12話
「……よし」
鏡の前で自分の姿を確認したエリザは、身だしなみのチェックを終える。
纏っているのは侍女服ではなく、白いブラウスに紺のスカート。さらに深緑色のジャケットを纏い、両家のお嬢様といったスタイルだ。
今日は週に一度のエリザの休み。
本当は毎日でもリンカの侍女業務につきたいところだけど、肝心のリンカから「しっかり休みなさい」とくぎを刺されている。
先日の告白騒ぎからしばらく。
リンカもエリザとの関係に慣れ、よそよそしさは無くなった。
むしろ、エリザに対してはっきり言うようになり、表情は以前よりもさらに豊かになっている。
しかし、その分エリザを頼らずに自分でなんとかするようになって、ちょっと寂しいエリザだった。
今日の休みもそうだ。
本当は休日など関係なく年がら年中お世話したいかったエリザ。
以前なら押しに負けて折れていたリンカが、今では折れなくなってしまっている。
「しっかり休んでくれないと、あなたに頼れないわ」
そう言われてはエリザもうなずかざるを得ない。
エリザの扱い方がちょっと分かってきているリンカだった。
そんなわけでエリザは休み。
だが、リンカを愛するエリザは休日とて想う心を忘れない。
次の外出に向けてめぼしい店をリサーチすべく、王宮の外へと向かった。
「よしっ!」
気合を入れ、エリザは外出に望んだ。
宝飾店、服屋、レストランなど高級志向な店。
露店、酒場、カフェなど庶民的な店。
リンカが興味を持ちそうなものをひたすらにリストアップしていく。
さらに良さそうと思ったところには実際に足を運び、中の雰囲気や治安も確認。
万が一でもリンカの安全が脅かされてはならないのだから。
(ここはリンカ様が興味を持ちそうなメニューが揃ってるね。あっちの店も良さそうだけど、ちょっと客のガラがよくないし、却下。ふむふむ、だいぶまとまってきたね)
手元のメモ帳を確認しながら、外出のルートも決めていく。
できるだけリンカの希望には添えたいから臨機応変にはなるけど、あらかじめ計画くらいは建てておきたい。
ふと、露天商の前を歩いていると宝石をあしらった装飾品を並べてあるのが目に入った。
「いらっしゃい、お嬢さん。安く…いや、高く買ってくれよ」
エリザの身なりからお金を持っていると思ったのだろう、言い直した主人は非常に正直だ。
それにエリザは少しだけ笑い、商品を眺めていく。
「付いている宝石は全部本物だ。ちっちゃいから価値は低いが、宝石は宝石。美しさは確かだぜ」
主人は宝石の付いたネックレスを差し出してくる。
見る限り、宝石は確かに美しい。
さすがにエリザは宝石の審美眼までは持ち合わせていない。本物か偽物かの判断はできない。
しかし、そんなエリザの目から見ても、ネックレスの作り具合や宝石の輝きは美しいと思った。
(綺麗。偽物だとしても、この加工技術自体は相当なものね。見る限り、主人はこの国の人ではなさそうだけど)
肌の色が見慣れない色だ。交易商の類かもしれない。
そうやってアクセサリを眺めていると、一対の指輪が目に入った。
「これ…」
「お、お目が高いねぇ。それはうちじゃ一番の自信作だぜ」
手に取ってみると、宝石のカットが恐ろしく複雑で精緻だ。そのおかげで、どの角度から見ても光り輝いている。
その宝石も、片方はエメラルド。片方は黒の宝石だ。
「これに付けてる宝石は何?」
「これはブラックダイヤモンド。希少品だぜ」
(エメラルドとブラックダイヤモンド。これなら私とリンカ様で、おそろいってことにできるよね♪)
互いに相手の瞳の色の宝石の指輪を身に着ける。
それを想像しただけで、エリザの顔はにやけていた。
値段を聞き、その場で購入。
思いがけないお土産ができたことに喜びながら、エリザの休日は終わった。
翌日。
早速とばかりに、エリザは満面の笑みを浮かべながら昨日買った指輪をリンカに見せた。
「どうです、綺麗でしょう?」
「本当に綺麗ね。ただ……」
「ただ?」
リンカは見せられている指輪を見つめた後、エリザを見た。そしてまた指輪に戻る。
そしてほんのりとほほを染めた。
(これって、そういうことよね?エリザってば、もう…こんなもの用意してくれるなんて、嬉しいわ)
リンカの様子に、エリザは自分の意図に気付いてくれたことが分かり、嬉しくなる。
(流石リンカ様、もう気付いてくれたみたいね。照れちゃってかわいい♪)
「リンカ様、付けさせていただいてもうよろしいですか?」
「ええ、お願い」
エリザはブラックダイヤモンドの指輪を手に取る。
リンカは左手をエリザの前に差し出した。
エリザはリンカの左手をとると、そっと薬指にはめていく。
自分の薬指に指輪がはめられていくのを、リンカは愛おしそうに見つめていた。
ピッタリにはめられた指輪。
リンカは指輪をはめられた手を掲げ、光に照らす。
光に照らされたブラックダイヤモンドは、黒い輝きを放っていた。
「きれい……」
(ああ、そんなうっとりと眺めるリンカ様もきれいでたまりません!描かせたい!この場面を宮廷画家に描かせて部屋に飾りたいのに!でも誰にもこんなきれいなリンカ様見せたくないって思っちゃうし、私複雑!)
指輪をうっとり眺めるリンカをうっとりと眺めるエリザ。
そんなうっとりの世界から先に戻ってきたのはリンカだった。
リンカはエメラルドの指輪を手に取る。
「エリザ。ね、手を出して?」
「はい」
エリザも左手を差し出す。
リンカは薬指を取ると、ゆっくりと指輪をはめていく。
「はめたわ」
「…ありがとうございます」
そっとリンカの手が離れていく。
自分の薬指にはめられたエメラルドの指輪。
今度はエリザがそれをうっとりと眺める。
リンカの瞳の色の指輪が、エリザの指に。
エリザの瞳の色の指輪が、リンカの指に。
それが何を意味するのか、わからない2人ではない。
分かっていて、だからこそ2人は嬉しさを隠せない。
リンカの左手が、エリザの左手を掴む。
互いの薬指にはめられた宝石がきらりと光った。
「好きよ、エリザ」
「私もです、リンカ様」
「…様は、今だけ無しにして?」
「……リンカ、好きよ」
「ふふっ」
「くすっ」
窓から差し込む光が、2人と指輪を照らす。
そこは2人だけの誓いをする場所となった。




