表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラインスナイプ! 世界を驚かせた高校生テニス少女の物語  作者: ヨーヨー
第二章 体育連盟テニス大会編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/103

第27話 背中を押す眼差し

準決勝は緊迫した展開となった。ラケットのトラブルを乗り越え、兄の存在に支えられて再び立ち上がった紗菜。観客が見守る中、最後の勝負に挑む彼女の背には、言葉をかけずとも伝わる大きな想いがあった。

「ゲーム! 三浦!」 


コールと同時に歓声が弾け、紗菜はベンチへ歩を進めた。タオルで汗を押さえ、深く息を吐く。視線を上げると――フェンス際、観客の波の向こうに、兄が立っている。


先ほどは、わからなかったが、白いワイシャツの袖は肘まで無造作にまくり上げられ、胸ポケットからは社用の入館証が少しのぞいている。革靴のつま先には急いで駆け込んだような擦り跡。

(……仕事の途中で来てくれてたんだね)

喉の奥が熱くなる。声には出さない。ただ、小さく頷くと、お兄ちゃんも同じように一度だけ頷いた。言葉は要らない――それで十分だった。


「タイム。」

審判の声。給水を終えてコートへ戻る。次は相手のサービスゲームだ。会場の熱はまだ高い。ざわめきが波のように寄せては返し、そのうねりが背中を押す。


(落ち着いて。低く、深く。――数える、見て、踏み込む)

紗菜はベースラインで小刻みにステップを刻み、相手のトスを凝視した。


一球目、外角。

トスの肩の開き方でわずかに読めた。踏み込み、面を遅らせて合わせる。

――パシンッ。

「0-15!」

悪くない。深い返球で始められた。


二球目、センター。

相手は配球を散らしにきた。伸びのあるサーブに押され、返球が浅くなる。すかさず叩かれ、

「15-15!」

(焦らない。深呼吸。)


三球目、再び外角へ速い一撃。

紗菜は一歩、そしてもう一歩先を踏む。体の正面で捕まえ、クロスの深いところへ。相手の打点を下げさせ、次でバックへロブ――風に乗ったボールがベースラインに落ち、観客がどよめいた。


(今の高さ、効いた。次も……)

相手の眉がかすかに動く。配球の自信が揺れている。


四球目、ボディ。

胸元をえぐるコースに対し、紗菜は短いテイクバックでスライス気味に逃がす。バウンド後に沈む返球。相手は持ち上げるしかなく、前に詰めた紗菜が早い打点で逆クロスへ――。


拍手が一段と厚くなる。兄の口元が、少しだけ緩んだ。


(デュースまで運ぶ。あと二球。)

五球目、相手はセンターへ強打。読んでいた。

先回りの一歩、ラケット面をしならせて直線的に押し返す。足元に沈むボールに相手が体勢を崩し、ネット。

「ブレークポイント、レシーバー!」


観客が立ち上がる気配。ざわめきが渦を巻き、空気が張り詰める。

(決め急がない。深く、コーナー。――数える、見て、踏み込む。)


相手はトスを上げ直した。手の震えを隠すように、わずかに間を取る。サーブは安全に外角へ。

紗菜は低く沈み、面を乗せてスピンで吊り上げる。ベースライン際に深く跳ねるボール。相手は下がりながらのバックハンド――浮いた。


(今!)

ひと息で前へ。足がコートを蹴り、身体が軽い。ネット際、肩口の高さでとらえた打球を、ライン上へ叩きつける。

――バンッ!


「デュース!」

わずかに外れた。会場から「ああっ」とため息。それでも紗菜の表情は崩れない。

(これで深さが分かった。次からは調整できる…。)


仕切り直し。相手は強気にセンター。

紗菜はスプリットステップの着地で重心を止め、体をひねり戻してカウンターを差し込む。低く早い弾道が足元へ突き、相手のラケットが弾かれた。

「アドバンテージ、レシーバー!」


ベンチ側のフェンスの向こう、兄が拳をぎゅっと握って見せる。

(行くよ――!)


次のサーブ。相手は迷い、トスが少し流れた。読みやすい外角。

紗菜は最短距離で踏み込み、身体の横で面を作る。押し込むのではなく、相手の力を借りて“運ぶ”。

――パシンッ。

返球はサイドラインすれすれに滑り、ベースラインの角に吸い込まれた。相手のスイングは空を切る。


「ゲーム! 三浦!」


歓声が爆ぜる。ブレーク成功。

(取れた――!)

胸が熱くなる。だが浮かれない。ガットのテンションは完璧じゃない。強打だけで押せば、すぐに裏切られる。

(今の組み立てを続ける。深さ、コース、高さ――三つの軸で揺さぶる。)


チェンジコートへ向かう途中、紗菜は兄の前で一瞬だけ立ち止まった。

「……来てくれて、ありがとう」

声に出したのは、それだけ。

兄は入館証を胸ポケットに押し込みながら、小さく笑って言う。

「間に合ってよかった。――集中しろ」


うなずいてベースラインへ戻る。次は自分のサービス。

(ここでキープする。流れを呼び戻す)


ボールを二つ手の中で転がし、一本をポケットに戻す。もう一本を丁寧に持ち替え、高くトス。

光をまとったボールが、澄みきった空へ吸い上がっていく。

紗菜は迷いのないスイングで振り抜いた。


――パァン!


会場が沸く。兄の拳が、また静かに握られた。


(大丈夫。わたしは、ここにいる。)

小柄な体に宿る火は、さらに明るく、さらに静かに燃え続けていた。



紗菜はチェンジエンドを終え、ベースラインに立った。

ブレークに成功し、スコアは自分がリード。あとは自分のサービスゲームを守り切れば――決勝進出。

(ここで絶対に取る!)


ボールを高くトスし、思い切り振り抜く。

――パァン!

伸びのあるサーブが外角を突き、相手のリターンは浅く弾む。すかさず前に出て、クロスに叩き込んだ。


観客から「よしっ!」と声が飛ぶ。


次のポイントは粘りのラリーになった。相手も簡単には崩れない。深いストロークを繰り返し、紗菜を走らせる。

だが、小柄な体は止まらなかった。左右に、前後に走り、最後はロブで相手を下げさせ、甘くなったボールを強打。


「30-0!」

歓声が一段と大きくなる。


フェンスの向こう。ワイシャツの袖をまくったままの兄が、腕を組みながらじっと見つめていた。

声は出さない。ただ、その眼差しが「落ち着け」と伝えていた。

(……大丈夫。お兄ちゃんがいるから)


三本目のサーブはセンターへ鋭く。相手はどうにか返すが浅い。紗菜は躊躇せず前に出て、角度をつけて叩き込む。

「40-0! マッチポイント!」


会場の熱が最高潮に達した。

「決めろ!」「あと一本だ!」


紗菜は汗を拭い、深呼吸する。

ボールを高くトス。迷いのないスイング。

――パァン!

外角に伸びたボールを相手は追うが、間に合わない。ライン上にボールが突き刺さった。


「ゲーム、セット、マッチ、三浦!」


審判の声に、観客席が総立ちになった。拍手と歓声が爆発し、会場全体が揺れるほどの熱気に包まれる。


紗菜はラケットを胸に抱き、荒い息の中で空を見上げた。

(勝った……決勝に行ける!)


ネット越しに相手と握手を交わす。敗れた相手は悔しさをにじませながらも、しっかりと紗菜の目を見て頷いた。


ベンチに戻る途中、フェンス際の兄と視線が合った。

彼は小さく笑って言った。

「よくやったな」


紗菜はタオルで顔を覆い、涙を隠した。

(お兄ちゃんが来てくれたから、最後まで走り切れた……)


観客の声はすでに「決勝だ、決勝だ」とざわめき始めていた。

紗菜はラケットのガットにそっと触れ、深く息を吐く。

(次は……決勝。絶対に勝つ!)


小柄な背中に、大きな決意が宿っていた。

ガットの破損という逆境を、兄の助けと自らの執念で乗り越えた紗菜。決して派手ではなくとも、兄の眼差しは紗菜にとって何よりの力となった。観客を沸かせた準決勝の勝利は、ただの一試合にとどまらず、彼女と兄との絆を改めて強く示すものでもあった。そして次はいよいよ、国内最強クラスの選手が待つ決勝戦。小さな背中に託された期待は、さらに大きく膨らんでいく。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

楽しめていただけましたか?

面白ければ下の評価☆5個お願いします!!

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

ラインスナイプのまとめサイトはこちら!

https://lit.link/yoyo_hpcom

★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ