逃さなかった。

軽やかに前へ飛び込み、しなる腕でクロスに鋭く叩き込む。


「ゲーム、ローレンス! 6–5!」


観客が一斉に立ち上がり、大歓声がコートを揺らす。

「やっぱり強い!」「すごい!」


紗菜は肩で息をしながらベースラインに戻った。

唇をかみしめ、視線を落とさない。

(まだ……ここから! 落とさない!)


ふと、コート脇で審判が小さくマイクに触れるのが目に入った。

「風が強まってきています。プレー継続」

短いアナウンス。観客席にざわめきが走る。


旗がさらに大きく揺れる。

雲が、またひとつ流れ込んできた。

次は自分のサーブ。

嵐の気配を背に受けながら、紗菜は強くラケットを握り直した。



スコアは「 5–6」

ここを落とせば、試合は決着してしまう。

観客の熱気は渦を巻き、空から吹き込む風がコートの音を飲み込んでいく。


紗菜は深呼吸し、ラケットを胸に抱いた。

(絶対に――負けない! ここから!)


審判の声が響く。

「三浦サービスゲーム!」


ベースラインに立つ紗菜の髪が、風に煽られて揺れる。

視界の端で雲が厚みを増している。

だが紗菜は迷わない。

ボールを高くトスし、ワイドへ叩き込んだ。


――ズバァンッ!

「15–0!」

ボールは風に乗り、さらに逃げるように外へ流れ、エマのリターンは浅く弾む。

紗菜は前に出て、逆クロスへ強烈に叩き込んだ。

観客席が一気に沸き上がる。


二球目。

今度はセンターへ。

エマは体をひねり強烈なリターンを返してきたが、紗菜はすぐさま足をさばき、体の正面で打ち返した。

深い弾道がベースラインぎりぎりに突き刺さる。

「30–0!」


「いけぇぇ!」

「返せ!」

声援と叫びが入り混じる中、エマがわずかに表情を動かした。

冷徹さの奥に、意識を研ぎ澄ませる色が宿る。


三球目。

紗菜のトスが風で流れた。

「っ……!」

体勢を崩しながら打った2ndサーブを、エマが踏み込んで強烈に叩き込む。

紗菜は必死に食らいついたが、返球は浅い。

エマが前に出て鋭いボレーを決める。

「30–15!」


観客が息をのむ。雲がさらに厚くなり、空がわずかに暗さを増していた。


四球目。

紗菜はラケットを握り直し、外角を狙う。

ボールは風に揺れながらも、ぎりぎりライン際へ。

エマは届かず、リターンはネットに吸い込まれる。

「40–15!」


(あと一本! 絶対にこのゲームを取る!)


ラリーが始まった。

エマは鋭いストロークで左右に揺さぶる。紗菜は走る、飛ぶ、滑り込みながら必死に返す。

「すごい!」

「まだ拾うのか!」

観客の声が轟く。


十本、十五本――息を切らしながらも紗菜は退かない。

エマの一撃を読み、低いスライスで沈め、次球を鋭く叩き込む。


――バシィンッ!

ボールはエマの足元を抜け、サイドラインぎりぎりに落ちた。


「ゲーム、三浦! 6–6!」


会場が爆発したような歓声に包まれる。観客は立ち上がり、拍手と声援を惜しみなく送る。

「追いついた!」「まだ分からない!」


紗菜は荒く息をつきながら、視線を前に固定した。

(ここから……絶対に譲らない!)


そのとき、遠くで雷鳴が小さく腹に響いた。

観客がざわつき、スタッフがコートサイドに目をやる。

審判は冷静に声を響かせた。

「6–6、7ポイント先取のタイブレークに入ります!」


空は一層暗さを増し、冷たい風が観客席を揺らす。

それでも――コートの上には二人の姿。炎と氷が並び立ち、互いを見据えていた。


試合の熱気と天候の不穏さが交錯し、観客をも巻き込む緊張感が描かれました。

エマにリードを許しながらも、紗菜はサービスゲームを死守して6–6に追いつく。

点数以上に大きな「気迫の一本」が、観客の胸に刻まれた瞬間でした。

嵐が迫るなか、次はいよいよタイブレーク。

コートに立つ二人の天才が、どんな光景を生み出すのか――。



★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

楽しめていただけましたか?

見逃さないようブックマークお願いします!

ぜひ☆評価もお願いします!!


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

まとめサイトはこちら!

https://lit.link/yoyo_hpcom

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ