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のけ者王女と外れ侍女は、百合の花を咲かせます(旧:王女様と侍女は両想いです)  作者: 蒼黒せい


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10話

arei王女様と侍女は両想いです

メニュー

10話

エリザが案内したのは、王都で流行りのカフェだった。

上質な食事と飲み物が楽しめるとして、貴族の利用者も目立つ。

カフェは1階と2階に分かれており、2階はテラスの個室が用意されている。

雑多な雰囲気を楽しむのもいいけれど、ゆっくり外の雰囲気を楽しんでもらいたい。エリザは2階の個室を予約していた。


「わぁ……」


2階のテラス席から見下ろす景色に、リンカは感嘆の声を上げた。

上から見える人の流れ。

歩いている時には見えなかった街並み。

軒を連ねる市場の屋根と商品たち。

そのどれもが、リンカには輝いて見えた。


「リン、食べたい物はある?」

「えっ…と……」


リンカは渡されたメニュー表を前に悩む。

これまで彼女が食べるものを選んだことは一度も無い。

出されたものを食べるだけの生活。

そんなリンカにとって、自分が食べるものを自分で選ぶ経験など初めてのことだった。

悩むのは無理もない。


「う~ん……」


メニュー表とにらめっこするリンカ。

そんなリンカをエリザは、ほほえましさ半分、よこしま半分で見つめていた。


(あぁ…そんなにも無邪気に悩むリンカ様、素敵♡)


「エリっ…!ゴホン、このパンケーキとは何なのかしら?」


リンカは、一瞬いつものように呼ぼうとして言葉を詰まらせる。

そんな様子すらほほえましく感じながら、エリザは質問に答えていた。


「それは小麦粉と卵、水を合わせて焼き上げたものね。パンよりも柔らかく、ふわふわよ」

「パンよりも柔らかい…」


エリザの言葉にリンカは必死でイメージを紡いでいく。

しかし、一度として食べたことが無いパンケーキは、リンカではイメージすらできない。

他のメニューもリンカの興味を引く。けれど、そんなに一遍に食べることはできない。

あれも食べたい。これも食べたい。でも、残すことはしたくない。

そんな葛藤が、リンカを悩ませている。


一生懸命なリンカの様子をエリザは眺めていたが、このままでは時間だけが過ぎてしまう。


(悩むリンカ様をずっと眺めていたいけど、このままじゃお昼が終わっちゃうわね。助け舟を出してあげましょ)


「リン、私の分と半分こしよう?」

「半分…こ?」

「うん。そうすれば二品食べたことにできるよ」

「二品食べられる…」


半分こという提案がよほど予想外だったのか、リンカは呆けている。


「リンはどれが食べたい?」

「えっと…」


エリザにそう聞かれ、リンの目がメニュー表の上をすべる。

その様子にエリザはちょっとだけ苦笑した。


(ふふっ、全部食べたいって顔してる♪ほんと、連れてきてよかった。でも、全部はさすがに私も食べられないし、選ぶしかないわね)


リンカは食が細いが、エリザとて大食漢というわけではない。

無理すれば2品はいけるだろうが、それではこの後の散策に支障が出てしまう。


結局、迷いに迷ったリンカが選んだのはフルーツ盛り合わせパンケーキ。エリザは生ハムとチーズのガレット。

飲み物はリンカがハーブティー。エリザはコーヒーだ。


先に飲み物が到着し、さっそくリンカは口に運んだ。


「ん……。これが、ハーブティー…」


王宮内では基本紅茶しか出されない。それだけに、ハーブティーの風味はリンカにとって刺激的だったようだ。


「どう?初めてのハーブティーは」

「なんといったらいいのかしら…。不思議な香りで、すごくさっぱりしてて、全然紅茶とは違うのね」

「ええ、そうね。ハーブによっていろいろな薬効もあるから、病気の治療に飲む方もいるよ」

「そう言われると、確かにお薬のような香りな気もするわ」


初めてのハーブティーをちびちびと味わいつつ、街の賑わいに耳を傾けていると料理が届いた。


「これが…パンケーキ!」

「そう、パンケーキよ」


初めてのパンケーキに、リンカの興奮が抑えきれない。

早速とばかりに、ナイフとフォークを手にする。

しかし、その状態で固まってしまう。


「これは…どうやって食べたらいいのかしら?」

「それはね、ナイフで一口サイズに切って、フルーツと一緒に食べると美味しいよ」

「わかったわ」


言われた通り、一口サイズに切ろうとする。

しかし、思った以上の柔らかさにリンカは苦戦していた。


「すごいっ!こんなに柔らかい……。でも、切るのが難しいわ」


それでもなんとか切ると、フォークでイチゴと切り分けたパンケーキを差し、口に運んでいく。


「あむっ……んん!」


口に入れた瞬間、リンカの目が輝く。

ふわふわで柔らかいパンケーキは、あっという間に口の中で溶けていく。

そこに、一緒に食べたイチゴの酸味が混ざり、甘酸っぱさを奏でる。

その美味しさに、リンカの口元は緩んでいった。


その様子を、自分の分など完全に後回しにして凝視していたエリザもまた、口元が緩みまくっていた。


(ああ、パンケーキ一つでこんなにも幸せそうな表情を浮かべるなんて……そうだ!今度シェフにパンケーキの作り方を教えてもらおう。そうすればいつでもリンカ様にパンケーキを食べさせてあげられる!)


主人を愛する侍女の行動力は高い。

今後の計画を立てつつ、パンケーキを本当にうれしそうに食べる主人の様子も見逃さない。


そこでふとエリザは、パンケーキを食べるリンカの手が止まっていないことに気付いた。

このままではリンカはパンケーキを完食してしまう。

それでは、エリザが頼んだガレットを食べる余裕がなくなり、1品しか食べれずに終わってしまう恐れがあった。


(急がないと!)


エリザは自分もナイフとフォークを持つと、急いでガレットを切り分ける。

そして、次の一口を運ぼうとしているリンカの前に差し出した。


「リン」

「ん?エリ、何…」

「ほら、あーん」


差し出されたガレットに、リンカの動きは一瞬止まる。

そして、今食べようとしていたパンケーキと目の前のガレットに交互に視線を走らせると、一気に顔を赤くした。


(わ、私ってば夢中に食べてて…。ずっと見られてたのよね?は、恥ずかしい…)


既にパンケーキは半分完食している。

差し出されたガレットの意図に気付いたリンカは、恐る恐る口を開けた。

その口に、エリザはそっとガレットを差し入れる。


「んっ……」


リンカがゆっくり咀嚼する様子を眺めながら、エリザは次の一口分を切り分けていく。


「リン、おいしい?」

「…うん、おいしい」


さっきまでのパンケーキと違い、薄いけどしっかりした歯ごたえがあるガレット。一緒に乗せられた生ハムとチーズの塩気が、さっきまで食べていたパンケーキで甘くなった口の中を塗り替えていく。


エリザは次の一口分をサッと自分の口の中に放り込み、リンカが飲み込む前に次の一口を切り出す。

出来る侍女は主人を待たせないのだ。


「んっ…」


ハーブティーの入ったカップを手に取り、口の中をスッキリさせていく。

カップを置くと、エリザから次の一口が差し出される。


「あーん♪」

「あ、あー……ね、ねえ、それやらなきゃ、ダメかしら?」


さっきはつい食べてしまったけど、今更あーんされることにリンカは恥ずかしさを覚えた。

さきほどとは別の意味で顔を赤くするリンカ。

そんなリンカの様子に、エリザは笑みを浮かべながら内心悶えていた。


(ああぁぁぁあ!ああんもう、気づいちゃって可愛いんだから!でも、絶っっ対に譲らないんだから。この雰囲気ならリンカ様だって断れないはず!しっかり楽しませてもらっちゃうんだから♡)


私利私欲全開の侍女は絶好調である。

目の前のガレットと、エリザの顔を交互に見るリンカ。


(うううぅ…エリザってば楽しんでるわ。絶対にやめる気は無さそうだし…。で、でも誰かに見られてるわけでもないし、し、仕方ないこと、よね?)


誰に言うわけでもなく、言い訳を連ねていく。

そして、諦めてやっと口を開いた。


「はい、あーん」


そこに、エリザは嬉しそうにガレットを差し入れた。

口が閉じられ、フォークが抜き取られていく。

口の中に残ったガレットはゆっくり咀嚼され、また飲み込まれていく。



それが何度も繰り返され、いつの間にかガレットは空になっていた。

きっちり半分ずつ食べ切った2人。

残ったのはリンカが頼んだパンケーキが半分ほど。


(こ、今度は私が!)


お互いに半分ずつ食べると決めていた。

なら、この半分のパンケーキを食べるのはエリザだ。

そしてそのパンケーキはリンカの手元にある。

つまり、リベンジチャンスだ。


一口ハーブティーを飲み、心を落ち着かせる。

これから自分がやろうとすることを考えると、また恥ずかしい気持ちになる。

でも、やられっぱなしではいられない。


(よし!)


気合を入れ、自分のナイフとフォークを手に取る。

そして、パンケーキを切り分け…ようとして気付いた。

パンケーキが無い。

いや、パンケーキを載せていた皿が無い。


「あ、あら?」


おかしい。さっきまでそこにあったのに。

周囲に目を向けると、パンケーキはあった。

エリザの手元に。


「ササっと食べちゃいますね~」


そう言って手際よくパンケーキを切り分けていく。

そして、自分で食べようとする。その光景を前に、リンカの心を悲しみが襲った。


「あ……」


つい漏れた声。

しかしその声はしっかりエリザの耳に届き、食べようとした手が止まった。

エリザの脳内がフル稼働する。


(今の声は何?まだパンケーキが食べたかった?いや、リンカ様はもうお腹いっぱいのはず。じゃあ違うことよね。う~ん、何かしら。でも、悲しそうだったから、このまま食べることはマズイはずよ。考えるのよ、私)


そしてエリザの目がリンカの手にナイフとフォークが握られていることを確認する。

自分が食べたいわけじゃないはず。なのに食器を握っている。

そして侍女はようやく主人の意図を察した。


(そういうことなのね、リンカ様。わかりました、不肖このエリザ、受けて立ちます!)


よく分からない決意と共に、フォークに刺さったパンケーキを外し、エリザは食器を置いた。

そしてパンケーキの載った皿をリンカの前に戻す。


戻された皿を前に、リンカはきょとんとした。

エリザはニコニコとリンカを見ている。


(エリザ、何で戻して……っ!まさか、私がしようとしてること分かって?)


思惑がバレていることにリンカは恥ずかしがる。

でも、もうやると決めたんだからやるしかない。

決意を新たに、リンカはパンケーキをフォークで刺し、エリザの口元へと運ぶ。


「あ、あ~ん」

「あ~ん♪」


すかさずエリザはパンケーキをほおばった。

リンカと違い、ガレットでしょっぱくなった口に、甘酸っぱいパンケーキとフルーツの味わいが心地いい。

そして何より、愛する主人からの『あ~ん』だ。

その美味しさは何倍にも膨れ上がっている。


満足しているエリザに、嬉しさ半分悔しさ半分のリンカ。


(むぅ…エリザも恥ずかしがってくれると思ったのに、全然喜んでるじゃない。でも、これって意外と楽しい、かも)


初めてする行為に、リンカの内心は複雑な感情が渦巻いている。

けれど決してイヤじゃない。

エリザがガレットを『あ~ん』で食べさせようとしたのがちょっと分かった。


そして、残りの分もどんどんリンカが食べさせていく。

一口ごとに喜ぶエリザに、次第にリンカの恥ずかしい気持ちは消えていく。

そして、もっと喜んでほしいという気持ちが強くなっていった。


料理を食べ終え、飲み物も飲み切った2人は大満足だ。


「おいしかったね、リン」

「ええ、そうね、エリ」


2人で過ごしたカフェのひと時は、リンカにとって、そしてもちろんエリザにとっても最高に楽しい時間となった。


その後、腹ごなしに街を散策していく。

目に映るどれもがまぶしくて、リンカの足はすぐに止まる。

そんなリンカを、エリザはほほえましく見守っていた。


しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。


「リン、そろそろ時間だよ」

「えっ、もう……そんな時間なのね」


既に日は傾き始め、2人の影は長くなり始めていた。

終わりを告げられ、リンカの表情が曇る。

それは、王宮の外に出たことがどれだけ楽しかったかの表れ。

そんなリンカに、エリザは優しく微笑んだ。


「今日は帰るけど、また来ようね」

「そう……ね」


エリザはそう言うが、リンカの顔は浮かない。

次がある保証などないから。

だけど、エリザは確信している。

あの王太子なら、頼めばきっと次があると。

いや、最悪リンカを連れてこっそり抜け出せばいいやとも思っているけど、それは最終手段。


でも、それを言ってもリンカは困ったように笑うだけだろう。

だから、また連れ出せばいい。

そうすればまたリンカは笑ってくれるから。


「さ、行こう」

「うん…」


今日ずっと繋がれたままの2人の手。

お互いが、相手の手をほんの少し強く握る。

エリザは次のお出掛けを絶対に実現するための決意を、リンカはこれが最後かもしれないと惜しむ気持ちを隠して。


2人の影が、王宮へと向かって進んでいった。


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