5話
リンカの住む離れの構造はシンプルだ。
全部で4階建ての塔になっている。
1階は入浴施設や応接間、簡単なキッチンと居間がある。
2階はリンカの自室という扱い。椅子にテーブル、簡素な調度品とベッドが置かれている。
3階は衣裳部屋と物置。ただリンカの服は少ないし、物置に置くほどの物も無いのでほとんど空きスペースとなっている。
4階は屋上となっており、出ることができる。ただ遮るものが無いので、日焼けするという理由からリンカがそこを使うことは滅多にない。
ただし、侍女にとっては布団などを干すのに都合がいいので、良く利用されている。
今日も、リンカの布団が太陽光を浴びて干されている。
そして1階の水場では、リンカの服をエリザが洗っている。
王宮には洗濯を専門とする洗濯女中がいるのだが、リンカの服は対象外となっている。なので、リンカの侍女が洗濯業務も行っていた。
侍女は誰もやりたがらないが、やはり例外としてエリザだけは喜んで洗濯している。
最近は、洗濯はほぼエリザに押し付け・・・請け負っていた。
(ふんふーん♪)
上機嫌に洗濯物を洗うエリザ。しかし、ある1枚の布切れを見てふとあることを思い出していた。
「そういえば…」
エリザは洗濯を手早く終わらせると、離れの中に戻っていった。
「リンカ様!さぁ測りますよ!」
今日は2階の自室で本を読んでいたリンカ。
入るなりそう言い放ったエリザに目を丸くしている。
「測る……って何をよ?」
不思議そうに言うリンカに、エリザは手元にメジャーを取り出した。
「リンカ様、下着がきついでしょう?」
そう言い放ったエリザに、リンカは目をそらした。
心当たりがあるだけに、とっさに否定もできない。
「……そんなことは」
「ありますね?」
ニコーっと笑顔で迫るエリザにリンカは本で顔を隠した。
「…あ、あなたが毎日お菓子をもってくるから」
最近、下着がちょっと…本当にちょっとだけキツイと感じるようになっていた。
だけど、それを認めるにはいかないくらい、リンカも女の子だった。
「別にリンカ様は太ったわけじゃないですよ?」
「そ、そうなの…?」
エリザの言葉にリンカは本から顔をそっとのぞかせた。
「まぁ正常な発育の範囲ですよ。というか、ろくに動かないくせにお腹とか腕とかそういうところに付かないんですから、便利な体ですよ」
「人の体のコト、便利とか言わないでちょうだい」
「とにかく。今の下着のサイズですと、締め付けすぎて血行が悪くなりますから、ちゃんと適切なサイズで買い直しますよ。だから今のサイズを測り直します」
こうしてリンカの採寸が始まった。
下着姿になったリンカのサイズを、エリザは手早く測定し、記録していく。
さすがに目的が目的にだけに、エリザはよこしまな…雑念を持ち込まずに作業を進めていった。
「はい、終わりましたよ」
「そう、ありがとう」
記録を取り終えたエリザは、紙をテーブルに置き、メジャーをポケットにしまった。
リンカの服は全て既製品だ。
王族、いやそれなりの貴族でも、服や下着は直接服屋を呼びつけて採寸させ、オーダーメイドで作られるのが普通だ。
しかし、リンカはそれがない。
だから侍女がサイズを測り、そのサイズの服を買いに行くことになる。こういった業務内容があることも、リンカの侍女の役目が敬遠される要因でもある。
「ほらリンカ様。こことかだいぶ肉が盛り上がってますよ」
「ひん!?」
スッと背後に回ったエリザの指が、ブラの紐の上に乗った肉を撫でる。
皮膚を滑らせるその感触がくすぐったく、リンカの口からは変な声が上がった。
「こっちも」
「んん!!」
今度はパンツの上に乗った肉をなでる。
やっぱりくすぐったくて、またも変な声が漏れた。
「ここだって。こんなに盛り上がっちゃって」
「ひあん?!」
次はブラの上に乗ったおっぱいをつつく。
すでに18歳のリンカだが、どうやら体の成長著しいようで、女性的な部分が盛り上がりを見せていた。
そのせいで、ブラからはみ出している。
「も、もうやめなさい!」
エリザのつつくに堪え切れなくなったリンカは腕で体を抱え、しゃがみ込んでしまった。
しかし、その姿にエリザの嗜虐心がますます膨らんでいるのに、リンカは気付かなかった。
(ああ、リンカ様ってばこんなに可愛らしくて…♡)
「もう着るわよ!」
そう言ってリンカは掛けてあったワンピースに手を伸ばした。が、エリザが一歩早くワンピースを奪ってしまう。
「まだです、リンカ様。まだ測定は終わっていませんよ」
「さっき終わったって言ったじゃない…!」
「ええ、メジャーで計るのは終わったんです。これからは…」
そういってエリザはワンピースを元に戻し、リンカの素肌にスッと指を滑らせた。
「ひゃっ!だ、だからそれは…」
「リンカ様の肌と下着の相性です」
「あい…えっ?」
エリザの唐突な発言に、リンカは固まった。
「知りませんか?実は下着の素材によっては、肌がかぶれてしまうことがあるんですよ」
「そ、そうなの?」
「はい。普通はかぶれればかゆみがあるんですが、稀にかぶれているのにかゆみを感じないこともあるようで…。そうなると、気づいた時には」
そういって顔をそらすエリザ。そのしぐさにリンカはごくっと喉を鳴らした。
「なので、今日はそれを確認しましょう」
「…わ、分かったわ。お願いね」
(リンカ様ってば、こんなことを簡単に信じてしまうなんて!あぁやっぱり私がしっかり守ってあげないといけませんね♪)
もちろんエリザの真っ赤な嘘である。かぶれてかゆみが無いということはない。
「それでは失礼しますね」
そういうとエリザはわざわざリンカの正面に回り、手を背中へと回した。
「…なんで正面から?」
リンカの疑問は尤もである。
「こうしたほうが触れやすいんですよ」
「そういうもの…かしら?」
「そういうものですよ。では確認しますね」
(またこんなにも簡単に騙されて!ここからなら、触れて悶えるリンカ様の表情がはっきり見えるからっていうだけなんですけどね♪)
エリザの背はリンカより低い。そのため、正面で向き合うとエリザの顔はちょうどリンカの胸のあたりになり、見上げる形になる。
エリザはもやはただの変態と化していた。
エリザの指がブラ紐の下を通る。
「んっ……」
くすぐったさにリンカの目が閉じられる。口元は引き締められ、わずかに頬が紅潮していた。
その様子にエリザは満足げに目を細めた。
「ど、どうなの?」
「ん~…ちょっと待ってくださいね」
探るように指を滑られていく。
時折指がブラ紐から外れ、戻っていく。そのたびにリンカの体が震える。
その様子を楽しみつつ、エリザのもう片方の手はリンカのパンツの裾へと潜り込んでいく。
「ちょっと、そ、そっちもなの!?」
「だって、見た感じブラとパンツの素材、違いますよ。だから別々に確認しませんと」
「そ、そうだったの…」
大嘘である。
エリザの見立てでは、全部安物の綿素材だ。
エリザとしては、リンカにはもっといい素材の下着を身に着けてほしいと思っている。
だが、それはそれ。これはこれなのだ。
「んっ……ふっ……」
指が滑るたびに、リンカの口から息が漏れる。
(ああ、リンカ様、なんて煽情的な……。もうこれは私が一生リンカ様をお守りしなければ。こんな可愛らしいリンカ様を、獣の殿方の元へとなんて私が絶対に許しません!)
自分が獣であることの自覚がないものほど、タチが悪いものはない。
エリザの指がどんどん大胆になっていく。
ついにはパンツの裾のあたりだけをなぞっていた指がどんどんその奥に潜り込んでいく。
(なんて滑らかな肌なんでしょう…はぁ♡)
「ま、まだなの……って」
「えっ?」
「なんて顔してるのよエリザ!」
目を閉じていたリンカは、あまりにエリザが触れるものだから、目を開けて聞こうとした。
その時にリンカが目にしたエリザの表情は、恍惚としたものだった。
(やばっ!夢中になりすぎて取り繕うの忘れちゃった…)
気付いた時にはリンカが両手を付きだす形でエリザを突き離そうとした。
が、エリザはとっさにそれをバックステップでかわしてしまった。
「えっ、きゃあ!」
「危ない!」
手が空を切り、バランスを崩したリンカは倒れそうになる。
すぐさまエリザは手を伸ばし、リンカを支えた。
「申し訳ありません。その……」
どう誤魔化そうと考えるエリザ。
「エリザ」
「はい」
体勢を立て直したリンカは、両手でエリザの頬を包み込んだ。
「目をつむりなさい」
「はい」
言われた通り目をつむるエリザ。
(う~ん、今日は仕方ないわよね。平手打ちの一発くらいは…)
そう思い身構えるエリザ。しかし、いつまで経っても一発が来ず、そのまま待つ。
すると、顔に何かが近づいてきたのが分かった。
そして、頬に何かが触れる。
(えっ、今のってもしかしなくても…)
エリザは気配に敏い。だから、今何が触れたのは分かった。ただ、今の流れでなぜされたのかは分からなかった。
「目を…開けていいわよ」
「はい」
目を開けると、少し離れたリンカの姿。腕組みをしているが、その顔は真っ赤に染まっていた。
「ほら、はやく服を着せなさい」
そう言ってワンピースを指さす。
どうやらもう終わりのようだ。
「わかりました」
エリザはなんとも不思議な気持ちを抱えつつ、リンカにワンピースを着せていく。
(多分、ほっぺにキスされましたよね。でもあの流れで?それとも、リンカ様的にはあれがお仕置きのつもりなの?う~ん……ご褒美でしかないんだけど)
リンカの行動に納得がいかないが、それでも仕事はこなす。
それを見ながら、リンカもまた自分の行動に驚いていた。
(…本当は一発叩いてやろうかなって思ったのに。目をつぶったエリザの顔を見たら、そんな気どこかいっちゃったわ。それどころか……こんなときでもなきゃ、私からなんてできないもの)
疑問符を頭に浮かべたままの侍女と、顔を赤らめたまましかめっ面の王女。
摩訶不思議な光景だった。