表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

第9話 月曜日:沖 都也美の独白

 side 沖 都也美


 ハルくんを見送った──いや、見送ってしまった。

 彼がいなくなると急に寂しくなって、私は肩を抱く。

 私以外に誰もいないいつものこの部屋が、今日はとても広く感じる。


 やっぱりハルくんがここに泊まってくれるように、もうちょっとゴネたらよかったかな?

 そんなことを思う私はやっぱり子供だな、改めてそう思ってしまい、苦笑する。


 それにしても、ハルくんはとても不思議な男の子だった。

 そもそも出会いから不思議……といっても私が道で行き倒れていたからだけど。

 とても優しくって、揶揄うと可愛くって。

 私に兄弟や姉妹はいないけど、弟ってこう言う感じなのかなと思う。というか、弟になってもらうって言う線もアリだったかも……?


 でも、時々見せるまっすぐなところはすごいかっこいいと思ったし、綺麗なんて言われた時には年甲斐もなく慌てちゃった。

 私がただでさえ年下、しかも男の子に慣れてないから色々しちゃった気がするけど、大丈夫かな。嫌われてないかな……今更心配になってきちゃった。


 心配を止めるために目の前にあるお酒のボトルを手にしようとして───いや、やめとこう。今日あんな事があったばっかりだしね。うん。偉いぞ、私。


 それよりも、私が興味本位で聞いてしまったハルくんの過去。それは私が思うよりも、もっともっと壮絶だった。

 途中で悲しくなって、ハルくんを慰めてあげたくて。それで何度も抱きついちゃった。今までだったら、絶対そんなことしなかったし、出来なかったのに。


 やっぱり彼は不思議な人だ。出さないようにしていた本来の私が、内側からどんどんと溢れてくる。

 今日一日、とても楽しかった。明日またハルくんが来てくれるのがすごい楽しみ……。


 でも、そんな魅力的な彼とこんな私とじゃ、本来絶対釣り合わないと心のどこかで思ってる。

 それでも、私は繋ぎ止めた。一番好きではない自分を出して。

 最初はハルくんを助けたいだけだったのに。彼に、ハルくんに甘えてしまった。頼ってしまった。


 激しい自己嫌悪が押し寄せる。

 過去のことを思い出して吐きそうになるのを無理やり押し込めた。


 こんな思いをするのであればいっそ、彼と出会わなければよかった。

私は運命のイタズラを呪う……運命?……そうよ、これは運命なんだわ。

 ハルくんもこの出会いは運命かもしれないと喜んでいた。つまりこれは、彼の為に。そして私の為に用意された特別な出会い。

 でも、きっともうこんないい出会いがあることはない。そう直感的に思った。


 だからこそ、私は変わらなくてはならない。

 今まで逃げて逃げて、とにかく逃げ続けた私から。


 ハルくんが私に全て話してくれたように、私に起きた全てを。そして今を。もし彼が許してくれるなら、これからの未来を話そう。

 彼になら、どう思われてもいい……わけじゃないし本当は優しい言葉をかけて欲しいけど!……それでもとにかく真摯でいよう。そう思った。


 私は久しぶりにスッキリした心と頭でお風呂に入り、寝るための準備を終わらせて布団に入る。

 それでも夜は寂しい。アナログ時計の針の音が、今日は殊更大きく聞こえた。

 ハルくんが泊まってくれなかったから、悪いんだよ。明日はいっぱい揶揄ってやるんだから。そう心の中でグチると心がスッと軽くなった。

 やっぱり、彼はホントに不思議な人……今日はたくさん泣いたのにまた少しだけ泣きながら私は眠った。


 ─────────────────────


 たくさん眠った気がしたけれど、時計を見たらまだ5時。彼が来るまで、まだ3時間もある。


 それから顔を洗って、念入りにメイクをしたけど、それでもまだ2時間とちょっと。

 というか、さっきからチラチラ時計を見ているせいで全然進んでない気がする。初デートで緊張してるみたいでなんだか身体が熱くなってくる。


 なんとはなしにスマホを開いてネットサーフィンをしてみたけど、左上にずっと小さく表示されている時間が気になっちゃって全然効果がなかった。


 それに少しずつ約束の時間が近づいてくると、自分の事を話すのが怖くなってくる。

 その度に、ハルくんは全部教えてくれたんだから自分も頑張らなきゃって思いなおす……でも怖い。寒くもないのに少し身体が震えてくる。


 気づけば、なるべく飲まないようにしていたお酒を飲んでしまう……私はホントに弱い人間だ。うぅ、どんどん自信無くなってきた。


 取り敢えず、少しでも酔いを覚ます為に外に出よう。

 そうして、5分もしない内にハルくんが会いにきてくれた。

 ほんとにびっくりしすぎて心臓が止まるかと思った。でも予定より早く会えてすっごく嬉しい。心臓はさっきまで止まるかと思ったけど、今度はすごいバクバクしてる。


 ハルくんとお話しするのが楽しすぎて、また沢山揶揄っちゃったしナデナデもしちゃった……嫌われてないよね?大丈夫だよね?

ちょっと不安。


 あとやっぱりお酒飲んじゃった事バレちゃった。悔しいな。

 だから、ちょっとだけ自慢のおっぱい見せてごまかしちゃったけど、これってセクハラにならないよね……?

 さっきまで恥ずかしかったけど、急に怖くなってきちゃったよ!


 あぁ……ハルくんと話すだけで、私の心の中でいろんな気持ちが溢れ出てきては変わっていく。こんなのやっぱり初めて。ほんとに不思議な人。


 だから、私は今日変わるんだ。

 彼に───ハルくんに愛想を尽かされないように。そして、ずっと一緒にいてもらうために。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ