第5話 出逢い
俺は翌日、さっそく就職活動を始めた。
興味を持ったところにかたっぱしから電話をかけては面接の予約を取り付ける。
しかし、現実は残酷だった。
ここから、俺は不採用通知を見続ける事になる。
最初の10日は先に予約していた自分が働いてみたい会社に面接をしてもらったが、中々いい返事をもらえなかった。
風貌のせいかと思い、美容院で髪を切り、小綺麗な服を着て再度面接に臨んだ。しかし、良い結果は返ってこず、俺の心は疲弊していく。
そうして毎日就活をし続け、ひと月が経過すると俺は完全に面接恐怖症に陥っていた。
あらかじめ用意しておいた事以外を問われると、もう言葉が出てこない。そこからは負のスパイラルに陥り、何にも応えられずに面接が終わることも増えた。結果は言うまでもない。
それでも俺は、不撓不屈の精神で頑張り続けた。
幸せを証明する第一歩すら越えられないようでは、それこそ親に見せる顔がない。
何があっても折れない心、それだけが俺の矜持だった─────そう、この時までは。
そして2ヶ月が過ぎようとした頃、ある会社の面接を受けている最中、俺はいつものように返答に窮していた。
面接官の機嫌が悪かったのか「あぁ、もういいよ」と言われ、その後に続いたという言葉。
それは俺の心を大きく抉った。
まだ、何か面接官は言っていたが耳に入ってくることはなく「ありがとうございました」と言葉を絞り出して面接会場を後にする。
帰途につく時も、頭の中では『君の代わりはいくらでもいるから』という言葉がずっとリフレインし続けていた。
飯を食べ、風呂に入っている時も繰り返されるあの言葉に俺は完全に取り憑かれ、何もしていないのに息が上がった。苦しい。
今まで、面接中に嫌な顔をされることがあった。それでも、俺は挫けず立ち上がる。
───── 君の代わりはいくらでもいるから。
言葉に詰まってたときに、笑われたりもした。それでも、俺は挫けず立ち上がる。
─────君の代わりはいくらでもいるから。
「俺の代わりがいくらでもいるなら、なんで俺は生きているんだよ」
─────君の代わりはいくらでもいるから。
自分の価値を完全に否定する言葉が、俺の唯一残ったプライドをズタズタに切り裂く。
折れないはずの心が、ポッキリと折れた瞬間だった。
次の日も面接の予定が入っていたのだが、俺は動かずベッドに寝転び、気づけば夜を迎える。
こんな日をしばらく繰り返し、俺は面接をすっぽかすどころか、人との交流を極力絶つようになった。
元々ないようなものだったから、そこまで気にはならない。むしろ、面接に行かない事で自動的にその条件を満たしていた。
仕事のない俺に、仕事が出来る。
そう、それは人様に迷惑をかけぬよう生きること。
そしてなんの目的もなく漫然と生きること。
無価値の俺にできる事は、それだけであると信じ込んだ。
こうして“村人A”にすらなれなかった俺は“ゾンビA”にジョブチェンジした。
そこから3ヶ月が経過した、ある日の月曜日。
家にある食糧はほぼ尽きかけで、白米が明日まで持つかギリギリの状態。もちろん、冷蔵庫はすっからかんである。
もちろん、金もほぼない。預金通帳の最後の行には3桁の数字が並んでいる。
両親に頼むことも考えたが、“人様に迷惑をかけてはい” というある種呪いのような言葉が頭に引っかかり、連絡をすることはしなかった。
それならば、いっそ命を───とも思ったが、そんな勇気は持ち合わせていない。
むしろ、また人様に迷惑がかかってしまうと考え、俺は佇んだ。
生きることも死ぬこともできない。本当にゾンビだと思った。
ならば、ゾンビのように徘徊するか。
正常な判断を無くした俺はあてもなく街にフラフラと出かけた。
季節は、もう初夏。引っ越してきた時はまだ寒かったのに時節が経つのは早い。
汗でへばりついたTシャツをパタパタとする。
今日の太陽の近さは初夏というより、真夏に近い。
気づけば引っ越してきた初日に見つけた商店街に差し掛かった。その時、一匹の猫を見つけた。
猫はこちらをじっと見つめると、突然興味を失ったのかそのまま狭い路地に入っていく。興味本位でその猫を追いかけるように路地を入ると、その先で女性が行き倒れていた。
思わずギョッとする。
助けを呼ぼうと路地を出るも、人影はない。
「誰かいませんか!」そう、叫ぼうとする声を途中で飲み込む。
危ないところだった。そうだ俺は。
俺は、人様に迷惑をかけてはいけないのだ───ならば───やることは一つだ。
仕方なしに路地を戻り、倒れている女性にかけ寄り声をかける。
「大丈……大丈夫ですか!?」
久しぶり声を出したせいで、うまく声が出なかったが何度も声をかける。
「大丈夫ですか!?」
「うぅ……」
その甲斐あってか、女性から声が。
意識はあるみたいだ……本当に良かった。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃ……ない……。あたまいたい……」
そういうと女性は、ゆっくりと目の前の看板を指差す。
「そこ……私の店だから……申し訳ないけど、運んでくれる……?」
看板には「BAR」の文字。
ん?もしかして、この人お酒の飲み過ぎ?
それに気づくと目の前の女性から物凄い酒の匂いが押し寄せる。
さっきまでは助けるのに必死すぎて全然気づかなかった。
「鍵……これ」
そういうと、どこから取り出したのか鍵を渡される。
「は、はい……じゃあ、失礼して……」
「うん……あー……あたま割れそ……」
どうにかおんぶして鍵を開ける。
倒れていたので全然気づかなかったのだが、この女の人……その……胸が……めちゃくちゃデカいし、柔らかい。
背中越しでもハッキリわかる大きさとその感触から必死に抗い、中に入る。
それが、俺と彼女─── 沖 都也美との初めての出会いだった。
作品への没入感が薄れる為、後書きを使うのはなるべく避けたかったのですが読んでいただけた方に謝辞をお伝えしたかったので、今回だけ書く事をお許しください。
(しばらくしたらこの後書きは消させていただきます)
当初、少しの方にでも見ていただけたら嬉しい。
そう思って書いておりましたので、ここまで長々と見ていただけてとても嬉しく思っております。
そして作品を評価いただいた方、ブックマークしてくださった方本当にありがとうございました。
作品作りの原動力になっております。
遅筆ではございますが、全力で書かせていただきますので今後ともよろしくお願いします。