07 汐留瀧の返事
「僕のことが……なんだって?」
「す、好きなんです! 付き合ってくださひ!」
「……」
正直、何言っているか全然わからなかった。
え、だって。
僕に告白なんてあり得ないじゃないか。
いつも授業中は寝てるし、部活動すら退部してるいるし、魅力なんて一つもない……はずだってのに。
なんで。
頭が真っ白になる。
「ダメ、ですか……?」
クラス中の人気者でのほほん系バレー女子。
桜が梅高校のバレー部キャプテンを務める、絢辻結衣ちゃん。
そんな彼女が、何で僕を?
当然。
クラス中のみんなから視線が集まる。
よりにもよって、昼休み。
「え、いや、なんで───」
なんとか声を振り絞る。
「昔、陸上で走っている姿を昔見た時……一目惚れして」
「でもそれは昔じゃないか」
「はい。……なんですけど一昨日、また走っていたじゃないですか?」
一昨日?
あー、あれか。
舞との練習試合。
「その姿が何よりもカッコよくて、凄かったんです。圧倒されちゃいましたよ」
そして、もう一度。
彼女は……、
「だから好きなんです。付き合って下さい!」
返事待ってます。
と言って、同時に昼休みの終わりを知らせる予鈴が鳴るのであった。
キーンコーンカーンコーン、と。
女の子の気持ちはよく分からない。
あ、幼馴染は例外だが。
◇
返事を待つと言われてもねぇ……5限目の物理の授業を受けながら、どう返事をしようか考える。
断るのは前提条件である。
なにせ僕は既に──橋本舞にコチラから告白しているのだから。そりゃあ断るしかないよな、という簡単な話。
僕は幼馴染一筋なのだ。
「…………」
授業を聞かず、ただ熟考する。
やはり集中していると、あっという間に時間が過ぎるってのは本当だよな。
あくまでも体感時間が早くなるだけだが、でも人なんてのは実際問題──体感で生きているだろうし、それで十分。
いつの間にか6限目が終わっていた。
特に結論もつけれないまま、放課後を迎えてしまう。
どうするか。
机で頬杖をついて、目を瞑る。
部活のある者は部活へ、
二年生も後半──既に受験に目を向けている人は勉強を始め、
帰る奴は帰る。
友達とだべってる奴はだべっている。
その中で告白の返事を待ち続けて、隣の席で座っている少女もいる。
うん。
改めて。
さて、どうするか───僕よ。
「……やっぱダメだ、分からん」
告白した経験は一回あるけど、それも最近。でも告白されな経験なんて今日の今日までなかったのだ。告白され童貞である。
だから、どーいう対応をすれば良いのか分からない。
あの時にしっかりと断るべきだったと思ったり、後悔する。
目を開く。
教師の壁掛け時計で時間を確認する。
午後三時四十六分。
荒木田先生との約束まで──あと、十五分を切っている。
「結衣ちゃん」
だから行動を始める。
このまま考えていたら、きっと結論はまとまらない。かといって時間もない。
僕がやるべき事は言ってしまえば『断る』だけなのだが……そんな簡単なことも優柔不断な自分には、出来ない。
ならば『何も考えず』に。
その心意気で行動するのだ。
深く考えれば沼にハマる。
それは柄じゃない。
だから、
────待てよ、それは僕としては正しいけれど、彼女にとっては間違っている。
辛くても良い。
しっかりと真正面から断れよ、僕!
「な、なんですかあ」
隣の彼女に話しかける。
「僕はえーっとさ、好きな人がいるんだよ」
唐突かもしれない。
でも嘘をつくよりは、事実を。
長引かせない、端的に、スマートに伝える。
「え……、そ、それって!」
「残念ながら結衣ちゃんじゃない」
そして、僕はその人に告白したのだ。
と言う。
そして、重くなる空気はしっかりと受け止めて。
僕はいう。
「でも残念なが保留されている。僕がその人を惚れさせる事が出来たら付き合える、そんな提案をされたのさ」
だから。
「だから結衣ちゃんも──僕を惚れさせたら、もちろん喜んで付き合うさ」
と、結論づけるのだった。
果たしてこれが正解かは分からない。
いや、きっと間違っているだろう。
僕が正解だったことだなんて無い。
でも、後悔はしない選択をしたとは思う。
どれだけ不誠実でも。
「……あはは」
「一方的に言ったけど、ごめん」
「全然大丈夫ですよ。分かりました。タッキーの事情は」
「別にこんな馬鹿げた、フザけている条件……呑まなくても構わない」
気が付けば彼女は頬から涙を少し、垂らしていて。
「いやいや、勿論。挑戦しますよ──その人に勝って見せますよ、私のことを好きにさせてやります!」
そこから一点。
大きくやる気を出す。
絢辻結衣。
「受けて立つ。好きにしろ」
そんな訳でひと段落……いや、波乱の幕開けってわけなのだけれども。
時計は既に四時一分を示していた。
「あ、やべ」
今回は短いです、すいません。