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ラインスナイプ! 世界を驚かせた高校生テニス少女の物語  作者: ヨーヨー
第二章 体育連盟テニス大会編

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第25話 壊れた弦と強き絆

準々決勝を突破し、熱狂の渦に包まれたまま迎えた準決勝。会場はすでに紗菜の一挙手一投足に注目していた。だが、試合が盛り上がる中で起きたのは、思いもよらぬトラブル――。観客がざわつく中、紗菜はなおも戦い続けることを選んだ。

準決勝の舞台。 

紗菜がコートに足を踏み入れると、観客席からどっと歓声が上がった。

昨日まで誰も知らなかったはずの高校生は、いまや会場の目玉となっていた。


「ほら、あの子だ」「エースメーカーを倒した子!」

「次はどう戦うんだろう……」


期待を込めた声が耳に届き、紗菜の胸に熱が灯る。

(ここまで来たんだ……もっと強く、もっと高く……!)


相手は堅実なプレーを得意とする選手だった。派手な決め球は少ないが、とにかくミスをしない。緩急をつけてじわじわと揺さぶり、相手の焦りを誘うスタイルだ。

だが、紗菜は序盤から一歩も引かなかった。


小柄な体を弾ませてステップを刻み、ボールが飛んでくるたびに俊敏に追いつく。クロス、ストレート、ドロップと次々に打ち分け、粘り強いラリーを続けた。

「走り負けてないぞ!」「小さいのにすごい!」

観客から感嘆の声が漏れ、会場の熱はどんどん高まっていく。


長いラリーの末、紗菜が思い切り振り抜いたクロスショットがライン際に突き刺さった。

「ゲーム! 三浦!」

審判のコールに会場が沸き上がる。


ベンチで水を飲みながら、紗菜は小さく息を吐いた。

(よし……悪くない。落ち着いて、このまま行こう!)


再びコートに戻り、次のゲーム。相手は強いストロークで攻めてきたが、紗菜は軽快なフットワークで拾い続け、最後はネット際に落とす巧みなショットでポイントを奪った。


「ナイス!」「あの子、本当にすごい!」

観客の声援は、すでにひとりの少女に集まっていた。


互角以上に渡り合うラリーが続き、試合は白熱。汗が頬を伝い、息は荒い。けれど紗菜の瞳は、まだまだ輝きを失わない。

(絶対に勝つ……!)


そして――事件は起こった。

相手の深いボールを拾い上げ、力いっぱいクロスへ振り抜いた瞬間。


――ビシッ!


乾いた音がコートに響いた。

紗菜は一瞬、何が起きたのか理解できなかった。だがすぐに手に伝わる違和感で悟る。

「……っ!」

ラケットを見下ろすと、ガットが真ん中から斜めに裂けていた。


「ガットが切れた!」

「こんな場面で……!」


観客のざわめきが一気に広がる。

紗菜は強く唇を噛みしめた。

(嘘……でも、試合は止まらない。どうすれば……!)


握る手に力が入る。

揺らぐ心を押さえ込みながらも、彼女の目の奥には、まだ諦めの色はなかった。



ガットが切れたラケットを手に、紗菜はそれでもコートに立ち続けていた。

(使えないのは分かってる……でも、諦めたくない!)


相手のストロークに必死で食らいつく。しかし切れたガットは頼りなく、ボールは弾まずに浅く浮いてしまう。


――バシッ。

相手に叩き込まれ、コートに突き刺さる。


「30-0!」

審判の冷静な声が響いた。


「やっぱり無理だ……」

「さっきまであんなに良かったのに……」

観客の間に、重苦しい空気が広がる。


紗菜は唇を噛みしめ、次のボールを待つ。

(このラケットで……まだ戦えるはず!)


だが次のラリーでも、ガットが弛んだラケットでは思うように返せず、打球はラインを越えてしまう。


「アウト!」

審判の声が響く。すぐにスコアが告げられた。

「40-0!」


「また取られた……」

観客席からため息がもれる。


相手選手は冷静に紗菜を見やった。

(やはり子どもだな。道具一つで、もう崩れる……)

余裕の笑みを浮かべ、強烈なショットを叩き込んでくる。


それでも紗菜は走った。小さな体を限界まで動かし、切れたガットで必死に拾う。だが弾きが効かず、ボールは弱々しく浮き、相手に決められる。


審判のコールと同時に、スコアボードの数字が動く。


紗菜の胸に、重い悔しさがのしかかった。

(わかってる……これじゃ勝てない。でも、ラケットは……予備もない……! このラケットは手放せない!)


会場の空気は諦めに傾きつつあった――そのとき。


「紗菜!」


鋭い声が観客席を突き抜けた。

紗菜ははっと顔を上げる。フェンス越しに兄の姿があった。


彼はすぐにラケットの異変を見抜き、スタッフに声をかけながらコートサイドへ駆け寄ってきた。


「貸してみろ!」


紗菜はラケットを差し出す。兄の手は素早く、そして迷いがなかった。

ポケットから取り出した補修用の道具を器用に扱い、切れたガットを繋ぎ直していく。観客席は静まり返り、その手元に視線が集中した。


「……完璧じゃない。でも、これなら試合で十分戦えるはずだ」


数分後、修理を終えたラケットが紗菜の手に戻った。

握り直した瞬間、さっきまでの頼りなさは消え、確かな弾きが戻っているのを感じる。


「ありがとう、お兄ちゃん……」


兄は短く頷いた。

「行け。お前なら、まだ勝てる」


拍手が広がる会場。

紗菜は再びコートに立った。


(ここからだ……! 絶対に負けない!)


小さな背中に再び炎が宿り、準決勝の戦いは続いていった。


切れたガットのままでは圧倒的に不利。それでも諦めずに立ち向かった紗菜の姿は、会場の誰よりも強く輝いていた。そして駆けつけた兄が、器用な手でラケットを修理する。その瞬間、会場の空気は再び熱を帯びた。道具が壊れても、心は折れない。強き絆に支えられた紗菜は、再び立ち上がる――。



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