ジャックVSニコライ 後編
互いに相手の挙動に気を配りながらも、再び状況は動き出す。
先に動いたのはニコライだった。
彼は拳を握り締め、ジャックに殴りかかる。
「そらっ!」
ジャックはただのパンチ程度、防ぐまでもないと構わずカウンターを狙う。
「ぐっ!?」
しかし先程の蹴りがもたらした負傷を思い返し、彼は剣の腹でニコライの拳を防いだ。
ガキンと言う、通常の殴打にはあり得ない金属音が鳴り響き、その音を聞いたジャックは確信を以て口を開く。
「テメェ、仕込んでやがるだろ。」
「…………。」
「都合の悪ぃ事はだんまりってか。だがその沈黙は『はい』って言ってんのも同然だぜ。」
ジャックの追及に対し、ニコライは沈黙を貫く。
しかし彼の沈黙は肯定であり、その姿を見たジャックはにやりと笑って彼の拳を振り払う。
「ふん。たとえそれを暴いたとして、どう防ぐ?私の手札は無数にある!」
「んなもん決まってんだろ。使わせる前にテメェを倒しゃあ良いんだ、よ!」
それでもニコライは不敵に言ってのける。
事実、ジャックはニコライが暗器を仕込んでいる事を暴きはしたが、何をどこに仕込んでいるか全てを把握した訳では無い。
把握した訳では無いが、不意を突かせない為にも、ニコライに暗器を使う隙を与えない為にも、ジャックは怯む事無く投石を続ける。
「私も部下も、二度同じ手は喰わない!それに加えて、もう足元の瓦礫は打ち止めのようだぞ?隙を晒して床を叩き割るか?」
ニコライと彼の部下はジャックの投石を躱し、弾き、遂に彼の足元には投げる事の出来る床の破片は無くなってしまった。
先程はジャックが床を斬り砕いても彼は見ているだけだったが、次はそうもいかないだろう。
隙を晒した瞬間、ナイフが飛んでくるのは火を見るよりも明らかだった。
「その必要はねぇよ!後はテメェを叩き斬るだけだ!」
「片腕を怪我した状態でよくそのような事がのたまえるな!」
ジャックはニコライを攻め立てるも、攻撃は当たらない。
彼の腕はニコライの暗器によって負傷しており、今も尚、どくどくと出血が続いている。
そんな状態では先程よりも動きが鈍るのは当然の事であり、ニコライは斬撃を難なく躱し、その度に小刻みに、しかし有効打には成り得ない程度のカウンターを入れて行く。
徐々に傷の増えるジャック、まだ傷を負っていないニコライ。
戦いの趨勢は後者に決するかに思われた。
しかし……
「なっ!?」
「こいつで仕舞だ!」
ニコライは回避のタイミングでバランスを崩す。
ジャックの投げた床の破片は誰にも当たらなかったものの、ここで彼の足元を掬ったのだ。
ジャックはその隙を見逃さずに片腕で剣を振り上げる。
それに対し、ニコライは致命傷を避ける為、咄嗟にナイフをかざして防御しようとした。
「いいや!まだ、だっ!?」
しかしニコライが防ごうとした剣が迫る事は無かった。
眼前の敵を睨んでいた彼の視界は朱に染まり、動揺する。
彼に迫ったのは剣ではなく血液だった。
ジャックは自身の腕から滴っていたそれを目つぶしに用いたのだ。
「言ったろ、こいつで仕舞だってな!」
「ぎゃあぁぁぁ!!!」
そして視界を奪われた彼にジャックの攻撃を見切る術は存在せず、致命の一撃はその身に刻まれた。