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ラインスナイプ! 世界を驚かせた高校生テニス少女の物語  作者: ヨーヨー
第二章 体育連盟テニス大会編

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第21話 立ちはだかる大きな壁

三回戦。コートに立った紗菜の前に現れたのは、自分よりも頭ひとつ分大きな体格を誇る選手。長い手足から繰り出される重いボールは、まるで壁のように立ちはだかる。けれど紗菜の胸に宿ったのは恐れではなく、「どう崩すか」という挑戦心だった。


三回戦のコートに呼ばれた瞬間、三浦紗菜は相手を見て思わず立ち止まった。

コートの反対側に立つのは、自分より頭二つ半は背が高い女子選手。手足も長く、腕を軽く振るだけでラケットの先端が大きく揺れる。全身から漂う雰囲気は「壁」という言葉がぴたりと当てはまった。


「……すごい」

思わず小声でつぶやく。体格差は歴然。紗菜の華奢な体に比べて、相手はまるで違う競技の選手のような迫力を持っていた。


観客席でもさっそく声が飛ぶ。

「大きいなあ、あの子。リーチが全然違う」

「これじゃさすがに厳しいんじゃないか?」

「でも……二回戦、見ただろ? あの小柄な子、圧勝だった」


ざわめきが熱を帯びる中、紗菜はラケットを強く握り直した。

体格差がある。それは事実だ。相手の一歩は自分の二歩に匹敵するし、腕を伸ばされたら角度も塞がれる。だが――負けるイメージは不思議と浮かばなかった。


むしろ胸に芽生えたのは、震えるような興奮。

(この差をどうやって崩すか……やってみたい!)


主審の声が響き、試合が始まる。

相手の一球目はサーブ。高い打点から振り下ろされたボールは、まるでハンマーのように重くコートに突き刺さった。受けた瞬間、ラケットが震え、腕にビリッとした衝撃が走る。


「……っ、重い!」


紗菜は歯を食いしばりながらも、足を止めない。踏み込んだ一歩目で体を沈め、勢いを利用してクロスへ鋭く返した。ボールはネットすれすれを滑り、ラインぎりぎりへ突き刺さる。


「ナイスリターン!」

観客席から驚きと歓声が混じった声が上がる。相手は大股で追いつこうとしたが、長い足も一瞬遅れて届かない。


次のラリーも、力強いストロークを浴びせかけられる。しかし紗菜は軽やかに左右へ動き、鋭く打ち返す。観客はさらにざわついた。

「押し負けてない!」

「むしろ振り回してるぞ」


体格差の大きな壁。それにぶつかっているはずなのに、紗菜の中には怖れよりも挑戦の炎が燃え広がっていた。

(大きい相手だからこそ、スピードで崩せる。私のテニスで絶対に勝てる!)


握ったラケットに自然と力がこもり、瞳はまっすぐ相手を射抜いていた。



試合が始まって数ゲーム。

相手の武器は明確だった。高い打点から繰り出される重いサーブ、長い腕を使った角度のあるストローク。そしてなにより、存在そのものが圧迫感となって紗菜を追い詰めてくる。


返すたびにラケットに伝わる衝撃は、一回戦や二回戦の比ではなかった。

「っ……重い!」

腕が痺れるような感覚に、思わず歯を食いしばる。それでも、紗菜の瞳は少しも揺らがなかった。


(確かに強い。でも――届くのは遅い)


観察を続けるうちに気づいた。大きなリーチは脅威だが、逆に一歩目の切り替えが遅れる。体が大きい分、方向転換に時間がかかる。そこにこそ、自分の勝機がある。


次のラリー。

紗菜は思い切って逆クロスへ叩き込み、相手を追い出す。返ってきたボールを素早く読み、今度は逆サイドのストレートへ。大きな体が左右に揺さぶられ、相手の足音がコートに大きく響いた。


「すごい……!」

観客からどよめきが漏れる。

「大きい相手を完全に走らせてる!」


さらに紗菜は緩急も混ぜた。ドロップで前に引き寄せておいて、すぐさまロブで後ろへ押し返す。相手は長い脚を必死に伸ばすが、次第に動きが鈍くなり、呼吸が荒くなっていく。


――そして、勝負を決める瞬間が訪れた。


マッチポイント。相手は全力を込めてセンターへ深いボールを放つ。だが、紗菜はすでに待っていた。細かくステップを刻み、完璧なタイミングで踏み込む。


「はっ!」


鋭い掛け声とともに振り抜いたラケットから放たれたショットは、一直線にコートの隅を突いた。観客が息をのむ。相手が必死にラケットを伸ばすが――わずかに届かない。


ボールが土煙を上げ、ラインの上で弾んだ。


「ゲームセット! 勝者、三浦紗菜!」


主審の声が響いた瞬間、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。

「やった!」「小柄なのにすごい!」「振り回し方が見事だ!」


相手は肩で息をしながらネット際へ歩み寄り、手を差し出す。

「……参ったよ。走らされてばかりだった」

悔しさをにじませつつも、その声には確かな敬意があった。


紗菜は汗に濡れた頬を笑顔で輝かせながら、相手の手をしっかりと握った。

「ありがとうございました!」


爽やかな声が響いた瞬間、さらに拍手が重なった。

観客の視線はもう完全に、三浦紗菜へと注がれている。彼女の姿は「ただ勝ち進んだ一人の高校生」ではなく、「これからを期待される選手」として刻まれ始めていた。


ベンチに戻る途中、心臓の鼓動がまた強く打ち始める。疲れではない。

──まだ勝てる。もっと強くなれる。

その確信が、胸の奥で熱く脈打っていた。

大きな相手に押しつぶされるのではなく、その力を見極め、俊敏さと頭脳で攻略した紗菜。会場を揺らす歓声と拍手は、彼女がただの挑戦者ではないことを物語っていた。次なる試合は四回戦。今度は技術を武器にする相手が待ち受ける。紗菜の歩みは止まらない。


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