第31話 二十万円の重み
初めての大会で優勝を掴んだ紗菜。拍手に包まれ、スポットライトに照らされながら受け取ったトロフィーと賞金二十万円。その重みは、高校生の彼女にとってただの札の束ではなかった。思い出したのは母の優しさと、兄の背中。あの笑顔と努力を胸に抱えながら、紗菜は家族の存在を強く感じていく。
「優勝者、三浦紗菜!」
アナウンスが響いた瞬間、大勢の拍手と歓声が重なった。
耳に届く音が大きすぎて、胸の鼓動までかき消されそうになる。
紗菜はスタッフに促され、ぎこちなく歩みを進めた。
一歩ごとに靴の音が「コツン、コツン」と響き、背中にたくさんの視線を感じる。
恥ずかしいけれど、不思議と足は止まらなかった。
表彰台に上がると、ライトの光が一気にまぶしく照らした。
少し目を細めながら、観客席を見渡す。
どこを見ても人、人、人。その中に兄の姿を見つけて、胸がぎゅっと熱くなる。
「まずはトロフィーの授与です」
差し出された金色のカップを両手で受け取った。
思っていたよりもずっしりと重い。手の中で光を反射してきらきらしていて、思わず「わぁ……」と声が漏れる。
ライトの下で掲げると、会場からさらに大きな拍手が返ってきた。
「続きまして、副賞、賞金二十万円です」
次に渡されたのは真っ白な封筒。
ただの封筒のはずなのに、差し出された瞬間、心臓が大きく跳ねた。
受け取った手が少し震える。
(これが……二十万円……!)
想像していたよりも重く感じる。
見てはいないけれど、中に入っている金額を思うだけで、手のひらが汗ばむようだった。
思わず口に出してしまう。
「に、二十万……」
小さな声がマイクに拾われ、会場に笑いが広がった。
紗菜は耳まで赤くなり、慌てて封筒を胸に抱きしめる。
(すごい……でも、どうしたらいいの……?)
胸の中で言葉にならない気持ちがぐるぐると渦を巻いていた。
封筒を胸に抱きしめたまま、紗菜は深く息を吸った。
中身はまだ見ていないのに、手の中の重みは消えない。紙の封筒なのに、まるで鉛の塊を抱えているようだった。
ふと、母の姿が脳裏に浮かんだ。
夕飯の支度をしているときの横顔。
疲れているのに笑って、気丈に明るく振る舞う姿。
「ごめんね、今日はたいしたもの作れなくて」
そう言って、食卓に煮物やお味噌汁を並べていた日のこと。
母の声は優しいのに、どこか申し訳なさそうで、そのたびに胸が締め付けられた。
次に浮かんだのは、兄の背中だった。
疲れた顔で、スーツの袖を整えて玄関を出ていく姿。
本当なら大学に行っていたはずなのに、それを諦めて働きに出てくれた。
「気にすんなよ」
そう笑ってくれたけれど、言葉の裏に隠された悔しさを、紗菜は気づいていた。
(わたし……ほんの少しでも返せるかな)
胸が熱くなり、涙がこぼれそうになる。
観客の拍手の音が遠ざかったり近づいたりして、世界がふわふわ揺れる。
「おめでとうございます!」
司会者の声にハッと顔を上げる。
慌てて深く頭を下げると、会場からさらに大きな拍手が響いた。
その音が背中を押してくれるように感じて、紗菜はもう一度トロフィーと封筒をぎゅっと抱きしめる。
ふと視線を上げたとき、観客席の端で兄を見つけた。
誰よりも力強く手を叩いている。
声は出していないのに、その拍手だけで「よくやった」と聞こえた気がした。
目が合った瞬間、胸が熱く弾ける。
涙があふれそうになり、紗菜は慌てて顔を下に向けて隠した。
(お兄ちゃん……ありがとう……)
抱きしめたトロフィーと封筒が、鼓動と同じリズムで震えているように感じる。
これは自分だけのものじゃない。
母と兄、そして支えてくれた人たちみんなの思いが詰まったもの。
拍手の渦の中で、紗菜は胸の奥で強く誓った。
(もっと強くなる。絶対に――!)
ライトの下で抱きしめた封筒とトロフィーは、あたたかく輝いて見えた。
歓声に包まれながら抱きしめた封筒とトロフィー。それは紗菜ひとりのものではなく、支えてくれた家族みんなの思いが宿っていた。拍手を送る兄の姿を目にした瞬間、優勝の喜びは「これからもっと強くなろう」という決意に変わっていく。次に待っているのは、家族と分かち合う祝福の時間だった。
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