第2話 転校、親友との別れ
僕は今9歳だ。
この歳、僕は転校することになる。
それほど遠くないところなのだが、県を跨いでしまうこともあって、9歳の僕や友達にとってはそれはもう今でいう異世界へいくようなものであったと記憶している。
この歳、僕は1つの後悔を残してしまった。
恐らく親友と呼べるであろう友達と、しっかりと別れられなかったことだ。
僕は不安だったのだ。怖かったのだ。寂しかったのだ。
そして、楽しみだった。
親友を捨て、遠い異国の地に行く心持ちではあったのだが、新天地でどんな暮らしが僕を待っているのか、期待に胸を馳せていたのだ。
そのことが罪悪感となり、ただ時が過ぎていくだけの別れをしてしまった。
その罪の意識か、親友を失った喪失感からか、僕には新天地にきてすぐに親友と呼べる存在ができた。
意識はしていなかったが、恐らく寂しくて無意識に求めた結果だと思う。
そしてその縁は今もなお続いており、僕の人生を彩ってくれていたのである。
今もなおという表現は今となってはいささか可笑しな話ではあるが。
僕は今選択を迫られている。
9歳の親友との時間を設けることが、今の僕にはできる。
過去の後悔をなくすことが、今の僕にはできるのだ。
そして僕は34歳、大手企業管理職の頭脳を持って今ここに立っている。
9歳の男の子一人、いや僕を含めて二人、わだかまりなく別れを演出することなど容易いのだ。
あの時は気づかなかったのだが、転校が決まってから、そのことを伝えてから、彼は僕をずっと見ていた。その目には惜別の念が込められている。
彼の意志を知り、9歳の男の子に今、34歳のおじさんが泣かされそうになっている。
(ごめんね、僕は行ってしまう。そして今回もまた、君としっかりお別れをせずに。いや、わかっている分前回よりもひどいか…)
そう思いながら僕は一度目と同じ選択をしたのだった。
そうして来た新天地で、新たな親友の顔を一目見た瞬間、
34歳の僕は涙を流したのだった。