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ラインスナイプ! 世界を驚かせた高校生テニス少女の物語  作者: ヨーヨー
第四章 全国大会編

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第53話 ランキングを超えて

初戦を圧倒的に勝ち切った紗菜は、次の二回戦へと挑む。

相手は全国ランキング上位の常連選手――観客の注目も高まり、会場には緊張と期待が入り混じっていた。

しかし紗菜は数字に惑わされることなく、一球ごとに冷静に応じる。

肩書きを超えて、「勝負は今この場にある」と示す戦いが始まろうとしていた。


二回戦のコートに立った瞬間、初戦とは明らかに空気が違うことに紗菜は気づいた。

観客席のざわめきが大きく、聞こえてくる声も熱を帯びている。

「次はランキング上位の子だ」「全国常連だよ」――相手の名前がアナウンスされると、自然と拍手が湧き上がった。


立っているだけで伝わってくる迫力。

相手は背筋を伸ばし、堂々とコートに入ってきた。肩の動き、視線の鋭さ、そのすべてが「この舞台に慣れている」と物語っていた。


(全国上位……でも、目の前にいるのは一人の選手。肩書きは数字でしかない)

そう心に言い聞かせ、紗菜は白いグリップを握り直す。掌に少し汗が滲んでいたが、それは怖さではなく熱の合図だった。


「ラブオール、プレイ!」

主審の声で試合が始まった。


最初は相手のサーブ。

トスが高く舞い、迷いのない動きでラケットが振り下ろされる。

――バンッ!

矢のようなボールが紗菜のフォア側へ突き刺さった。反応はしたが面に当てられず、ボールはフェンスに跳ね返る。

「15−0!」

観客席から拍手が響く。さすがランキング上位――誰もがそう納得する一球だった。


二本目も鋭いサーブ。今度はセンターへ。紗菜は必死に追いついて返すが、返球は浅く浮いてしまう。

相手はすかさず前に出て、逆クロスへ決め切った。

「30−0!」

「強い……!」と観客席から感嘆の声。


三本目。相手のサーブはやや外角。

紗菜はステップを細かく踏み、早めに構えた。面を斜めに合わせ、スライス気味に返球。低く沈んだボールは相手の足元へ。

体勢を崩した相手の返球は浅く、紗菜が前に出て逆クロスへ叩き込む。


「30−15!」

観客から「返した!」「今のはうまい」と小さなどよめきが起きた。


(やっぱり強い。でも、一つ見えた。外角は少し甘くなる。そこを狙える)


四本目。相手は再びフォアで強打してきた。だが肩の動きがわずかに早い――紗菜は踏み込み、先回りしてクロスへ打ち込む。

相手のラケットがわずかに遅れ、ボールはサイドラインの外へ。

「30−30!」


スコアが並ぶと、観客の空気が一気に変わった。

「おおっ……」「互角に戦ってる!」

それまで“ランキング上位の安定した勝利”を予想していた空気が、ざわめきへと変わっていく。


五本目。相手はセンターへ速いサーブを放つ。

紗菜は反応し、強いリターンを真ん中へ返した。長いラリーが続く。

相手のフォアが繰り返し打ち込まれる。だが、紗菜は体を低く沈め、二歩目で追いつき、打点を崩さずに返す。

そして十本目のラリー。相手のボールが少し短くなった瞬間、紗菜は前に詰め、強く叩き込んだ。

「30−40!」


観客席がどよめいた。

「ブレークポイントだ……!」

「ランキング上位相手に!」


六本目。相手のサーブは外角。

――見えていた。肩が早く開く瞬間。

紗菜はフォアで思い切り踏み込み、クロスへ打ち込む。

鋭いリターンはサイドラインをかすめ、相手のラケットには届かない。


「ゲーム! 三浦!」


一気に観客がざわめいた。

「すごい!」「本当にブレークしたぞ!」

ランキング上位を相手に、最初のサービスゲームを破ったのだ。


紗菜は呼吸を整えながら、ラケットを握り直した。

(数字なんて関係ない。見えるものを信じていけば、勝てる)


その胸には、次の一球を打つための静かな炎が燃えていた。


ブレークポイントを奪った直後、観客席の空気が明らかに変わった。

「いけるんじゃないか?」

「すごい、押してるぞ!」


さっきまでランキング上位の選手に期待していたざわめきが、いつの間にか紗菜の背中を押す声へと変わっていた。


次の自分のサービスゲーム。

紗菜は深呼吸をひとつして、トスを高く上げる。

――パンッ!

鋭いフラットサーブが相手のバックを突く。リターンは浅くなり、紗菜は前へ詰める。俊敏な足運びから角度をつけ、クロスへ叩き込む。

「15−0!」


その後も、相手のリターンを読んで左右に振り、最後は強烈なスマッシュ。

「ゲーム! 三浦!」

スコアは2−0。観客席から一斉に拍手が響いた。


相手も意地を見せる。次のゲーム、強烈なフォアで主導権を握りにかかる。

クロス、ストレート、さらにドロップ。攻め手を変えて紗菜を揺さぶろうとする。

だが、紗菜の二歩目は止まらない。低い姿勢から面を安定させ、どんなボールにも正確に対応する。


「デュース!」

長いラリーが続き、会場の空気が熱を帯びていく。


(強い……でも、わたしも負けてない)

足の動きが自然に加速する。ラリーのリズムを崩さず、相手が焦れて強打に頼った瞬間――。

「アドバンテージ、三浦!」

次の一球、浅くなったボールを逃さずストレートへ打ち抜いた。

「ゲーム! 三浦!」

会場に大きなどよめきが走る。3−0。


「すごい、本当に上位選手を押してる!」

「互角どころじゃない、三浦が上だ!」


声が一層熱を帯びる。だが紗菜は浮かれなかった。

(まだ半分。ここから崩れるのは絶対にいや)


四ゲーム目。相手は開き直ったように攻め続けた。

だが、その強打も紗菜のリズムを崩すことはできない。

左右に揺さぶりながらも、彼女はコートを走り切り、最後は逆を突いてエースを奪う。

「ゲーム! 三浦!」

スコアが広がった瞬間、観客が総立ちになりそうな熱気に包まれた。


そんな勝負を続け、そして迎えた最終局面。

相手は最後まで諦めずに打ち続けた。

だが、ラリーが続けば続くほど紗菜の俊敏さと正確さが光る。

浅く浮いたボールに、一瞬で前に飛び込む。ボールはサイドライン際へ突き刺さった。


――バンッ!


「ゲームセット! 勝者、三浦!」


審判の声と同時に、大きな拍手と歓声が爆発した。

「勝った!」「ランキング上位を倒したぞ!」

会場全体が興奮に包まれ、観客の多くが立ち上がって拍手を送っていた。


ネット際で握手を交わす。

「ありがとうございました」

相手の声は少し震えていたが、目は最後まで強かった。

紗菜はしっかりと頷き、真っ直ぐにその視線を受け止める。

(簡単に勝てる試合なんてない。……だから、この一勝の意味は大きい)


ベンチに戻り、汗を拭いながらスコアボードを見る。

6−0。初戦に続いての圧倒的なスコア。

だが紗菜の表情に満足はなく、ただ次の相手を見据える強さだけが宿っていた。

結果は6−0。ランキングという壁を、紗菜は落ち着いたプレーで打ち破った。

観客の空気は試合が進むにつれて変わり、相手の名声よりも紗菜の実力を称える声で満ちていった。

だが彼女の胸にあるのは浮かれた喜びではなく、「これでやっと一歩先へ進める」という実感。

強敵を越えた先に待つものは、さらに厳しい舞台。

紗菜の視線はすでに、次の試合へと向いていた。


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