10 妹とお風呂に入りたい
唐突だが、妹とお風呂に入ろうと思う。
汐留美波。
彼女は正直に言って可愛い。
可愛いは正義だ。
なので彼女の同級生である男子中学生から大人気らしい。噂によるとファンクラブまで作られているとのこと。
純粋にすげえ。
まあ、要するに。
つまり妹は兄である僕と違い、人気者なのである。
そりゃあ金髪ツインテール美少女なんて居たら、人気だよな……。性格は残念だが、それを差し置いても美波は人気になる素質がある。
なるべくしてなった人気者だ。
ファンクラブが作られるのにも納得がいく。
もっとも僕にはそれよりも愛すべき幼馴染がいるから、同級生に妹である彼女がいたとて、ファンクラブに入ったりは決してしないのだけれど。
もっとも、それは『たられば』の話。
もしもの話で、仮定でしかない。
汐留美波は汐留瀧の妹である。
その現実は揺るがない。
だから大丈夫。
彼女は妹だ。同級生ではない。
だから、一緒にお風呂に入っても……。
「馬鹿馬鹿ばーか! お兄ちゃん。流石にjCとお風呂に入るのは何らかの法律に違反しているよ!」
「法律には違反してないんじゃないか? 僕だって一応まだ未成年だし」
高校二年性。
ピチピチの17歳だぜ。
「そーいう問題を差し置いてもだよ! 変態!」
「同族嫌悪か」
「そーだけど!」
「そーなのかよ!」
さて、状況を説明させてもらおう。
いや……わざわざ説明しなくても分かるかな? 家に帰宅後、いつものようにご飯を作って食べ終わった僕たち兄妹。
暇だったので妹に『お風呂、一緒に入らないか?』と誘ってみた訳である。
高校二年男子が中学三年生(言い損ねていたが、彼女は受験生である)に。
で、今に至る。
リビングにて。
ソファに座る妹。
その後ろに立つ僕がいた。
「ともかく、やだよ! というか暇だったからってお風呂に誘うとか頭おかしいー!」
「むう」
「というか私は暇じゃなかったし!」
おかしいな。
僕がコイツをお風呂に誘った時……リビングでテレビを見ながら変なポーズを取っている記憶しかないのだが。
あれを暇と呼ばないで、何と呼ぶのか。
「じゃあ何してたの?」
「ブルマ履いてー、次はどんなエロコスプレしようかなあって考えてた。悟ってたって言ってもいいよね」
「やっぱり暇じゃねぇか!」
「はい怒った! ハングリー精神でアングリーだよ!」
「前々から思ってたけど、どういう意味だよそれ!」
履いているブルマを整えて、体操服姿の妹が指差ししてくる。
トランクス一枚で上半身裸のコッチに対し。
「怒っているけど、全然怒り足りない……激怒の意だよ」
「激怒だったのかよ」
とすると、美波は激怒ばっかりしている。
確かに思い返せばそんな感じだが。
すげえ短気。
彼女が怒る原因の大半は、いや、全部は僕が作り出しているみたいなもんだけれど!
「そうだよ。私とお兄ちゃんは仲が悪いからね」
「そうなの!?」
それ、ガチめにショック。
「嘘だよお兄ちゃん。大好き!」
「まじかよ!?」
それ、ガチめにショック死。
嬉しすぎて。
両手でハートの形を作り、僕に向けてアイドルのように撃ち放つ美波──流石、ファンクラブ持ちなだけある。
このjC、只者じゃねぇぞ!!
「とかくともかく、お兄ちゃん。それで何用?」
「だから、一緒にお風呂に入ろうって」
「本当はそれだけじゃないでしょ?」
さっきとは早変わり。
真面目なトーンで聞いてくる。
「お風呂に入ろうってのは建前で──実際は、何か別の目的があるんじゃないの」
うん。
流石は僕の妹だった。
変なところに勘が利いている。
根拠はないけど確証はある──そんな矛盾を孕んだ確信。
確かに当たっていた。
図星。
お風呂に妹と入りたい。
その欲求はあくまでも建前だった。
「まあ、そうだけど。妹と一緒にお風呂に入ろうとなんて考えの八割ぐらいだったし」
「八割なんだ」
「残り二割はそう、女の子にしか相談できないだろうなって考え」
「女の子なら舞さんにお願いすればいいじゃん! 私みたいな天才じゃなくて!」
「お前、僕の幼馴染をさりげなく馬鹿にするなよ!? つーか、お前は天才じゃなくて天災だよ」
「違うよお兄ちゃん、私は動画の無断転載だよ」
「犯罪者じゃねーか」
「ただし教育機関において」
「合法だった!」
でも、変態である。
とまあ、うん。
相変わらず口先だけは達者だよな、まじで。
かわムカつくシスターだよ、本当にさ。
かわムカつく、というのは……可愛いとムカつくの合成語である。
知らんけど。
「それで、相談ってなに! 女の子(可哀想なことに、女友達が少なく妹にしか)にしか出来ない相談って!」
「ずばり」
僕は今日の放課後を思い出す。
不服ながら妹に相談せざるを得なくなった経緯。
陸上部に入ってから約一週間が経った今日。
木曜日。
もう少しで冬休みに入る、この日に。
マネージャーとなる新たな生徒が入部した。
僕のクラスメイトであり、バレー部で主将を務めていた『絢辻結衣』だ。
そして汐留瀧に告白してきた人物でもある。
彼女はのほほん系である。
決して行動力が強い方ではない。
だってのに、彼女は……部活終わり、幼馴染がいる前で言ってきたのである。
どこからその情報を聞いたのかはともかく、言ってきたのである。
『私のことを好きにさせに来ました。舞さん、"タッキー"の恋人になるのに私とどちらが相応しいか、3人でデートして決めましょうよ』
なんて。
──いやはや、幼馴染に告白したのは僕の方からなのだが……って感じ。相応しいかとかは僕が決めることじゃねぇ! って大前提がある。
だが勘違いしている絢辻ちゃんは、まるで聞く耳持たずだった。
舞も驚きすぎて、唖然として何もリアクションしていなかったので、なあなあでその提案が承諾されてしまうことになったし。
その現実は仕方がなく受け止めるしかないようだった。
そんな訳で長々と説明したが要するに。
「女の子とのデートって、何すれば良いんだ?」
僕は言った。
変態な妹に元気よく。




