ジャックVSニコライ 前編
時は遡り、ジャックとニコライが戦いを繰り広げる玉座の間にて。
「うおぉぉるあぁぁ!」
「馬鹿力め!」
ジャックの一撃をニコライが避け、
「はっ!」
「効くかっての!」
ニコライの攻撃をジャックが防ぐ。
互いに決め手の無い千日手のような攻防が続く。
「おいおい、このままだとリョータがジョセフをぶっ倒しちまうぜ?足止めされてて良いのかよ?」
「ふっ、見え透いた挑発など無意味だな。同志があのような小僧に負ける?それこそあり得ない話だ。」
ジャックは半分は本音、半分はニコライを揺さぶる事を目的に軽口を叩くが、ニコライは揺るがない。
ジャックがリョータを信じているように、彼もまた自らの主の安全を確信していた。
「だが、貴様程度に軽んじられると言うのも愉快な話では無い!はぁ!」
「はん!そんな蹴りが今更効く訳、ぐっ……!?」
ニコライはナイフではなく脚を使った攻撃、頭部を狙ったハイキックを放ち、ジャックはそれを左腕でガードする。
確かに常人であれば、ニコライの蹴りは有効なダメージに成り得るだろう。
しかしジャックの筋肉の鎧を貫けるほどに鋭い物では無かった。
無かったにも関わらず……
「おや?それにしては随分と苦しそうな表情を浮かべているね。」
「こんのぉ!」
「おっと危ない。」
彼の表情は苦悶に歪む。
ニコライのハイキックを防いだ腕からは鮮血が滴り落ちているのだ。
空いた片手で剣を振るい、ニコライを切りつけようとするも、彼はバク転で危うげなく回避する。
「テメェ……!何をしやがった!」
「おぉ、怖い怖い。野蛮な猿に威嚇されては恐怖のあまり震えてしまいそうだ。」
「ふざけてんじゃ、ねぇ!」
「先ほどよりも動きが緩慢ではないかな?」
ジャックはニコライを睨みつけ、吠え掛かるも、彼にはどこ吹く風だ。
それどころか手元のナイフを空中で回転させ、手遊びしながら心にもない事を言っておどけて見せる。
それに対し、ジャックは怒りながら剣を振るが、彼にはいとも簡単に躱されてしまう。
「そんな体たらくで大丈夫か?そらっ!」
「はぁ?どこに向かって投げてっ!?」
「生憎と一対一にこだわる必要は無いのでね。」
「ちぃ!クソ野郎が!」
ニコライは突如、ジャックのいる方向とは全く別の方向にナイフを投擲する。
それを見たジャックは一瞬呆れるも、飛翔した凶刃の先を理解し、目を見開いた。
ナイフはニコライの部下と戦っていた兵士の首を横から貫いたのだ。
兵士は声すら上げられず、何が起こったのかも理解出来ず、地に倒れ伏す。
戦力の均衡は崩れ、状況は確実に動き出そうとしていた。