11 相談
「デ、デート? お兄ちゃんが?」
「ああ。実際僕はどういうモノなのか、いまいちピンと来てなくて……お前なら、女の子がどんな感じのデートがいいのか分かるだろうし。それで聞こうと思ったわけ」
「チカミニ……だ、誰と!?」
チナミニってなんだ。
因みにってこと?
ソファから身を乗り出し、僕に今にも飛びかかって来そうに元気な美波。
ツインテールの金髪が左右に揺れる。
「えーっと。舞と、絢辻ちゃん」
「二人!? もしかして……ダブルデートってやつなの! お兄ちゃん。いつの間に」
「いや、僕と舞と絢辻の三人」
「きゃぁぁぁああ!」
なんだよもう、うっさい。
僕はただ事実をつらつらと、聞かれた通りに答えてるだけなのに今にも卒倒しそうなリアクションを取りやがる。
オーバーリアクションだよ、それ。
「どれぐらい払ったの」
「何が」
「お金」
「何も払ってねぇよ……いやさ、僕だってこの状況に困惑しているんだ」
好きでこの状況になったわけじゃない。
だから。
「だから美波に相談してるのさ」
「ふーん、で?」
「で、って……」
「デートだけじゃ漠然とし過ぎてるよ、お兄ちゃん。具体的な答えが欲しいなら、具体的に聞かないと」
その通りだな。
諭されてしまったぜ、妹に。
「えーっと」
部活後の会話を思い返す。
三人でデートして、舞と絢辻ちゃんどっちが凄いか勝負しよう……みたいな話になって(あれ、そうだっけ?)。
で、場所はタッキーが決めてメールで送ってって言われて。
そうだ。
場所だ、場所。
何故言い出しっぺである絢辻ちゃんが決めないのかは甚だ疑問だが、デートってそういう事象なのだと割り切るほかあるまい。
ともかく質問すべき要項を見つけた。
「運動好きの幼馴染と、のほほんとしたクラスメイトの女の子とデートに行くなら、どこが良いかな。天気は晴れとする」
「お兄ちゃん」
「?」
「自分で考えろ!」
「ぐは」
ダイレクトヒット。
まさかの攻撃である。
「ってのはまたしても冗談でー、私は優しいからね。考えてあげるよ、ブルマの名にかけて」
何もかけてねーよ。
「ありがてえ、感謝するよ。スパッツの名にかけて」
コッチも同様であるが。
「そうだね。お兄ちゃんに似合うデート場所って言えば……うーん、遊園地とか」
「無理に決まってるだろ」
「知らないの? お兄ちゃん。遊園地に行った恋人は長い待ち時間で喧嘩したりして破局するんだよ」
「安易にお前を信用した僕が馬鹿だったよ!」
普通に破局させにきてるじゃん。
最悪すぎる。
ただ、僕や舞、絢辻ちゃんは破局もなにも、まだ付き合ってすらいないから関係ないのだけどな。
崩れるとしたら友情、それだけ。
いや、"それだけ"と表現するにはちと重過ぎるが。
「という訳で最初のハーレムデートに遊園地はナッシングってこと」
「水族館は?」
「私が嫌いだからヤダかなー」
美波が水族館嫌いって初めて聞いた。
名前にも海を連想させる『波』って感じが入っていて、本人も山か海なら、海って答えるのに?
「そうなのかよ」
「そーだよ。名前が嫌いなの。水族館。だって戝を推す反社──推戝館だよ? 嫌じゃん」
「何もかもが違うわ! 全ての水族館に謝れ!」
「あれれー、おっかしいぞー」
世界は何もおかしくねぇよ。
おかしいのは、妹一人だ!
「……はあ、やっぱり美波に相談したのは間違ってたかな」
「むむ。それは聞き捨てならないなあ」
「じゃあまともな案を出してくれ、ブルマフェチの妹よ」
「良いよ、スパッツフェチのお兄ちゃん」
美波は特に考えた素振りを見せなかった。言われてみれば気がつくような、そのような動作を一瞬だけ挟み、言う。
「そうだね。無難にショッピングモールでお買い物、それが良いと思うよ?」
と。
「ショッピングモールか」
「うん。二人ともお年頃の女の子なんだから、お洋服とか何やらお買い物が好きでしょ? ブルマ買ったりとかも出来るし」
「前者はともかく、後者は違うよな」
「それでさ」
兄の言葉はフル無視かよ。
「近場の所じゃなくて、電車で五駅ぐらい離れた所にある──大きめなショッピングモール分かる?」
「んん、なんとなく見当はつく」
「そこは室内アミューズメントパークも付いてて、運動とか出来たりするから運動部の女の子達となら楽しめると思うよ」
「おぉ……」
凄い。
凄い真面目な回答で逆に引く。
いや、こっちとしてはありがたいのだけれども……なんだろう。
この途轍もない違和感は!
「どう?」
「凄いまともな意見で感服致しました。美波ちゃん」
「いつもと態度が違うとやっぱ気持ち悪いよね、いや、気持ち悪いのはお兄ちゃんだからか」
「ブルマフェチには言われたくねー」
「は? それ全国のブルマファンを敵に回したんですけど!? ハングリー精神でアングリーなんですけど!?」
激怒されちまったぜ。
やれやれ。
怒りの閾値が低いってのも大変だな。
「なにその顔! 好きな物を馬鹿にされたら怒るのは、誰しも当然でしょ!」
「ごもっとも。……ごめんよ、妹」
「はあ」
「あとで何でも買ってやる。雀の涙みてぇな僕の貯金でな」
僕の貯金ってのは──お婆ちゃんや母の家事の手伝いをした時に貰ったりしていたお小遣いのことである。
部活一筋だった僕(適当にサボって、家でゲームしたりしてたけど)はバイトをまだ一度も経験したことがない。
「じゃあブルマ100着分ね」
「それは流石に……!」
「じゃあ新しいコスプレ、私が好きなの一着。それで許してあげるよ。お兄ちゃん」
そこらへんで妹の怒りは落ち着く。
どうやらコスプレを一着買わされることになってしまった。
まあ良いよ。
妹のコスプレ姿を見るのは面白いし。
前も言ったが可愛いは正義だ。
そういうことである。
それに、良いスポットも教えてもらったしな。
あ、そういえば忘れていた。
「なあ、妹」
「なに?」
「それで。一緒にお風呂に入るって話は──っぶぇ!?」
言葉は言いかけで止まる。
それはまるで仮◯ライダーのライダーキックの如く。僕は彼女に飛び蹴りをされて、吹き飛ばされてしまうのであった。
故に言葉は続けられない。
どうやら、妹とお風呂に入ることは叶わないらしい。
ぐぬぬ。
「変態なお兄ちゃんは大人しく、部屋でデートプランでも考えてなよ! スパッツを履きながら!」
倒れ這いつくばる僕を美波は見下ろしている。
妹よ、勘違いするなよ。
「一つ訂正点が……ある」
「なに」
「僕はな、スパッツは履く派じゃなくて、見る派……なのさ……」
そうして、僕は目を瞑った。
そしてそのまま意識は途絶え、汐留瀧は息絶えるのであった。
嘘である。




