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7話

「………」

「………」


ペラ、ペラと紙をめくる音だけが響いている。

場所は王宮の図書館。

今日もリンカとエリザは図書館で読書をたしなんでいた。

周囲には人の気配はない。相変わらず王宮の図書館は人気が無く、司書もどこにいるのか分からない。


離れではなく、王宮の中での二人っきり。

そんな特殊な状況に、内心こっそりほくそ笑む不届き物が一人。


(ふふふ…今日も美しいリンカ様。しかも今日は、この時のために買った白のワンピースを着ていただいたもの。見て!窓から注ぐ太陽に照らされ、リンカ様の美しい銀髪とワンピースが輝いてる!ああ、今すぐに宮廷絵師を連れてきてこの場面を描かせたい!でも、こんな美しいリンカ様を知っているのは私だけでにしておきたい!ああ、私はどうすればいいのかしら?!)


表情は涼やかに、内心はやかましい侍女は今日も器用だった。

一方、リンカは今読んでいる本に気になる記述があり、エリザの様子はさっぱり気にしていない。


「………ん」


リンカのページをめくる手が止まる。

エリザは目ざとく気付くが、かといって声を掛けることはしない。

何故なら、手を止めたリンカの顔は普段見られない眉間にしわを寄せた表情をしているからだ。


(ああ、そんな表情されて…。何か気になるところがあったんですね?考え込むその表情、素敵です!)


珍しい表情のリンカを前に、エリザはいつも通りだ。

普段であれば自己納得して次に進むが、どうやら今日のは難しいらしい。

ずっと考え込んでいる。

こそこそリンカの様子をうかがっているエリザは、その珍しい様子に驚く。


(リンカ様ってば、どうされたのかしら?)


普段と違う様子に、ついエリザのリンカを盗み見る頻度が増える。

と、リンカの目がエリザの方を向き、2人の目がバッチリ合ってしまった。


「………」

「………」


見つめ合う2人。

エリザはともかく、リンカのほうは目が合うと思わなかったのか驚いている。


(あ、しまった。……ああ、リンカ様、綺麗な瞳。リンカ様を離れに追いやった他の王族どもはきっと濁った眼をしてるんでしょうけど、リンカ様は澄んだエメラルドのようで綺麗)


会ったことも無い相手に対し極めて不敬なことを内心考えているエリザだが、この場でそれに突っ込める者はいない。

それはさておき。


「…王女様、いかがされました?」


小声でこっそりエリザはリンカに声を掛けた。

先に声を掛けることで、盗み見していたことを無かったことにする気である。


「えっと……この部分なんだけど」


そういってリンカは本のある記述を指さした。

どうやらエリザが自分の方を向いていたことに突っ込む気は無いようである。

リンカの読んでいる本はある航海日誌のようだ。


「これ…航海中に内出血のような症状が見られるようになって、原因不明らしいの。でも、それより前の航海ではそんなことは無かったって。どういうことなのかしらね?」

「ん~……あっ」


リンカの説明に、エリザはしばし考え込んだ後、とある本の内容を思い出した。


「ちょっとまってくださいね」


エリザは立ち上がり、目的の本を探し始めた。


(確かこの辺にあったはず……あ、ありましたね)


目的の本を探し出したエリザは席に戻っていく。


「王女様、こちらなんですが…」


エリザがページを開き、ある記述を指さす。

そこにリンカは身を乗り出して読み始める。


(ああリンカ様、こんなに近くに!ダメです、リンカ様からいい香りが!ダメ、鼻が幸せ…あぁ、頭がダメになりそうです!)


真剣な表情のリンカを横に、相も変わらず平常運行な侍女である。


「ええとですね、これは南部にある国での施術記録なんです。どうも、ある作物が不作の時期に、似たような症状が起きているんです」


読むと、確かに内出血と思われる症状が村人たちに発生。そこで、不作となった作物を別の地域から搬入したところ、改善の兆しが見られたという。


「確かに似ているわね。確かに航海中は食べられるものが限られるから、同じなのかもしれないわ」


「そうですね。他にも思い出したんですけど、最近は航海技術が上がって長期の航海が可能になったみたいです。昔はあまり岸から離れないようにしていたようで、長距離航海ができず、今ほど海上でのやりとりは盛んではなかったとか」


「なるほど。つまり、長く航海できるようになったことで、同じ食べ物ばかり食べることになって発症した可能性があるってことよね」


「はい。とはいえ、実際の症状を医師が診ないと、そもそもこの2つが同じ症状かもわかりませんが」


「いいえ。なんとなく納得できたからいいわ。ありがとうエリザ」


「いいえ、この程度。お安い御用です」


エリザはリンカの役に立てたことにご満悦だ。

一方、リンカは納得したことでようやく今の状況を理解した。

身を乗り出してエリザとの距離は近く、知らず手は本を開いているエリザの手に重ねられていた。


「ご、ごめんなさい!」


顔を赤くし、すぐに身を引くリンカ。

それを名残惜しそうにしつつ、表情には出さないエリザ。


「いいえ。お気になさらず」


(ああんもう、もっとそのままでもよかったのに。リンカ様の香りも、ぬくもりも離れちゃった)


ものすごく残念にしていた。


「………」

「………」


(わ、私ったら夢中になってあんなに近くに…。エリザ、ちょっと甘い香りが…って私ったら何を思い出してるのよ!)


お互い様だった。


2人はまたそれぞれの読書に戻っていった。

でも、リンカの手はもうページをめくることはなく、赤い頬は夕日に照らされるまでそのままであった。

エリザはそんなリンカの様子に、やっぱりご満悦だった。




そんな2人の様子を、本棚の陰から見る者がいた。


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