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ラインスナイプ! 世界を驚かせた高校生テニス少女の物語  作者: ヨーヨー
第四章 全国大会編

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第55話 校内がざわめく朝

全国大会二回戦を勝ち切った紗菜。その夜のうちに、学校新聞のWEB号外が速報として公開された。

翌朝、号外は校内に掲示され、母校にも、仲間たちにも、「世界を見たい」と言った少女の純粋な覚悟が静かに広がっていく。

全国大会二回戦から一夜が明けた。

宿の小さな部屋の窓からは、朝の光が差し込んでいる。前日、ランキング上位の選手を6−0で下した余韻はまだ体の奥に残っていて、目を覚ました瞬間から胸の鼓動がわずかに早い。けれどそれは緊張というよりも、これから先へ進む期待のせいだった。


ストレッチをして体をほぐし、ゼリー飲料で軽くお腹を満たしたところで、スマホが震えた。

画面には「学校新聞部・速報配信」の文字。

(……そうか、昨日の試合のこと)

開いてみると、WEB号外の記事が7時30分に公開予定だと通知されていた。


「三浦紗菜、全国大会で連勝――“世界を見たい”」

見出しを見ただけで頬が熱くなる。あの言葉が、こうして大きく文字になって並んでいる。昨夜、新聞部から記事草稿の確認依頼が届いたとき、

『お願いします』

とだけ返信していた。それがもう、現実になろうとしているのだ。


公開時刻になり、記事が配信された。

冒頭には昨日の二試合のスコアが記されている。

「初戦6−0、二回戦6−0。全国大会初日の全試合をストレートで勝利」

事実を淡々と記した文章なのに、文字を追うたびに胸の奥がざわめいた。


続いて、試合後のインタビューの一部が引用されている。

――「必死にボールを追いかけていました」

――「……世界を、見たいです」

文字になった自分の声は、照れくさいような、けれど背中を押されるような感覚を伴っていた。


さらに記事は、これまでの姿もさりげなく紹介していた。体育の授業でのフォームの綺麗さ、コツコツと努力を続ける性格。テニス部に所属していない彼女が、自分の力だけで全国に挑んでいること。先生や生徒の証言も短く添えられている。


(……ちゃんと見ていてくれたんだ)


紗菜は画面をスクロールし、最後の段落に目を止めた。

「次戦は本日予定。連日の連勝で勢いに乗る三浦紗菜選手から、まだ目が離せない」


記事を読み終えた瞬間、胸の奥がきゅっと引き締まる。

嬉しさだけじゃない。これを見た人たちが期待する、次の一戦への責任。

(言葉にしたからには、ちゃんと応えなきゃ……)


スマホに学校新聞の記事リンクを添付し、母と兄に短いメッセージを打った。

母へは『学校新聞に載ったよ見てね。 午後も頑張る。』

数分後、スタンプ付きで『無理せずね』と返ってくる。

兄からもすぐに一言。『記事見た。無理しないで。次も。』

その言葉に紗菜は小さく笑みをこぼし、『ありがとう。頑張る』とだけ返した。


校内でも同じ記事が朝から掲示板に貼り出されているらしい。

その様子を思い浮かべると、胸の奥が不思議と温かくなる。

けれど浮かれている暇はない。もう次の試合が控えているのだ。


スマホを閉じ、紗菜は椅子から立ち上がった。

窓の外の空を見上げる。

(やることはひとつ。一球ごとに、自分の全力を出す)


小さく深呼吸をして、ユニフォームの袖を整えると、再び前だけを見て歩き出した。



-----



学校新聞の記事は、朝から静かに広がっていた。

校舎の昇降口近く、掲示板に貼り出された号外に足を止める生徒たち。体育の授業で一緒だったクラスメイトも、テニス部の仲間たちも、口々に感想を交わしている。


「これ、本当に同じ学校の子だよな」

「体育のときから打つ音が違ったけど……全国で勝っちゃうとか」

「インタビューの『世界を見たい』って、かっこよすぎる」


誰もが少し驚きながらも、誇らしげにその名前を口にしていた。

テニス部のキャプテンは、部室前で後輩たちに語っていた。

「同じ世代が全国で勝ってるって事実がすごいんだ。うちの部にも刺激になる」


部に所属していない紗菜の存在を否定するのではなく、むしろ素直に“刺激”と受け止めているその姿勢が、校内に温かな空気を生んでいた。


記事を書いた新聞部の生徒は、編集後記でこう記していた。

――「インタビューでの彼女の言葉は決して大きな声ではなかったけれど、その静けさに力を感じました」

その一文は、記事を読んだ生徒たちの心に深く残った。



-----



紗菜自身も、もう一度記事を開き直していた。

宿の部屋のベッドに腰を下ろし、画面をじっと見つめる。

(……こんなふうに紹介されるなんて、夢みたい。でも、これは昨日のわたしの試合の結果。大事なのはこれから。)


ふと、スマホが震えた。

――兄からだ。

「風が出そうなら予備のラケットを使え」

たった一言。

「うん、ありがとう。気をつける」

紗菜はすぐに返信し、そっと画面を閉じた。


時間が近づき、支度を整える。

ラケットバッグを背負い、窓の外の空を見上げる。雲が少し動いていて、風向きが気になった。

(……大丈夫。コートに立ったら、全部自分のものにする)


会場へ向かうシャトルバスに揺られながら、記事の見出しがふと脳裏に浮かぶ。

――「世界を見たい」

胸の奥が一瞬熱くなる。

けれどすぐに首を振り、視線をまっすぐ前に戻した。


(世界を見たいって言ったのなら、次の一球で証明するしかない)


シューズの紐を結び直す指先に、いつもより少し強い力がこもる。

記事は過去。これからが本番。

全国大会三回戦、彼女の挑戦はもうすぐ始まる。


ただの朝だったはずが、特別な時間に変わった。記事に込められた言葉や制服に映る姿を、誰かが「誇らしい」と思ってくれているという実感が、紗菜の胸を満たす。

そして彼女自身も、言葉をプレーに変える準備が始まっていた。

成長も責任も、ページ一枚に込められた言葉を背に、紗菜は自分らしく前へ進んでいく。

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