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プロローグ0:全てはここから始まった……



時折、『人生って何なのかなって……』

そんな哲学的で明確な答えのない事を高校3年生という若さで考えてしまう。

まだまだ、人生これからだと言うのに……



でも、思い出して欲しい。

無邪気な小学生だったあの頃を。


あの頃の僕たちは細かいことなんて何一つ気にしないで過ごしていた。

友達を作る。作りたい。

そんなことなんて考えず、気づいたら友達だよねが当たり前だった。

女子と話すのに理由や打算なんて必要なく、ちょっとしたボディタッチは許容範囲内。

授業が終われば、時間が許す限り遊び回った。



だが、それが中学生に上がるとどうなっただろうか?


自分の容姿を気にし、体型を気にし、周りの目を気にし、他人と自分を比べて思い悩む。

友達ですら本当に友達なのかと考えてしまう毎日。

集団という存在に囚われ、1人でいることが恥ずかしいことのように感じてしまう。



――高校3年間。

少しは自分が思い描いたような高校生活や青春が送れただろうか?


「恋愛の1つでもしたい!」


そんな願望を持っていた入学式の日、

新品のブカブカな制服に袖を通したのを懐かしくも感じてしまう。


まぁ、蓋を開けてしまえば、

毎日というありふれた貴重な時間を、ゲームやSNSに使って高校生活の半分は終っていた。

そして、気づいた時には勉強も部活も、恋愛なんてものも取り返すには手遅れだったのだ。



『僕。立川友也たちかわゆうやは一体いつから道を間違えてしまったのだろうか?』


そんな疑問が脳内を駆けめぐる。


やはり、無責任に遊び尽くしていた小学生の頃だろうか?

それとも、人間関係の難しさに気づいた中学生の頃?

もしかして、生まれてきた時。まだ、スタート地点に立って間もない頃から?


こんな風に考えていうと、

いっそのこと、人生やり直した方が早い気がする。



って、そんなこと今は考えなくてもいいじゃないか……

今日と言う日は高校生が学生生活で一番の楽しみにしている日と言っても過言ではない日。

体育祭や文化祭よりも貴重な一回だけのイベント。



そう。

それは修学旅行の日だ。

一生に一度の高校生活でも最も待ち望まれる修学旅行。


僕にとっても学校生活の中で唯一楽しみだった日だったかもしれない。

今だけは気持ちを切り替えて、明るく、楽しく、ポジティブに行こうではないか!!





「無理だっ!! ポジティブ思考になんてとてもなれない……」


僕は真っ白い床にひざと両手を付いてうなだれた。


たった3分前に決めたこと。

僕はそれすらも投げ出して、諦めてしまった。



――なぜかって?


それは、修学旅行が結果的に見れば僕にとって居心地のいいものではなかったからだ。


今の僕は確かに修学旅行に来ている。

だが、やっていることは陽キャどもの使いっパシリだ。

高校3年間。今の今までやってきたことだが、

せめて今日から5日間ある修学旅行の日くらいは勘弁して欲しいと心の底から懇願(こんがん)させて欲しい物だ……


僕は愚痴をこぼしながら、

空港の売店に売っているチョコ菓子の袋を1つ手に取る。

これが自分のお腹の中に入ったらどれだけいいだろうか……


僕はため息をつきながら、チョコの入った袋菓子を4つほど取り、オレンジ色のカゴにドサッと投げ入れる。

そして、隣の商品棚に目を移し、適当に取ってカゴに入れる。

その動作を数回繰り返す。


そして、僕はカゴの中身を見返した。

1人で食べるとなれば、1週間はかかるであろうお菓子の量。

飛行機内に持ち込めるか?

そんな不安もでてくる。



「もう、家に帰りたい……」


僕は静まり返る店内で暇そうにしている店員に聞こえないように、

小声で現実逃避の代表とも言える言葉を漏らした。


こんなことなら修学旅行を休むべきだっただろうか?


「そんなぁ~~。人生損してるよ?」


って、誰かに言われるかもしれないが、

実際に僕の立場に立てばその辛さが分かるだろう。

まあ、これもクラスのカーストランキングで最下位の僕には相応しい末路だとは、自覚しているつもりではあるが、やはり心の奥で嘆く自分がいるのは間違いない。



って……

おっと、こんなこと考えている場合じゃない! 

商品を選ぶのに手間取ってしまって、

かなりの時間が過ぎてしまった!


パシリにおいて1番大切なのは、

いかにオーダーを忘れずに時間内に買ってこれるか。と、いうことである。


僕は山盛りになったカゴを眠そうな店員がいるレジに置く。

すると店員は眠そうに右手で目をこすりながら左手で襟元を直しながら大きめのビニール袋を取り出す。

そして、袋を広げながら僕を見ると鼻で笑った。


こんなに食べるのか? そんな笑いだろうか。

それとも、僕がパシらされていることが分かり、面白くて笑ったのだろうか?


まあ、どちらにしろ悪い印象を覚えられていることは間違いない。

こんなことなら寝ぐせの1つでも直してくるべきだっただろうか……



僕は店員が商品のバーコードを通している間、

タバコのケースの隣に設置されていた業務用の電子レンジに反射している自分の顔を見る。


見慣れている顔だが見るたびに思う。

もう少しパットした顔立ちにはならないものかと。


特徴がなく暗い表情。

目や鼻のパーツ配置には特に問題が見られないが、イケメンとはお世辞ににも言えない。

おまけに前髪が目にかかっていて表情があまり伝わってこないものだから、

誰からも相手にされないし、いない者扱いされてしまうのだ。


まあ、僕だって一度は垢抜けてやろうなんて決心した日はあったけど、

結局やり方が分からずに3日坊主になったんだっけ……



僕は店員が商品を袋に詰め終えて、足をトントンと打ち付けながら会計を急かす様子を見て、

慌てて制服のポケットから財布を取り出そうとする。

だが、焦ったせいで財布がつっかえて上手く取り出せない。


僕はこれ以上店員の機嫌を損ねるのも嫌だったため、

一気に財布を引き抜いた。


「取れた!」


僕は高らかに取れた財布を頭上に掲げる。

だが、僕はすぐに顔を青ざめた。


別にお金がなくて払えないとかではない。

修学旅行ということで、

バイトで稼いだ貯金を切り崩してきた。

そのため、財布には7万円という高校生にとっては大金が入っている。

どことなく財布が分厚く、心には余裕がある。



ならどうして僕が顔を青ざめたのか?


その答えは宙を舞う1本のオレナインBの存在を目にしてしまったからだ。

別にこの世界に炭酸栄養ドリンクが空を飛ぶ世界線や常識があるわけではない。


先ほど僕が財布を取り出した時に、

レジの隣のドリンク置き場に置いてあったこの瓶に手が当たってしまったのだ。

僕のおドジが……


僕は自分を罵倒しながら、

落下し始めるオレナインBを目で追う。


床に落ちれば……

その先は考えなくても分かる。

待っているのは謝罪と片付けだ。


そんなことをして飛行機の搭乗時間までに間に合うのか?

そんな心配まで脳内に浮上してくる。


万が一、飛行機に乗り遅れた僕のせいで修学旅行の日程が狂ってしまえば……

クラスメイトからリンチにあって、今以上の最悪な待遇が待っているだろう。



――それだけは避けなくては!!


僕は必死に右手を伸ばして茶色の瓶を掴もうとする。

しかし、日頃学校以外では外に出ず、インドア派の進化系とも言える究極の引きこもりで、

まるっきり運動をしない僕の反射神経では、指は瓶にかすりもしなかった。

実に無念である……


僕は目から涙が出そうなのを、

必死に我慢しようと唇を噛みしめたが、

さいわいにも瓶が地面に落ちて割れることはなかった。


僕は驚きの声を漏らしながら顔をあげて、

瓶をキャッチした濃い青色の髪をした男子生徒の顔を覗き込む。

そして、嬉しそうに声を掛ける。



仁坂にさか~~!! 助かったよ」


僕は前髪をセンター分けにセットしているクラスメイト、仁坂正吾にさかしょうごに礼を言う。

すると仁坂は前髪を直しながら僕に呆れたように言った。


友也ゆうや……。お前、修学旅行に来てまで東堂とうどうのパシリやってるのか?」


冷たい視線。

だが、その瞳の奥には心配の色が隠れている。


僕は仁坂からオレナインBの瓶を受け取りながら左手を頭の後ろに回すと、

あはは。と誤魔化すように笑ってみせる。


「ま、まぁね……。でも、ありがと仁坂。本当に」


「別に……」


仁坂は表情一つ変えずに支払いを終えた僕の隣に立った。

そして、大量のお菓子でパンパンになった2つの袋の片方を右手で持ちあげる。


「悪いね……」


僕は残ったもう1つの袋を持ち上げながら、

仁坂に礼を言う。


「早くしろ……。それと、幼馴染の心配するのは当たり前だろ。特にお前は……」


仁坂は振り向いて僕の額を指差した。

頼りないから目が離せない。

そんなことを言いたいのだろう。


僕は再び歩く仁坂の背中を追いかけようとするが、

一度立ち止まって小声でつぶやいた。



「幼馴染か……」


仁坂正吾にさかしょうご

この名前は、このいかにも何でもできそうな頼れる男の名前である。


僕と仁坂は幼稚園が同じで、家も真向いだった。

そのため、昔からよく遊んだ記憶がある。


仁坂は勉強もスポーツもそつなくこなしおまけに顔も良い。

無口で無愛想でなければ女子には今以上にモテただろうに……


僕は残念そうな顔をして仁坂の隣に安心するように並んだ。

そして、クラスメイトたちの待つ空港の待合室に行こうとする。


すると、トイレの看板が目に入る。


長い空の旅。

飛行機にもトイレはあるが、タイミングもいいし行っておいて損はないだろう。



「仁坂、悪いけどトイレ行ってもいいかな?」


そう断りを入れると、

仁坂はため息を付いて壁に寄りかかって口を開く。


「なら、俺はここで待っている。早くしてくれよ……」


「わかった」


僕は軽く仁坂に手を合わせて、

お手洗いと天井に矢印が書かれてある通路を曲がった。


この先か?


僕は青い立て札が掛かっている角を曲がる。

すると、前から歩いてきた金髪の男性と、

最悪なことにぶつかってしまった。


僕は素早く腰を90度折り曲げて頭を深々と下げる。

死角になっていて見えなかったからと言っても、

ぶつかってしまったのは事実である。


男性の体つきや瞳の色からも日本人ではないのが分かり、

僕はどう謝罪の言葉を述べようかと戸惑ってしまう。



「す、すいません……」


取り合えずの僕の反省の第一声はこれだった。

だが、男性はきょとんとして不思議そうに僕を見る。


やはり、言葉が通じないのだろう……


僕は少しだけ男性の顔を見上げて様子を伺う。

金髪に碧眼だと西洋の方だろうか……


恐らく英語が通じるのではないか?

そう思った僕は頭の辞書からこの場に適した英語を探す。


こういう時は”sorry”?

それとも”Excuse me”?


どちらが正しいのだろうか?


日頃からきちんと英語を勉強していない自分を呪いたくもなるが、

こうなったらと、僕はお尻のポケットから白いスマホを取り出し、

通訳アプリを開こうとすると男性は手でそれを制した。



「大丈夫ですよ。気にしないでください」


男性は流ちょうな日本語で僕に話しかけて来た。


なんだよ!?

日本語話せるのかよ!!


と、なぜかムカッとしてしまったが、

それは逆ギレである。


僕は怒りと安心の正反対の感情を胸にしまいながら、

男性の事情について考えてしまう。


日本で暮らして長いのだろうか?

とも思ったが、男性の服装や持ち物からそれは違うだろうという結論が出る。


僕は高そうなスーツを着た男性の身なりから、

もしかして、日本でビジネスの商談でもしに来た人なのだろうか……


などと、考えを変えていると、

男性は逆に僕にスマホを差し出してきた。



「すいませんが、ここに行きたいんです。分かりますか?」


僕は男性のスマホを受け取ると、この空港の地図が映っていた。

男性が指さした場所は手荷物検査などを行う場所。

保安検査場に行きたいのか……


僕は男性にスマホを返すと、後ろを向いて看板を指差した。



「保安検査場なら、この通路の反対をまっすぐ行って右に曲がるとありますよ。今の説明で分かりましたか?」


僕は男性に伝わったか確認するように尋ねると、

男性は親指を立てて頷いた。

どうやら無事に伝わったらしい。



「えぇ……。逆でしたか。ありがとうございます」


理解したと僕に言った男性は軽く頭を下げると、

踵を返して僕が来た道を戻って行く。

外国人相手の道案内は成功したらしい。


まぁ、どりらかと言うと僕が助けられたけど………


僕はホッと一息ついて安心すると、

トイレの中へと歩みを進めた。



◇ ◇ ◇



トイレから出た僕は、

濡れた手を拭いたハンカチをポケットにしまう。

そして、通路に設置されていたデジタル表示の時計を見て確認するようにつぶやいた。


「飛行機の出発時刻まで、あと40分くらいか……」


飛行機の出発時刻の20分前には保安検査を済ませなくてはいけない。

それに、この空港でのクラスの自由時間はあと5分しかない。

あまり時間に猶予はないな……


そう思った僕は、仁坂の待っている所に急いで戻ろうとすると、

僕はロビーの椅子に座って参考書を見ているクラスメイトを見つけた。


あの子は……


僕は確認するようにストレートヘアの黒髪の女子生徒に近づいて顔を確かめる。



「やっぱり、一ノいちのせさんだ……」


穏やかで真面目そうな顔立ちに、丸い黒縁くろぶちメガネ。

いかにも優等生オーラが出ている彼女の名前は一ノ瀬灯火いちのせとうかさん。


まあ、彼女は僕のイメージ通り、

学校内で一番成績が優秀なことで有名なんだけど……


てか、それにしても……

修学旅行に来てまで勉強するのかよ。


噂で聞いたことがあるが、彼女は将来裁判官になりたいらしく、

そのために受験勉強にいそしんでいる姿を良く見かけるが……



修学旅行の日くらい勉強のことを忘れてもいいのではないだろうか?


そう思ったが、価値観や考え方というのは、

人それぞれである。


かという僕も、今日と言う日に特別期待しているわけではない。

母親に行けと言われたから行くのである。

要は義務である。



さて……

声をかけて時間が迫っていることを教えてあげるべきだろうか……


だが、僕は彼女と一度も会話をしたことがない。

ただでさえ、僕は人見知りで女性耐性なんて物は1ミリも持ち合わせていないのだ。

僕は腕を組みながら、その場を2、3周する。


少し迷ったが、できるだけのことはするべきだろう。

僕は拳を握り締め、一ノ瀬さんに話しかけた。



「一ノ瀬さん……。もう少しで、飛行機が行くよ……」


僕がそう言うと一ノ瀬さんは視線を参考書から外して、

僕の目を見ると再び参考書に視線を戻した。


無視された……?


僕はそう思って肩を落とした。

すると、一ノ瀬さんは少し口元に笑みを浮かべて参考書をパタンと閉じた。

そして、一ノ瀬さんは右手を口元に当てて僕を見上げる。


「やっぱり、面白いね立川君……」


「えっ? えっと……」


もしかしてからかわれたのか?

そんな風にも捉えられる彼女の笑みの正体。

だが、僕は一ノ瀬さんと話していて違和感を感じた。


立っている僕と座っている一ノ瀬さん。

構図的には僕が見下ろしている形になる。

そのため、彼女の持っていた青いバックの中身が見えてしまった。


バックの中に在ったのは水で濡れて、びちゃびちゃになった教科書。

僕も雨の日に何度かやったことがあるが、

今日は晴れだ。


だとすると……


一ノ瀬さんは僕の視線に気づいたのか、

参考書をバックに戻し、素早くチャックを閉めた。


「気にしないで。ちょっと鞄の中でお茶をこぼしただけだから。それより、時間教えてくれてありがとね」


一ノ瀬さんは外していた腕時計を右手付けて立ち上がる。

そして、ズレてしまった眼鏡をかけ直す。



「ほら、行こ。先生が待ってるかも」


一ノ瀬さんは僕にそう言いながら僕より2歩前に出た。


「うん」


僕は少しもたつきながら一ノ瀬さんにリードされる形でクラスメイトが待つ、

待合室に向かう。


途中、仁坂と合流しようとすると、

メールで先生と会ったから待合室で待つと連絡がきていたので、一ノ瀬さんと待合室に向かった。



◇ ◇ ◇



僕と一ノ瀬さんが、クラスメイトたちの待つ待合室に行くと、

そこには学生服を着た3年3組の生徒は1人もいなかった。


代わりに、両手を腰に当てながら足を肩幅に開き、

首を長くして僕と一ノ瀬さんの到着を待つ人物がいた。



小岩井実里こいわいみのり先生……」


僕は小声で僕と一ノ瀬さんに詰め寄る担任の教師の名前を呼んだ。

すると、小岩井先生は早口で僕たちにお説教を始めた。



「ちょっと、2人とも遅いですよ!! 集合時間はとっくに過ぎてますよ。他の皆は既に飛行機に乗ってます!! ……ちょっと聞いてるんですか立川君!?」


小岩井先生は低い身長をカバーするように、

短い手足をパタパタさせながら存在感をアピールする。

すると、ようやく僕の視界に入ってくる。


それにしても、説教中に考える事ではないが前からずっと思っていた。


小岩井先生は身長145cmくらいで、

おまけに童顔である。


ロリコン好きのおじさんがいたら誘拐してしまうのではないかと毎回考えてしまうが、

身長や体格、顔立ち、全てが先生というよりも生徒である。


年齢は28歳だが、

やはり、生徒よりも幼くみえる。


僕は小動物、特にハムスターそっくりな小岩井先生の前で頭を下げて遅れたことを謝る。



「すいませんでした」


僕と一ノ瀬さんが口を揃えて謝ると、

小岩井先生はため息をつきながら腰に当てていた手を組んで再び口を開く。



「まったくです! 先生はすごーく怒ってるんですからね。それに、一ノ瀬さんまで! 普段は真面目なあたながどうしてこんな時に限って!! プンプンです!!」


可愛らしい鬼の角が生えている小岩井先生は僕たちを急かすように飛行機の搭乗口まで連れて行く。

そして、搭乗口の手前で僕たちに先に乗るように指示を出すと、

自身はスマホを取り出し学校に連絡を入れていた。


少しだけ聞こえた内容からも、

予定通りの出発ができるという報告の電話なのだろう。


僕はそんな先生を横目に飛行機の中に入ろうと右足を飛行機の入り口の扉の敷居をまたいだ。

すると、後ろから穏やかな声が聞こえてきた。



「いってらしゃい。良い空の旅を」


僕が声に反応して振り返ると、

そこには手を振りながら僕を見送り出す女性の空港職員がいた。


これもサービスの一貫なのだろうが、

僕は妙に嬉しい気持ちになった。


職員の方の容姿が整っていたからかもしれないが、

どことなくその言葉が懐かしい響きだったからかもしれない。


僕はエンジンを温めている音のする飛行機に乗ると、

心の中でつぶやいた。



『行ってきます』と。






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