第31話 動物が僕の救い
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千葉での僕の寮には同期が住んでいた。
だが彼はすぐに異動になり引っ越していった。
そして僕は彼が使っていた部屋の方がいい部屋だったので、家の中で引っ越しをした。
ただの部屋替えだが。
ある日僕はライバル店に来ていた。別に市場調査ではない。
ただ買い物に来ていただけだった。
僕はホームセンターに行くと必ずペットコーナーに行く。
そこにとても可愛らしいフェレットがいたのだ。
元々も実家にいたときからフェレットの存在は知っていたし、近くのホームセンターにいたフェレットに自分の中で名前を付けて愛でていたこともあった。
だが、その子は違った。
運命を感じたのだった。
定められた予定されていた、幸運だったのだ。
僕らは出会った。
そこに金銭のやり取りという無粋な過程を経ることになってしまったのだが、僕はその子を迎え入れた。
そしてそれは同期がいなくなった次の休みだった。
フェレットは多頭飼いができる動物で、ペットショップなどでも同じケージに複数が入れられているのが普通なのだが、あの子は一人でケージに入っていた。
理由を尋ねると、あまりに狂暴すぎて一緒に入れられないからとのことだった。
そのため、他の子たちより一万円も安く売りに出されていた。
僕は一目見た瞬間から購入を決めていた。
それが安くなっているのだから嬉しいことではあるのだが、その子が蔑まれているようで嫌な気分になった。
そして僕は飼育に必要なもの一式と、その子を連れて家に帰った。
そこからの生活はすごく楽しかった。
寝ても起きても、仕事から帰ってもあの子がいる。
無意識に死んだように生きていた僕の生活が一変したのだった。
ちなみに、僕があの子と会う前に本当にどうにもならなくて、すごくつらい時期があった。
彼女ともうまくいっておらず、仕事では毎日のように反省文を書かされ、それもあって仕事が終わらずまた怒られて反省文。早出で出勤しても閉店までいるのも当たり前。遅出で定時に出勤すれば反省文。
そんな日々が続いて限界だった。
僕は人に頼ることが苦手だ。
だが、この時は勇気を出して彼女に頼ってみようと思った。
頼り方がわからなかった僕は、「助けて」と彼女に言った。
彼女は冗談とは思っていなかった。
真剣に考えたような間があった後、「私には彼がいるから助けられない」といった旨の言葉を言われた。
恐らく人生で初めて自力ではなく人に頼る選択をした。
だが断られた。
つくづく僕は人に頼ることが許されていないと思った瞬間だった。
これをきっかけに僕は吹っ切れた。
やはり自分でなんとかするしかない。他人は頼りにならないのだと。
このこともあり彼女とは自然と距離を置くようになった。
だがまだ彼女との関係は続いており、僕は彼女が好きだった。
いや、深いところではすでに、或いは最初から好きなどではなかったのだ。
つらい日常の中で、羽を休めることができる場所が必要だっただけだったのだ。
そして僕にとって彼女はオアシスでも、エデンの園でも、綺麗な花ですらもなかったというだけのことに気づいたのだ。
繰り返すが、そうして辛い日々を何とか前向きに過ごしていた最中、僕はあの子と出会い共に生きる選択をした。
そしてその日から僕の人生は劇的に変わった。
あの子はすごく狂暴だった。
僕は毎日どこかを必ず出血を伴うケガをしていた。
すごく強く噛まれるからだ。
あの子が僕の首元に近寄ってきたら、噛まれたら死んでしまうかもしれないから飛んで逃げる程だった。
だが、お風呂の時だけは形勢が逆転した。
お風呂をすごく怖がっており、震えあがって抵抗しなくなるのだ。
後々そんなこともなくなるのだが、唯一やりたい放題できる時間だったので、僕はあの子とたくさんお風呂に入った。
半年ほどしたある日、僕は諦めの境地に入っていた。
あの子と触れ合うことはできない。本当はいっぱい触りたいが、あの子が嫌がっているのだろうからもう諦めよう。遠くから愛でているだけでも僕は幸せだ。
今まで、噛まれたら心を鬼にしてかなりきつく怒っていた。
しつけとして怒り、あの子に見えないところで「怒ってごめんね」とかなり落ち込んでいた。
だが諦めた時からなぜか僕に触らせてくれるようになった。
甘噛みも覚え、僕らは触れ合えるようになった。
あの子も大きくなって分別がついたこともあるのだろうが、僕はとても嬉しかった。
それからは僕が家にいる間は昼夜を問わずずっと同じ空間にいた。
ケージの中には僕がいないときだけ入れた。
ちなみに、後々は不在時でもケージを開けっ放しにして好きに出入りさせるようになるのだった。
自由にやりたいようにさせていた。
絶大な心の拠り所となっていた。
あの子がいなければ僕は彼女と仕事の沼から抜け出せなかっただろう。
あの子と暮らす半年の間に、僕は仕事を覚えて理不尽以外で怒られることがなくなり、彼女との関係も終わらせていた。
そして心に余裕ができた僕は、家の裏にあるバーに毎日通い、マスターにお酒のことを色々と教わっていた。
そこは片田舎のバーであり、脱サラおじさんが細々とやっているバーだった。
僕が行く時間にはいつもお客さんがいなかった。
マスターと二人でお酒の話をし、30分もしないうちに帰る。
そして家でもカクテルや色んなお酒を試すようになった。
そうして気が付けば僕は立ち直っていた。
僕自身の努力もそうなのだが、今回は完全にあの子のおかげだった。
僕の運命の出会いはあの子だった。
34歳の僕の元からはいなくなってしまったあの子。
僕はまたあの子と会うことができるのだ。
あの子の幼少期から、9年に渡る長きを共に過ごせるのだ。
神様、ありがとう。
僕は再びあの子と過ごせる時がもらえただけでも幸せだ。
だが、再びあの子との別れがくることに絶望もすることだろう。
それでも、再び過ごすこの時を僕は噛み締めて生きなおす。




