表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラインスナイプ! 世界を驚かせた高校生テニス少女の物語  作者: ヨーヨー
第四章 全国大会編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/103

第60話 世界への扉

準決勝を完封で突破し、ついに全国大会の決勝の舞台に立つ紗菜。

相手は全国シード最上位の強敵・九条怜。

スピードと正確さを兼ね備えた相手に、どう挑み、どう勝ち切るのか――。

会場が息を呑むなか、全国女王を決める一戦の幕が上がる。

昼下がりの陽射しが、会場全体を黄金色に照らしていた。

準決勝から2時間。体を冷やす時間と、軽い補食を終えた紗菜は、ラケットバッグを背負って決勝のコート裏に立っていた。

その胸の奥は、緊張ではなく高揚でいっぱいだった。


「……決勝かあ」

小さく息を吐く。

頭に浮かぶのは兄から昼休みに届いた短いメッセージ。

〈決勝も、落ち着いて〉

ほんの一行。それでも十分だった。既読を返した瞬間、彼の声が背中を押すように心に残っていた。


観客席からはざわめきが漏れ聞こえてくる。

準決勝よりもさらに人が増え、立ち見まで溢れている。

全国大会の決勝――ここに立てるのは二人だけ。その片方に自分がいることが、不思議であり誇らしかった。


呼吸を整えていると、審判に呼ばれる。

コートへ向かう導線の先、もうひとりの選手が立っていた。


九条 怜。

全国シード最上位、名門校のエース。

鋭い眼差しと落ち着いた所作。その背筋の伸び方ひとつに、場数を踏んできた貫禄が漂っていた。

(やっぱり強そう……でも、わたしはここまで来たんだ。最後まで、勝つだけ)


二人が並んでコートに入ると、観客席は一気に沸き立った。

「三浦だ!」「九条だ!」

左右から声援が飛び交い、熱気が押し寄せる。

紗菜はその中で深く一礼し、凛とした表情を浮かべた。

彼女の姿に、思わず拍手が広がる。


ウォームアップが始まる。

九条のサーブは、やはり正確無比だった。外角へ伸びる球、体を狙うボディ、センターを突く一撃。

どのコースも揺るぎない精度で、彼女が全国トップの実力者であることを示していた。


紗菜はラリーで相手を探る。九条はベースライン内側に立ち、早いテンポで仕掛けてくる。

「……速い」

思わず小さく呟いた。

だが、深く沈めるトップスピンや低いスライスを混ぜると、一瞬だけ相手のリズムが揺れるのを感じ取った。

(うん……見えた。テンポを壊せば、わたしのリズムになる)


作戦はシンプルだ。

――サーブはワイドとセンターを使い分けてコートを広げる。

――リターンは深く中央へ集め、甘い球だけを角度で仕留める。

――ラリーは「深い→浅い→深い」のリズムで、速さを支配する。


「プレイ!」

審判の声とともに試合が始まった。


九条のサーブから。

初球は体を狙うボディ。紗菜は咄嗟に面を合わせ、深く中央へ返す。

返ってきた球をショートクロスへ叩き込み、九条の足を止めた。観客から「おおっ」とどよめきが広がる。

さらに深いボールで時間を奪い、先にブレーク。


続く自分のサービスゲームも落ち着いてキープ。

2–0。

会場がざわつく。「立ち上がりが完璧だ」「主導権を握ってる」


だが九条も黙ってはいない。

強烈なセンターサーブからのダウン・ザ・ライン。紗菜が追いつく前にボールはコートに突き刺さり、ゲームを奪う。

「やっぱりただ者じゃない……!」

観客が色めき立つ。


(でも、崩せる。絶対に)


紗菜はラリーの組み立てを一段シンプルにした。

深いクロスを連続で打ち込み、九条を後ろに釘付けにする。

甘く浮いた瞬間、前に踏み込み逆クロス。鋭い一撃が決まり、観客席が大きく揺れた。


スコアは3–1。

さらに次のゲームでも相手のダウン・ザ・ラインを読み切り、逆突きを決めて4–1。

観客が大きな拍手を送る中、ベンチに戻った紗菜はタオルで汗を拭い、水を飲んだ。

胸の内で静かに呟く。

(速さは怖くない。速さの基準は、わたしが決める)


彼女の瞳は、まだ揺るぎなく前を見据えていた。



スコアは4–1。

だが九条怜の表情には焦りはなかった。むしろ鋭い眼差しで、次の手を用意している気配が漂っていた。


次のサービスゲーム。

九条はそれまでの順序性を崩し、いきなりセンターへ打ち込んだ。

反応が一瞬遅れた紗菜はラケットにかすらせただけでポイントを落とす。

さらに外角、ボディとコースをばらけさせて押し切られる。

観客が大きく沸いた。

「九条、ギアを上げてきた!」

「まだまだわからないぞ!」


(変えてきた……でも、崩せる)


リターン位置を半歩前に詰める。

相手の速さに被せて面を合わせ、深く返す。

そこからは低く滑るスライスで足元を突き、甘く浮いたボールを逆クロスへ。

一連の流れが鮮やかに決まり、再びブレークに成功した。


「ゲーム、三浦! 5–1!」

審判の声と同時に、観客席が大きく揺れる。


九条はなおも粘る。

次の自分のサービスゲームを強気にキープし、5–2。

「意地を見せた!」「まだ試合は終わらない!」

会場は熱気に包まれていた。


だが紗菜の心は揺るがなかった。

(ここで決める。最後まで走り抜ける)


第8ゲーム。紗菜のサーブ。

デュースサイドから外角へ大きく開くスライスサーブ。

九条が食らいつき、ボールを返す。

浅く浮いた瞬間、紗菜の視界に一本の白線が走った。


「……ラインスナイプ」


小さく呟き、ラケットを振り抜く。

白球は矢のように走り、サイドラインを糸のように撫でながら突き刺さった。


「イン!」

審判の即答。

観客が一斉に立ち上がる。

「決まった!」「狙いすました!」

熱狂がコートを包み込む。


マッチポイント。

紗菜はボールを高くトスし、センターへと力強く打ち込んだ。

九条のリターンは浅く浮き上がる。

紗菜は体を止めずに前へ踏み込み、逆クロスへ置くように叩き込んだ。


――バンッ!


「ゲームセット! 三浦! 6–2!」


審判の声。

次の瞬間、会場が地鳴りのような歓声に包まれた。

紙吹雪が舞い、スタンドの観客が立ち上がって拍手を送る。


ネット越しに歩み寄った九条は、肩で息をしながらも穏やかな笑みを浮かべた。

「……完璧だった。速さを奪われたのは、初めてだよ」

紗菜は一礼して答える。

「ありがとうございました」


互いの手がしっかりと握られた。

その瞬間、勝敗を越えた敬意が交わった。


表彰式。

トロフィーを掲げる紗菜の横顔は、涙よりも微笑みが勝っていた。

歓声を浴びながらも、彼女の瞳はもう遠くを見据えている。

(世界を見たい――その扉が、今、開いた)


白いグリップを握り直し、胸の奥で静かに呟いた。

(ここからだ。ほんとうに)


会場の熱気がまだ冷めやらぬなか、三浦紗菜は全国の頂点に立った。


九条の速さも多彩な戦術も封じ、6–2で堂々の優勝を果たした紗菜。

トロフィーを掲げる姿は、ただの勝者の笑顔ではなかった。

その瞳はすでに次の舞台――「世界」へ向いていた。

全国制覇はゴールではなく、始まりにすぎない。

新たに開いた扉の先に、彼女を待つのは未知の挑戦と宿命のライバルたち。

三浦紗菜の物語は、ここからさらに広がっていく。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

楽しめていただけましたか?

見逃さないようブックマークお願いします!

ぜひ☆評価もお願いします!!

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

まとめサイトはこちら!

https://lit.link/yoyo_hpcom

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ