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食欲

作者: 宇水美真

楽しんで頂けたら幸いです。

食欲


物凄い空腹で目覚めた男は、その日職場へ行かず有給を消化した。

冷蔵庫の中のすぐに食べられる物やお菓子類は食べ尽くした。

お茶やコーヒーも飲めるだけ飲んだが足りなかった。

(何だろう?こんな日もあるさ)

男は外食しようと頭の中で食堂を探してみたが、まだ開店していない時間帯だった事に気付いた。

外出して近くの喫茶店へ入る。

4人掛けのテーブルへ座り、それでも最初は控えめにモーニングセットと和風スパゲティだけにしたが、耐えられず矢継ぎ早にホットケーキとアイスクリームも注文し、届くと一気に平らげた。

あとはそこにあるメニューの食べ物や飲み物を食べ尽くした。

いつの間にか周囲に人垣ができて騒ぎになっていたが食欲は満たされなかった。

「お客様、大丈夫ですか?」

その喫茶店のマスターらしき人物から声をかけられたとき背後に警察官を認めて、事態が深刻になってき始めている事を悟った。

だがこの空腹は食欲はどうしようもなかった。

(腹が減ってるんだ!)

男はテーブルを倒すような勢いで立ち上がるとマスターと警察官を突き飛ばし、人垣を掻き分けながら財布から2万円を投げ捨て、その喫茶店から出た。そして次は近くのファミリーレストランに入りなるべく目立たない席で2品ずつ注文し食べ続けた。

しかし、それもすぐ限界が来た。(食い物が足りない!)

あっという間に6品を食べたところで会計を済ませて店を出た。

(まだまだ空腹だ!)

さっきいた喫茶店の方角から二人の警察官が駆けてくる。

(腹が減ってるんだ!誰か助けてくれ!)

警察官たちは「公務執行妨害!」と大声で冷静に告げてから男の体を地面へ押さえつけ、肩から腕を捻った。

その間も空腹は増すばかりだった。

押さえられながら体格のいい警察官がうまそうに見えた。男はその警察官を食べた。もう1人の警察官はひたすら「公務執行妨害」を繰り返すばかりでそのうち股間を濡らし小便を漏らした。

警察官は美味かった。

そのあとは際限が無かった。

ファミリーレストランを食べ、街を食べ、関東を食べ、日本列島を食べた。

そこで一息つき冷静になると、男は巨大化していた。頭がでかい。それは2頭身のばけものだった。

マントルの奥にシャンバラらしき世界が覗いたが、それも食べた。

もうどうでもよかった。

海や湖で渇きを鎮めつつ地球を食べ尽くした後、手近なのは月しかなかった。月は一口でいけた。

その次は火星だった。

火星の次は小惑星帯。

ただ口を開けているだけで次から次に小惑星が入ってくる。

それにまだ木星や他の惑星もある。

太陽系が滅んだのは人類の預かり知らぬ頃。

男は銀河を見つめていた。

どうでしたか。

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