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4話

「リンカ様、厨房よりお菓子をいただきましたよ」

「そう。じゃあお茶にしましょう」


離れの自室で休んでいたリンカのもとに、エリザがお菓子をもって現れた。

日に日にリンカの世話をする時間は、エリザの担当が伸びていった。

喜んでリンカの世話をするエリザに、他の侍女が押し付けている。

が、当の本人が喜んでいるし、他の侍女は王宮内での婚活に励めるからとウィンウィンだ。


そして今日もほぼ丸一日リンカの世話をしているエリザは、厨房に立ち寄りお菓子を強奪・・・頂いて来たのをリンカの元へと持ってきた。

王族としての立場が無いリンカには食事こそ与えられるが、それ以外はほぼ最低限だ。

それはお菓子であっても例外ではない。

だからエリザは厨房のシェフを脅迫・・・説得して、他の王族へと出されるお菓子の一部をいただいてきている。


それまでお菓子を出されたことが無いリンカを不憫に思ったエリザは、厨房に襲撃をかけ、お菓子を強奪。

最初エリザがお菓子をもってきたとき、それはもうリンカは驚き、戻してくるよう言い放つほどだった。


しかしそれで引くエリザではない。


「わかりました」


そう言うと、手にしたお菓子をためらいなく離れの外…つまり、地面に投げ捨てた。

いかに職人が手を掛けて作ったお菓子とはいえ、一度地面に落ちてしまっては誰も手を出そうとは思わない。

王宮の豪勢なお菓子は、一瞬で虫の餌になってしまった。


その様子に唖然としてしまったリンカ。

エリザは穏やかな笑みを浮かべながら、リンカへと向き直った。


「また明日、持ってきますね」


これ以降、リンカはエリザは持ってきたお菓子を食べるようになった。

また捨てられてはたまらないし、お菓子を食べたくないわけではないから。

むしろ食べたい。けれど、これまでのことから、自分にはそんな資格はないと思い込んでいた。


実際、リンカにお菓子を提供していることが王妃にバレればシェフは何らかの罰を受けるかもしれない。

だが、エリザにはそんなことはどうでもよかった。

リンカがお菓子を食べて喜んでくれれば、それ以外は全て些事なのだ。


「今日はチョコチップクッキーにチーズケーキですよ」

「美味しそうね」

「ええ、それはもう美味しかったですよ」


ニッコリ笑ってそう返すエリザに、リンカは苦笑した。

エリザのしたことはつまみ食いではない。れっきとした毒見だ。


いくら王族のために用意されたものといえ、リスクが無いわけではない。

特にリンカは王妃が毛嫌いしているため、何を仕掛けてくるか分からない。

そこで、エリザはいただくお菓子をランダムに選び、自分が毒見をしたうえでリンカに食べさせている。


テーブルにお菓子が綺麗に並べられ、エリザが淹れる紅茶の音が響く。


「どうぞ、お召し上がりください」

「ええ」


リンカの細い指がクッキーを取り、口へと運ぶ。

サクッと軽い音が響く。さすが王宮のシェフ。

バターをふんだんに使い、サクサクと軽い食感を生み出している。

バターと小麦粉の香り、ほんのりとした甘さが1枚、また1枚と手を伸びさせる。

3枚食べ切ったところで、喉を潤すため今度はカップを手に取った。

コクコクと紅茶を口に含み、口の中のクッキーを押し流していく。


「……はぁ」


美味しいクッキーに美味しい紅茶。

この組み合わせはリンカが好きな組み合わせだ。

自然とリンカの顔に笑顔が浮かぶ。

それを眺めるエリザの顔も笑顔であふれていた。


(あぁ、お菓子を食べて喜ぶリンカ様が今日もかわいくてたまらない!もう次に手を伸ばしちゃって…かわいいんだから♡)


今日も内心悶えまくっていた。


「…あら、リンカ様」

「なに、エリザ?」


エリザは手を伸ばすと、リンカの口元をそっと撫でる。

エリザの指先にはクッキーの欠片が付いていた。


「あーん」

「っ!」


エリザはそのクッキーの欠片を、これ見よがしに自分の口へと運んだ。

もちろん、リンカの反応を楽しむためである。


「つ、付いてるなら教えてくれてもいいじゃない…」


エリザの思惑通り、リンカは顔を赤くして抗議した。

その様子を、エリザは涼しい笑顔で流す。


(教えるだなんてそんなつまらないことするわけないでしょ!ああもう恥ずかしがるリンカ様可愛すぎ♡)

(くぅ…エリザったら、分かっててやってるわね。そっちがその気なら…!)


やられっぱなしではいられない。

リンカはクッキーを1枚手に取ると、そのままエリザに差し出した。


「リンカ様、私の分はお気になさらず食べていただいて…」

「…あ、あーん」


途端、エリザは固まった。

いつも弄ばれてばかりのリンカは、仕返しができたとほくそ笑む。


(ふふふ、私がいつもされてばっかりだと思わないことね。エリザだって、これだけで固まっちゃうんだから、かわいい)


策が思い通りにいって満足……と思えたのは束の間。

次の瞬間、リンカの差し出したクッキーは、指ごとエリザの口の中にあった。


「っ!?」


リンカの指にぬるりと温かな感触が触れる。

エリザの口が離れたとき、リンカの指につままれていたクッキーは無く、代わりに膨らんだエリザの口からサクサクという音が聞こえてきた。


(いいいいい、今指が舐められっ、て…!クッキー無くな…いやそんなことはどうでもよくって!)


リンカの指先が濡れて光っている。

それからギギギとゆっくりとエリザのほうを見ると、わざと見せびらかすように舌を口の端からはみ出させていた。そのまま自身の唇を舐めると、口の中に仕舞う。


「ごちそうさまでした、リンカさ・ま♪」

「~~~~っ!」


完全にやり返されてしまった。

リンカの顔が、羞恥と悔しさに染まる。

けれど、それ以上にエリザの塗れた唇に目が惹かれていた。


(エリザの唇が、濡れて……なんだか、いやらしい…はっ!わ、私何を考えて!?)


見惚れていた目を誤魔化すようにリンカは頭を振った。

そんなリンカの一連の動きを見逃すエリザではない。


(ふふっ、やっぱりリンカ様ってば気になっちゃうみたいね。そんなに赤くなっちゃって、かわいいんだから♪)


今日も主をからかい…愛でてご満悦のエリザだった。


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