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夜の拠(15期 仮)

昼。それは体力回復の時間。

「んーであってこのトカイワインの瓶をドンと突き出してな? こいつが飲みたきゃトランシルヴァニアを寄越しやがれと詰め寄ったと」

「先生真面目に授業してください」

「うるせーぞ至って真面目だ」

素面でそう返すと頭上からチャイムが降ってくる。

「ん、時間だな。んーじゃ次はキエフルーシ継承権行くから予習しとけよ」

「先生時代がめちゃくちゃです!?」

「ん? 何なら百年戦争に戻るか?」

「いえ結構……はぁ……」

これ以上は諦めたらしい。背中から聞こえるため息を聞き流してあたしは教壇を下りると、

「…………心配しなくても大丈夫だ、水野美郷。テスト位はなんとかなる」

「そんな調子いいこと言って……嘘つかないでください」

「ウソじゃないぞ。現に歴史が低空飛行激突寸前だったおめーが【年代がめちゃくちゃ】ってあたしにツッコミ返したじゃねーか」

「あ、う、それは……」

「……大丈夫だ」

幾分かあたしより低い所にある頭をぽすっと叩く。

「おめーみたいに『変わりたい』って頑張る奴はいつかきっと変われっからよ」

自分に言い聞かすように呟くと、

「よる、せんせい……っ」

キラキラした眼差しを向けられる。

「……それにいざとなったらテスト位ならこっちで【ぴー】して【伏字】すればなんとかなるぞ?」

「えっ」

「いや、うん、トータルの成績の方でゴニョゴニョして【自主規制】が【伏字&伏字withピー音】しとけばまぁ卒業は出来」

「なんで所々ピー音入るんですか!? 」

「いやダメ判定付けちゃうと管理責任とか? 指導責任とか諸々付いてきちゃうからね? なのでそこはこうあぁしてこうして」

「よ、よるせんせい…………」

「お、なんだ?」

「…………ほんとに教師ですか……?」

「…………センセイダヨー?」


放課後、というのは人によって違う顔を見せるもので。

同僚達は自分のクラスの仕事に加え、そろそろ影のチラついて来た期末考査の準備もそろそろと進めていて。結果、職員室の空気がやや修羅場ムードを帯びてきて居心地が悪いのなんの。

自分の学生時代を思い出してうげぇとなったあたしは、机の両側でゆらゆら揺れるやりかけの仕事タワーから目を背けるように職員室から脱走して、人目を避けて旧校舎に背を預けて一服する。背中越しにキャピキャピした運動部の声が聞こえてきて、おー若いもんは元気だなーとか煙を燻らせていたら、

「隠れて吸わないでください、この辺は禁煙ですから」

「ちぇっ、見つかっちった」

溜めていた紫煙を吐き出すと声の主に向き直る。

「で? ユーさんいつからココ禁煙になったの?」

馴染みの用務員からは返事の代わりに竹ボウキの柄がぬっと突き出されて、

「うぉっと、危ねぇな!?」

「この辺は枯れた雑草が多いので。ポイ捨てなんてされたら危ないから。あと名前で呼ばないで」

「へーい……」

携帯灰皿に吸い止しを突っ込むと、大人しく用務員の後について歩く。昔っからおっかねぇんだよなこの先輩は。

「んで? なんでホウキなんか持ってこんなとこに?」

「……落ち葉集め。園芸の子達が焼き芋するから」

「おっ、それはいいな。小腹空いたし混ぜて」

「断る」

「まぁそう言わずに。火種貸すんで」

「オイル臭くなるだろう、要らん」

「そこをなんとか」

「……あのなぁ日生…………先生」

心底嫌そうな顔の先輩、基い、用務員を相手にあの手この手で挑んで見ると、ようやく観念して半欠け位ならと譲歩を引き出した。


うん、持つべきものは人のツテだな。

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